「遥香には言っていないことを感謝することだな」
そう言った池田の真意を窺おうと、吐き気のする至近距離で顔を見る。
「分からないのか?初心な女もそそるな……愛人になると、次には言えよ。ここでこれ以上話していると邪魔が入る」
これ以上ない勝手なことを言ってから、池田は車へ乗り込んだ。
「最低以下だわ……」
やっぱり私に、まだ休日はないようだ。
遥香にバレるのも時間の問題……
そう思った私は自室に戻ると、作戦の第一段階を決行した。
それは
【奴隷家政婦】
というアカウントで、これまでの遥香の仕打ちを投稿すること。
この段階では、顔や名前を伏せ、遥香の特定も私の特定も出来ない短い音声を流す。
第一回目
『「返事は?黙って動くなっ!」
「っ……たっ……」
「痛がる前に、謝罪でしょ?」』
第二回目
『「22だって。若いのに、人に使われることが仕事なんて惨めよね。まあ、立派に使えるように私がしつけている最中」』
第三回目
『「何をやらせたって私の勝手でしょっ⁉」』
なんの説明も添えず、ヒステリックな叫びが聞こえるだけの投稿は、毎晩チェックする度にビューもフォロワーも増え続け、再投稿されることも増え、またフォロワーが増える。
“勘違いのイタイ女”
“これを現実にやる人がいるんだ…”
“ダメなやつって思いながら、次に期待してしまう私は性格悪いね(笑)”
“オレガオマエヲしつけてやろう”
“傷害事件が含まれてるやん”
“奴隷家政婦ちゃん、負けるな!”
コメント欄を見ながら
「もっともっと増えてから晒してあげる……」
と、私は次の投稿をした。
『「アメニティの歯ブラシが……お土産?」
「アナタにはそれくらいで十分」
「……はい、ありがとうございます。失礼します」』
また賑やかなコメントが多数寄せられた翌日
「真奈美」
また池田が来た……暇なの?
「遥香様をお呼びします」
私は玄関に彼を置いて階段を上がり始めると、後ろから池田の気配を感じる。
「俺の愛人になるな?」
「なるわけありません」
「バカな女」
私は前を向いたまま、池田のことはいつ投稿しようかと考えた。
コンコンコン……
「池田様がお見えになりました」
「開ければいい」
勝手に池田がドアを開けると、遥香は小さなテーブルにお菓子を出しているところだった。
「このお菓子、ワインに合うってもらったの。試してみない?」
「ワインまで用意して、写真撮る気だな?」
「そうよ」
「俺、車」
「誰か呼べばいいじゃない」
「そうだな。面白い話もあるから乾杯しよう」
ドアを閉めようとしていた私を、池田がいきなり指さしたかと思うと
「遥香、中学の時、冤罪事件を起こしたって?その相手、真奈美の父親」
と何の躊躇いもなく、言ってしまった。
コメント
3件
はぁ〜😓😓😓 篤久様助けてー😭
あれの反応は?池田😠サイテー過ぎる!!許さん、マジで許さん👊
はっ?なに?言った?こいつほんっとに… 真奈美ちゃん!どうする?奴隷家政婦を始めてあれらの転落へのカウントダウン奈落の底へようこそ!が始まったばかりなのに… この危機をどうクリアする!真奈美ちゃん引き下がっちゃダメ! あれは、あっそうで終わるか… 池田〜覚えてろっ!!!