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風が吹き抜ける草原の中、フィンは一人、何もない場所に座っている。表情はどこか遠くを見つめ、何かを考え込んでいるようだ。突然、ドーベンが近づき、フィンに話しかける。
「お前、また過去を思い出しているのか?」
フィンは少しだけ驚いて振り返るが、すぐに少しだけ微笑んで答える。
「うん…。父さんのことを考えてた。」
ドーベンが少し黙り込むと、フィンは続けて話し始める。
「僕の両親は…技術者だったんだ。王国とつながってる、すごい技術を持ってる人たちだった。でも、詳しいことは僕も知らない。だって、僕が生まれたときには、父さんはもういなくなってたから。」
ドーベンは一瞬、言葉を飲み込んだ。何かを知っている様子だが、それをどうしていいのか分からない。
「…お前の親が、何か特別な存在だったのか?」
フィンは空を見上げる。
「父さんが言ってたんだ。『技術者ってのは、ただの道具じゃない。人を変える力を持っている』って。でも、母さんはそれに反対してた。『そんな力があったら、世界は滅びる』って。」
ドーベンは視線を落とす。彼は言葉にできない重い事実を思い出す。
数日後、フィンとドーベンは古びた図書館の中、黄ばんだページをめくっている。フィンが偶然見つけた、古い記録の束。そこには、フィンの父親、名は「アリス・ヘルグン」の名前が書かれていた。王国の技術者として名を馳せた男だ。
「アリス・ヘルグン…この名前、知ってるか?」フィンが興奮しながら言う。
ドーベンは静かに答える。
「知っている。だが、それは伝説の話だ。」
フィンがそのページを指さす。
「『最強の技術者』。でも『王国の滅びを招く力』だと警告されていた。」フィンは驚きの声を上げる。「まさか、そんな存在だったなんて…!」
ドーベンは言葉を選びながら続ける。
「アリス・ヘルグンは、天才だった。だが、彼の研究は危険すぎた。彼の開発した技術は、人々を変える力を持っていた。『究極の兵器』として、王国の未来を支配することができる…だが、それは王国を破壊する力にもなり得た。」
フィンは息を呑む。
「でも、なぜ父さんはそれを開発したんだ? どうして…」
ドーベンがその問いに答えるように言う。
「アリスは、『科学者としての使命』を果たすことにこだわった。彼にとって、技術は人を変える手段であり、王国に対する忠誠心よりも、自己の技術に対する信念が強かったんだ。」
フィンの顔に暗い影が差す。
「それが父さんを…王国にとって危険な存在にしたんだな…」
ドーベンは無言で頷く。
数週間前、フィンが王国の図書館で見た最後の記録。それは、父親が暗殺される直前の記録だった。
「アリス・ヘルグン…彼は王国の内外で恐れられていた。だが、彼が開発した兵器の力が強すぎて、王国にとって脅威となった。」フィンが震える声でつぶやく。
ドーベンが言う。
「そして、王国はアリスを暗殺する決断を下した。彼が開発した俺の『必中技術』、それを使うことで王国は世界を支配し、暴走する力に変わることを恐れたんだ。」
「それで、父さんは…」フィンの目に怒りと悲しみが混ざる。
「そうだ。王国にとって、アリスの力が制御できなければ、王国自体が滅びると感じた。そして、彼は『マッドサイエンティスト』として暗殺された。」
フィンは拳を握りしめる。
「だから、父さんは僕に何も教えてくれなかったんだな…。技術を持っていたから、僕は近づけないようにされていたんだ。」
ドーベンが冷静に語る。
「その通りだ。しかし、フィン、お前が父親の後を継がないといけないわけではない。お前は自分の道を歩むべきだ。」
フィンは一瞬、ドーベンを見つめた後、静かに言った。
「でも、父さんのやったことが、間違いだったとは思えない…。技術で世界を変えること、それが父さんの夢だった。」
ドーベンは少しだけ眉をひそめ、フィンを見つめる。
「だが、フィン、お前の道はお前の選択だ。父親の影に生きるのではなく、お前自身の信念で世界を見てみろ。」
それから数日後、フィンはひとり静かに町の高台に座り、遠くの王国を見つめていた。彼は決心を固めていた。
「父さんが残したもの…どう使うかは、僕にかかっている。王国を滅ぼさないように、その力を僕の信念で使っていくんだ。」
ドーベンが後ろからやって来て、静かにフィンの肩を叩く。
「フィン、お前が選んだ道を、私は信じる。」
フィンは深く息を吸い込み、顔を上げて微笑んだ。
「ありがとう、ドーベン。僕は僕のやり方で、この力を使うよ。」
その言葉を胸に、フィンは新たな決意を固め、王国の未来を切り開くために歩き出した。
フィンの父、アリス・ヘルグンが残した技術は、今や王国の危機をもたらす可能性を秘めている。その力をどう使うかは、フィンの手に託されていた。しかし、彼が選んだ道が王国を救うものなのか、それとも再び破滅を招くものなのか、誰にも予測できなかった。
フィンの物語は、まだ始まったばかりだ。