テラーノベル
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「えー。らって、私らち、夫婦になるんれしょう? 夫婦は一緒にお風呂に入るものらって、誰かが言ってましら」
(誰かって誰だ!)
「ま、まだ書類を役所へ提出してない。……却下だ」
反射で言っていた。
それはさすがに、いろいろとアウトだと思ったからだ。
「今日はとりあえず着替えて寝るだけにしろ。分かったな?」
「旦那しゃんとお風呂。憧れらったのに……ケチぃー」
不満そうにしながらもよろりと立ち上がる瑠璃香を支えて、晴永はとりあえずすぐそこの隣室――寝室まで連れて行く。
「ここで。着替えだけ済ませろ」
クローゼットから丈が長めのトレーナーを引っ張り出して渡した。さすがにズボンはウエストが合わないだろうが、このトレーナーならワンピースのように着こなせるかと思ったのだ。
「風呂は明日。今日は無理だからな?」
「はーい……」
一応もう一度言い聞かせてみると、意外と返事は素直だった。一人にしたら眠ってしまいそうな不安はあったが、着替えさせてやるわけにはいかないので扉を閉めて、外で待機する。
……が。
五分経っても、一〇分経っても、物音がしない。
「小笹?」
返事もない。
嫌な予感がして、「開けるぞ?」と声を掛けてから、そっと扉を開けた。
そこで見た光景に、思考が一瞬止まった。
ベッドの端に、下着姿で瑠璃香が寝そべっていたからだ。
服は手に持ったまま、着替える途中で寝落ちしたらしい。
「……っ!」
晴永は反射的に視線を逸らして、
「おい、服……!」
慌ててトレーナーを差し出したのだが――。
寝ぼけた手が、晴永の服を掴んだ。
「かちょ……、抱っこ」
そのまま、しがみつかれる。
フェアじゃない。
本当に。
そう思いながら、晴永は動けなくなっていた。
「小、笹……さすがにこれは……」
しがみついてくる瑠璃香の身体をどうしたらいいか分からなくて、晴永はトレーナーを持ったままの手を中途半端に宙へ浮かせたままグッと奥歯を噛み締める。瑠璃香を嗜める声が、今にも情欲に溺れてしまいそうで、熱い吐息に掠れてしまう。
「かちょ、寒い……。ギュッてして?」
なのに瑠璃香はまるで晴永の体温を求めるみたいにぐりぐりと身体をすり寄せてくる。
「小笹……、寒けりゃこれを……」
寒がる瑠璃香へ不用意に触れてしまわないよう慎重にトレーナーを指し出せば、「もしかして照れてるんれしゅか? ふふっ。可愛い」とか。
(正気か!?)
こんなことをしてくる時点で正気ではないのは分かりきっていたのだが、下からこちらを見上げてくる上目遣いが凶悪に可愛くて、今にも理性が焼き切れてしまいそうだ。
瑠璃香の性格を思えば、素面に戻った時、一線を越えていたらきっと後悔する。
(俺はお前を大事にしたいんだよ……)
出来ればまともな状態の瑠璃香と、そういうことをしたいのだ。
コメント
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課長は本当誠実な人!