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戸を叩く
入ってもいいのかな?
「来たんだ。津島の話は伝わってるかい?」
はいとも答えずに、この人とお兄ちゃんは関係なかっただろなんて思っていたら
「君のお兄さんから預かっていてね。これなんだけど…」
ハッとした
こんな人に預けてたなんて…
分厚い書類には『親愛なる弟、里見弴へ』とあった
懐かしい、兄貴の字だった
もうそれだけで泣いてしまいそうだ
「君に…読んで欲しいらしい。自殺する前日に渡してくれって」
嘘だろ…お兄ちゃん…
書類の束を抱え、部屋に駆け込む
弴へ。
この手紙を読むとき、君はきっと私を責めるだろう。
あるいは、責めることすらできずに、ただ黙って紙を見つめるかもしれない。
そのどちらであっても、私は受け取る。
私は長いあいだ、
「生きること」と「思想であること」とを、同じ重さで秤にかけてきた。
だが気づいてしまったのだ。
私は、思想のほうに自分の命を預けすぎた。
君はいつも、私より少し遅れて歩きながら、
それでも私を追い越そうとはせず、
ただ同じ道に立ち続けてくれた。
その背中を、私はどれほど頼りにしていたことだろう。
私は弱かった。
理想を語るくせに、現実の呼吸に耐えきれなかった。
君はそれを知っていただろう。
だからこそ、私は君に何も言えなかった。
君に、背負わせたくなかった。
私の迷いも、私の結論も。
だが今になって思う。
それは優しさではなく、ただの逃げだったのだと。
もし私が生きていれば、
君と、もっと口論をしただろう。
もっと、互いに傷つけ合い、
それでも並んで歩けたかもしれない。
それを選ばなかった私を、
君は軽蔑していい。
それでも、君にだけは知っていてほしい。
私は、君の書く言葉を信じている。
君の生き方を、信じている。
私が行けなかった場所へ、
君は行ける。
どうか、私の分まで、などとは言わない。
ただ、君自身の足で、
君自身の言葉で、生きてくれ。
私は君に救われていた。
最後まで、そのことを言えなかった。
それだけが、私の悔いだ。
武郎
お兄ちゃん…
いつもそうだ。
強い言葉で語って、そのくせ、肝心なところは何も言わずに、
一人で決めてしまう。
でも…
それでも…それでも、進んでいた道に…
僕が並んでいることとそこから先は僕が選ぶってことの重さを…感じてしまうんだ
お兄ちゃん
そのまましばらく泣き続けているところを司書に見つかった
お陰で手紙はぐちゃぐちゃになったけど…思いはちゃんと受け取ったよ、お兄ちゃん
P.S.書いてて泣く