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63 ◇有馬温泉
そうこうしているうち、暦は12月に入っていた。
師走の風は容赦なく街を吹き抜け、誰も彼もが何かに急き立てられるように駆けてゆく
吐く息は、白く凍てつく年の瀬……。
そんな折、まほりは、1月の2日から一泊二日で温泉に行こうと蒼馬から誘われる。
それは、仕事帰り一緒にカフェへ行った時のことだった。
自分が彼から泊りで誘われるのは、個人的に親しくなってから初めての
こと。一体全体、どうした心境の変化なのだろう。
正月は帰省するんじゃないの?
今年は息子たちと3人で帰省したという話をいつだったか聞いたことがあった。
――――ということは、来年は帰省しなくてよくなったってこと?
結婚するために……
他の誰かと交際するために……
蒼馬と別れようと考えていたところなのに──。
まほりは迷った末、彼と一緒に温泉に行くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇
蒼馬さんが連れて行ってくれたのは有馬温泉だった。
JR神戸駅からタクシーに乗り、目的地のホテルへ向かった。
ホテルは老舗の有馬御苑。
出されたお料理は、世界に誇るブランド牛「神戸ビーフ」をしゃぶしゃぶで
いただける会席料理で、他には刺身や天ぷらなど小鉢が多数目の前に並べられた。
目の前に並べられた料理は、まるで一夜かぎりの饗宴のように見える。
そして――――
あまりの品数に、食べる前からお腹がいっぱいになったような感覚に陥った。
「私、旅行なんて家族で田舎に帰る時くらいで、旅行らしい旅行なんてしたことないです。
あとは学生時代に友達と卒業旅行に行ったくらい……。
こんな豪華版、はじめてで感激してます」
「ははっ、そりゃあよかった。たまにはいいよね」
『蒼馬さんは、ご家族ともこうやって時々は旅行に行ってたりするのかな?』
知っても、いい気持にならないことは分かっているから、訊~かないっと。
それに、私の立場で奥さんに嫉妬するなんて間違ってるって分かっているから。
だって、私なんて相馬さんの恋人でもなければ愛人ですらないんだもの。