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るりかちゃーん!(笑)
それだけで、『何してるんですかっ』と怒られるんじゃないかと思ってめちゃくちゃドキドキした。
だけど瑠璃香は少し「ん……」とつぶやいただけで一向に目覚める様子はない。
フェアじゃない、と思う。
相手が酔っている以上、こんな風に邪な感情を持って触れてしまうこと自体が。
(けどなぁ、これ、不可抗力だろ?)
そう言い訳しているうちに、タクシーは自宅前へ滑り込んだ。
支払いを済ませ、ドアを開けてもらう。
「着いたぞ」
声をかけ、そっと瑠璃香の身体を起こす。
「着いら?」
「ああ、タクシーの運転手さんに悪い。さっさと降りるぞ」
「はーい……」
返事はあるが、立ち上がる気配がない。
仕方なく手を貸して降ろすと、案の定ふらついた。
「ほら、掴まれ」
腕を差し出すと、なぜかそれを素通りしてぎゅっと晴永の腰に腕を回してしがみついてくる。
(なっ、ちょっ、待っ)
心の中で盛大にオロオロしながらも、晴永は決してそれを表に出さない。
さも何でもないことのように瑠璃香の身体をぎゅっと抱きしめるようにして、玄関前まで歩いた。
「課長のおうち……おっきい……」
二階建ての一軒家。
自分一人で住むには少し広すぎる気もするが、余った金を何となく投じただけのマイホームだ。広すぎようがなんだろうが、そんな感想、今はどうでもいい。
玄関を開け、瑠璃香を支えたまま、どうにか中へ。
上がり框に腰掛けさせた瑠璃香の足からそっとパンプスを脱がせると、思いのほか小さな足にトクンと心臓が跳ねる。
(可愛すぎだろ、この足)
余計なことを考えないように瑠璃香の足から視線を逸らすと、晴永はさっさと自分も靴を脱いだ。
「あ、くつ……」
玄関先に散らばった、脱ぎ散らかしたままの靴を見つめる瑠璃香の視線に気が付いて、慌てて二人分の靴を綺麗にそろえると、晴永は下駄箱へ寄りかかるようにして座る瑠璃香をスッと抱き上げた。
「ひゃっ」
小さく悲鳴を上げてしがみついてくる瑠璃香にドキドキしながらも、晴永は彼女を横抱きにしたままリビングへ向かう。
「とりあえず、座れ」
リビングのソファにそっと瑠璃香を下ろして座らせると、キッチンから水を持ってきた。
「……飲め」
「お酒れすか?」
「んなわけあるか! ただの水だ!」
「えー、ちゅまんなぁーい……」
(詰まるも詰まらんもあるか!)
そう心の中で毒づきながら瑠璃香を見下ろす晴永の視線に負けたみたいに、瑠璃香がグラスに口をつけた。
一口飲んだら思いのほか喉が渇いていたのに気付いたんだろうか?
コクコクと愛らしく喉を鳴らしながらグラスを空にしてしまった。
「おいし……」
ほぅ、っと吐息を落としつつも、瑠璃香の目はもう半分閉じかけている。
(このままじゃまずいだろ)
「……風呂、どうする?」
一応、確認だけのつもりだった。
「お風呂? ほわほわして身体洗える気がしません。課長、洗ってくらさい」
「は?」
(いきなり何を言い出すんだ、こいつは!)
こっちは理性を総動員していい上司を演じているというのに。