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6 - 純愛とは身に余る 🇬🇧🇫🇷

♥

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2023年11月05日

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🇬🇧🇫🇷と書きましたが🇬🇧🇫🇷なのか🇫🇷🇬🇧なのか解釈は様々だと自分では思っております。

どっちもいいですよねほんとにここ……

***

───貴方の描く繊細な絵が好きなんです。

貴方の繊細な世界が好き。

貴方が絵を描いているときの姿勢が好き。キャンバスへと丁寧に筆を下ろすときの真剣な瞳。絵から感じられるその情熱は、貴方の性格をそのまま投影しているようで───。

🇫🇷「なに。また来たの」

キャンバスに向かって筆を動かしていた手を止め、アトリエを訪ねてきた人物を振り返る。

🇫🇷「───イギリス。」

心底不快そうな表情をその顔に浮かべていた。

🇬🇧「おや酷いですね…とっておきの紅茶も持ってきたんですけれど」

からかって泣く真似をして見せると、フランスはますます眉根に皺を寄せた。

そんな反応を見せるフランスも、心の底から私を嫌がっている訳では無いのだ。その証拠にアトリエへと入る戸の鍵は開けてあった。

誰かが入ってきてもいいように。

この場所を知っているのは私だけだというのに。

🇬🇧「どうせ朝からずっとこの調子なんでしょう。そろそろ休憩にしたらどうです」

🇫🇷「はぁぁ、そうしようかな。誰かさんが来たせいで集中力切れちゃった」

フランスが椅子から立ち上がって背を伸ばし、欠伸を零す。

🇬🇧「それは済みませんね」

いつも通りの調子のやりとりに私は薄く笑った。そしてふたりで休憩できるスペースまで移動する。去り際に、ちらとキャンバスに目を向けた。まだ白地の残る描きかけの絵だ。

この絵が完成したら、どんな世界を私に見せてくれるのだろうかと胸が躍る。完成するまでの時間が待ち遠しい。

立ち止まっていると、前方から自分を呼ぶ声がした。

🇫🇷「イギリスってば。紅茶淹れてよ」

🇬🇧「はいはい。わかりました」

カウンターになっているキッチンに入ると、慣れた手つきでティーポットとカップを取り出す。カップは紅茶の色の映える白色。

水を火にかけて温める。

フランスはいつもの席に着き、その姿をぼんやりと眺めていた。

暫くしてからこぽこぽと水の沸騰する音が聞こえはじめた。ティーポットに一度そのお湯を注いで温めてから2人分の茶葉を入れる。

沸騰したてのお湯をポットに注ぎ、すぐに蓋をして蒸らす。この時お湯は勢いよく入れるのがコツだ。

🇬🇧「ミルク入れます?」

🇫🇷「今日はいらない」

細かい茶葉なので蒸らす時間は3分程度。

🇬🇧「……なんですかそんなに見つめて」

先程から見つめてくるフランスにそう聞くと、珍しく含みのない真っ直ぐな答えが帰ってきた。

🇫🇷「別に。イギリスが紅茶淹れてるところ見るの好きだなって」

だから自分も言ってやりたくなったのだ。フランスの顔を見ないように、手元に視線を落として言った。

🇬🇧「…私も好きですよ。貴方の絵を見るの」

🇫🇷「え?」

ポットの中をティースプーンでひと混ぜ。そして最後にカップへ紅茶を注ぐ。濃さが均等になるよう慎重に回し入れる。慣れきったはずの動作なのに、覚束なくなってしまうのは柄にもないことを言ったせいだ。

🇬🇧「ほら、できましたよ」

平静を装ってふたつのカップをテーブルまで運ぶ。

🇫🇷「…ありがと」

私もフランスの隣に腰かけて紅茶を一口飲んだ。心地よい渋さが口いっぱいに広がって、爽やかさが鼻に抜ける。

いつも通りの、お気に入りの味。

フランスのお気には召しただろうかと隣を見る。

🇫🇷「なに?」

🇬🇧「ふふ、いいえ何も」

素っ気ない態度だが、その表情が何を意味するのかわかっていた。

だから何も言わない。

🇫🇷「なんだか今日の君おかしいよ」

🇬🇧「失礼な。紅茶の出来だっていつも通りですよ」

フランスは長い足を組みかえて言う。

🇫🇷「……さっき言ってたやつ」

どきりとした。矢張りあんな柄にもないことを言うべきではなかった。寄りにもよってフランスの前で。

🇬🇧「なんです」

🇫🇷「僕はさ、イギリスが紅茶を淹れてるとき以外の姿も好きなんだ。こうやって僕の隣に居る君自身がなにより好き」

私はカップを机に静かに置いた。

🇬🇧「…ちょっと待ってください」

そう言い制止しようとするも、フランスは構わずに続けて口を開く。

🇫🇷「君が好きなのは僕の絵だけ?僕自身は好きじゃない?」

一際大きく心臓が鳴った。そんな事を言われてしまっては素直に話す以外選択肢がない。

フランスは俯きがちに私の返答を待っている。もうずっと一緒に過ごしてきて、そんな表情を見るのは初めてだった。

🇬🇧「貴方も今日は随分とおかしいですよ」

🇫🇷「…そうだね」

私も私だ。毎日のようにこのアトリエに通っている。恋は盲目とはよく言ったものだと思う。夢中になりすぎてここまで気づかなかったのだから。

知らないうちに、もうとっくの昔に、いっそ出会ったあの日から、私は貴方に落ちているのかもしれない。

🇬🇧「貴方の絵が好きです。その繊細な世界が。でも、それを見せてくれる貴方がなによりも好きです」

───彼との初めてのキスは紅茶の心地よい苦味がした。

***

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コメント

5

ユーザー

読めば読む程心に染みてくる...イギフラの安心感好きだぁ

ユーザー

ファーストキスは紅茶のあじ、、、

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