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翌朝になっても、涼ちゃんはずっと布団の中にいた。カーテンの隙間から差し込む朝の光も、涼ちゃんの心には届かない。
𓏸𓏸がドアを静かにノックし、「涼ちゃん、今日体調悪い?」と優しく声をかける。
けれど涼ちゃんは、小さく「うー」と曖昧にうなるだけだった。
𓏸𓏸は「……わかった。無理しないで」とだけ答え、リビングに下りていった。
心の中に、届かない想いのかなしみがじわりと広がる。
しばらくして、お粥をお椀に盛って部屋へ戻った𓏸𓏸は、ふと涼ちゃんの左手にカッターが握られていることに気づいた。
そのとき、𓏸𓏸ははっきりとした声で言った。
「涼ちゃん――カッター、もらうね?」
抵抗されるかもと思ったが、涼ちゃんは無言のまま手をほどき、カッターを手放した。
𓏸𓏸は無言で机の上に置き、すっと救急箱を取りに行って、手当てを始めた。
消毒液をしみこませたコットンで、傷口を拭う。
「痛いよね……」と声に出したが、涼ちゃんは無反応だった。
手当てを続けながら、𓏸𓏸は静かに、けれど少し怒ったようなきつい目で涼ちゃんを見つめる。
「ねぇ――涼ちゃん、ちゃんと私の目を見て?」
けれど涼ちゃんは、目を逸らして視線を合わせてくれない。
「涼ちゃん!私は本気で心配してる。だから、ちゃんと顔を見て――逃げないで!」
言葉にはいつものやさしさだけじゃなく、怒りや悲しみ、もどかしさ、いろんな思いがこもる。
それでも涼ちゃんは、ただ小さく体を縮こませるだけだった。
𓏸𓏸は深く息を吐き、少しかすれた声で続ける。
「私、どうしたらいいかわかんない。けど……このまま自分を傷つける涼ちゃんを、私は絶対に許せない。
涼ちゃんが辛いなら、何度でも話を聞く。どんな気持ちも受けとめる。
でも、逃げたり、手を出したりしないで……お願い。
傷ついてほしくない。だって……私にとって、涼ちゃんは、すごく大事なんだよ」
涙声になりながらも、𓏸𓏸は一生懸命に気持ちを伝える。
部屋に静かな時間が流れる――
やがて、涼ちゃんの肩が小さく震えはじめた。
けれど、それでも顔を上げる勇気はまだ出なかった。
それでも、𓏸𓏸の言葉は確かに涼ちゃんの心に届き始めていた。
重い沈黙の中、二人の間にかすかな希望の兆しが生まれていく――