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#二次創作
よんがつ
126
#夢小説
しらすのお部屋
567
つばさ
205
病室の空気が、わずかに変わる。
今まで見えなかった出口が。
ほんの少しだけ、見え始めていた。
だが。
飛彩は冷静なまま口を開く。
「可能性があるというだけだ」
その一言で、空気が引き締まる。
「ゲムデウスとレウコイドは別物だ」
「同じ方法で成功する保証はない」
永夢も静かに頷いた。
それは分かっている。
だが。
何もないわけではない。
それだけでも十分だった。
「……どうするんですか」
永夢が尋ねる。
飛彩はモニターへ視線を向けた。
「まずは解析だ」
「骨髄穿刺で採取したサンプルが残っている」
永夢の表情がわずかに変わる。
あの検査の時のものだ。
大我が続ける。
「レウコイド因子を徹底的に調べる」
「構造」
「性質」
「全部だ」
貴利矢が肩をすくめる。
「敵を知らなきゃ攻略もできないからね」
飛彩が頷いた。
「その上で」
「 抗体を作る」
病室が静まり返る。
永夢が小さく呟く。
「抗体……」
「ゲムデウスワクチンと同じ考え方だ」
飛彩が説明する。
「レウコイド因子に順応し、それを抑制できる抗体を作る」
「それをガシャット化する」
永夢の瞳が揺れた。
もし本当にできるなら。
レウコイド因子だけを狙って除去できるかもしれない。
白血病治療への道も開ける。
だが。
大我が低く言った。
「問題はそこからだ」
貴利矢の表情も真剣になる。
永夢が顔を上げた。
大我は腕を組んだまま続ける。
「ゲムデウスワクチンがどうやって完成したか覚えてるか」
病室が静かになる。
貴利矢の脳裏に、あの戦いが蘇る。
そして、重たい口を開く。
「…ウイルスへの順応」
「ああ」
大我が頷く。
「抗体を作るには」
「まず、そのウイルスに耐えなきゃならねぇ」
沈黙。
永夢の表情が強張る。
そして。
パラドが静かに口を開いた。
「なら」
全員の視線が向く。
パラドはごく当たり前のように言った。
「俺がやる」
病室が凍りついた。
パラドは腕を組んだまま続ける。
「レウコイド因子をガシャット化するんだろ」
「だったら誰かが順応して抗体を作る必要がある」
一拍。
「人間じゃ無理だ」
飛彩も否定しない。
レウコイド因子がどれほど危険か。
この場の全員が知っている。
パラドは永夢を見る。
「だったら」
「俺しかいないだろ」
その言葉に。
永夢の顔色が変わった。
「だめだ!」
即答だった。
病室の空気が張り詰める。
永夢は真っ直ぐパラドを見ていた。
「そんなこと――」
声が震える。
「そんな危険なこと、認められない」
パラドは視線を逸らさない。
ただ静かに。
永夢を見返していた。
病室が静まり返る。
永夢はパラドを見つめたまま続けた。
「あの時、ゲムデウスの抗体を作った時だって……」
拳が震える。
「貴利矢さんも、黎斗さんも」
「命懸けだったって聞きました」
貴利矢の表情がわずかに曇る。
あの戦いを思い出したのだろう。
永夢は唇を噛む。
「パラドだって同じだ」
「不死身じゃない」
「消滅する可能性だってある」
沈黙。
誰も否定しなかった。
それだけで十分だった。
永夢は目を伏せる。
「そんなの……」
かすれた声。
「そんなの、だめです」
小さくため息が落ちた。
永夢が顔を上げる。
パラドは肩をすくめる。
「それくらいの覚悟はできてる」
一拍。
「ふざけるな!」
思わず声が響く。
「命だ!」
「お前の!」
視線がぶつかる。
それでもパラドは逸らさない。
「でも――」
「でもじゃない!」
遮るように叫ぶ。
声が震えていた。
怒りなのか、恐怖なのか、自分でも分からない。
「僕は……」
息を吸う。
胸の奥が苦しいほど締め付けられる。
「お前を危険に晒してまで――」
言葉が詰まる。
それでも永夢は絞り出した。
「そんなことしてまで、生きたくない!」
病室に沈黙が落ちた。
しばらくして。
パラドが静かに口を開く。
「……俺は」
一歩だけ近づく。
「お前から命の大切さを教わった」
永夢が息を呑む。
「だからこそ」
「俺は、お前の命を守りたい」
言葉を失う。
何も返せない。
ただ胸だけが痛かった。
「でも……」
ようやく絞り出す。
「言ったじゃないか……」
「自分の命も大切にしろって」
パラドは少しだけ笑った。
「心配すんな」
永夢は何も言えない。
怖かった。
また失うことが。
もう二度と会えなくなることが。
そんな永夢を見ながら、パラドは続ける。
「お前、いつも言ってるだろ」
低い声。
「患者の笑顔を取り戻すって」
永夢の肩がわずかに揺れる。
「じゃあ」
視線が重なる。
「お前はどうなんだよ」
逃げ場のない言葉。
「自分の笑顔は取り戻さなくていいのか」
胸の奥が強く締め付けられる。
何度も。
何度も。
自分が患者に伝えてきた言葉だった。
それが今。
自分自身へ向けられている。
だが、パラドはそこで終わらなかった。
「それにな」
静かな声。
「お前自身だけの話じゃない」
永夢が顔を上げる。
パラドは真っ直ぐ見据えたまま言った。
「お前がここで諦めたら」
一拍。
「これから先、お前に救われるはずだった患者はどうなる」
永夢の息が止まる。
「お前が生きてたら笑顔になれた奴がいる」
低く。
けれど確かな声。
「苦しくても、お前なら助けられた奴がいる」
胸が痛い。
「お前は医者だろ」
パラドの視線が揺らがない。
「だったら、責任もって生きろ」
その言葉は命令じゃない。
願いだった。
「お前が生きないと」
小さく息を吐く。
「これから先、大勢の患者を笑顔にすることができないんだぞ」
そして。
「それでもいいのか、永夢」
永夢は目を閉じる。
そして小さく笑った。
「……ずるいよ」
かすれた声。
「そんな言い方」
パラドが鼻で笑う。
「お前に教わったからな」
永夢はしばらく黙り込む。
やがて。
ゆっくりと顔を上げた。
「……本当に」
永夢の声は小さかった。
「消えないんだな?」
確認するような問い。
次の瞬間。
パラドは呆れたようにため息を吐いた。
「……お前な」
「そもそも俺が消えたらどうなる」
永夢が目を瞬かせる。
「え……」
「抗体作れねぇだろ」
あまりにも当然のような声だった。
病室が一瞬静まる。
貴利矢が思わず吹き出した。
「そこかよ」
大我も呆れたように顔をしかめる。
「相変わらずだな」
だが。
パラドは真面目だった。
「目的は抗体を作ることだ」
「途中で消えてたまるか」
一歩近づく。
「だから」
真っ直ぐ永夢を見る。
「安心しろ」
短い言葉。
それだけだった。
けれど。
永夢には十分だった。
その言葉に嘘はなかった。
永夢は目を閉じる。
怖さが消えたわけじゃない。
納得したわけでもない。
それでも。
信じたいと思った。
ゆっくりと目を開く。
そして。
一人ずつ見渡した。
飛彩。
大我。
貴利矢。
そしてパラド。
「……お願いします」
短い言葉。
だが。
その中には覚悟が込められていた。
一瞬の静寂。
大我が鼻を鳴らす。
「最初からそのつもりだ」
飛彩も小さく頷いた。
「成功させる」
貴利矢が笑う。
「患者にお願いされたら断れないしな」
そして。
パラドは腕を組みながら口元を緩めた。
「やっと決めたか」
視線がぶつかる。
「任せろ、永夢」
そう言いながらも。
その声はどこか優しかった。
コメント
1件
つばささん、第20話読ませていただきました。 パラドが「俺がやる」って言った瞬間、心臓がぎゅっとなりました。永夢くんの「だめだ!」って叫び、あの震え、すごく伝わってきました。それでもパラドが「お前はどうなんだよ」って永夢自身の笑顔を問う場面、じんわり胸に響きました。最後の「任せろ、永夢」が優しくて、涙が出そうになりました。お互いを想う気持ちのぶつかり合い、本当に素敵でした。