テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第1章 第5話「声の力」
練習試合から数日後。柳城高校野球部のグラウンドには、いつもより熱気が漂っていた。
試合で小早川啓介が見せた声とリードに刺激を受け、上級生たちの姿勢がわずかに変わり始めたのだ。
「ランナーコーチの声が小さい! 走者に届かんぞ!」
ノック中、城島監督が鋭い声を飛ばす。
「野球は“声”で変わる。全員でつくるスポーツだ。小早川、あの日の声を、もっとチームに広げていけ。」
突然名前を呼ばれ、啓介は少し驚いたが、深くうなずいた。
「はい!」
すると練習の最中、今度は3年の田村が啓介に声をかけてきた。
「お前、あの試合のリード……悪くなかったぞ。もう一度受けてくれ。」
エース格の先輩が、自ら1年生に頭を下げてきたのだ。
啓介は胸が熱くなった。
(僕の声が、少しずつチームを変えてる……?)
その日の紅白戦、啓介は田村のボールを受け続けた。
相手打者の癖を見抜き、外角低めにミットを構えると――三振。
マウンド上の田村が思わず笑顔を見せた瞬間、ベンチからも大きな拍手が起きた。
試合後、グラウンド整備をしながら城島監督は静かに言った。
「勝つことだけがすべてじゃない。だがな……“変わること”ができるチームは強くなる。」
夕暮れのグラウンド。スパイクの音と共に、選手たちの声が途切れなく響く。
それは、数週間前の荒れたチームにはなかった光景だった。
啓介はトンボをかけながら、胸の内で小さくつぶやいた。
(俺は、この柳城を……必ず変えてみせる。)