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ー登場人物ー
ルシアン・ヴェイル
リリア・クレイン
第1話 入学式ー再開ー
鐘の音が、春の空に響いていた。
王立アルセーヌ魔法学院の門をくぐる瞬間、リリアは小さく息を呑む。
「今日から……ここが、私の舞台。」
胸の奥が熱くなる。
長い旅の終わりであり、夢の始まり。
だってーーー
この学園には、”あの人”がいるから。
重厚な講堂の扉を押し開けると、すでに入学式の準備が整っていた。
壇上の中央、黒衣の裾を静かに揺らす人物。黒と金のメッシュの髪に、深い蒼の瞳。
ルシアン・ヴェイル。
彼女の師であり、かつてのすべてだった人。
「やっぱり、変わってない。」
リリアは思わずつぶやく。
その横顔は、昔と同じ。
冷たく、まっすぐで――だけど、ほんの少しだけ優しい。
やがて彼の声が響く。
「諸君。今日から君たちは、魔法という理を学ぶ者だ。」
淡々とした言葉。
けれどリリアの耳には、懐かしいあの声音の温度が確かに届いた。
かつて毎日、隣で聞いていた声。
彼の瞳が一瞬、聴衆の中の彼女をとらえる。
ほんの一秒もない。
でも、確かに見ていた。
弟子の成長を、静かに確かめるように。
――それだけで、胸がいっぱいになる。
式が終わり、ざわめく生徒たちの間を抜けて歩き出したとき、
背後から低い声が落ちてきた。
「……よく来たな、リリア。」
振り向けば、ルシアンがそこにいた。
微かに笑っているような、けれどすぐに表情を戻す。
「学院では“先生”と呼べ。」
「え、あ……その……」
「師としてはお前を育てたが、ここでは立場が違う。」
言葉は冷たい。
でもその瞳は、どこか誇らしげに揺れていた。
「……はい。ルシアン先生。」
その瞬間、彼の口元がわずかに動いた。
笑ったのかもしれない。
けれどリリアが確かめる前に、彼は背を向け、去っていく。
残された空気に、微かな香りと記憶が混ざる。
――いつか、あの背中に追いつくために。
リリアは胸の中でそっと呟いた。
「待っててください、先生。次は、私があなたを驚かせます。」
→第2話 放課後の教室ー不器用な慰めー