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松鬼零華
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心地のいい風が吹いた
もういない。戻ることはない。
背中を押せない私は弱くて。
そっぽ向いてるうちに
見つからないように
どこか遠くへ飛び立って
私の知らないとこへ
揺らいだカーテンは少し物憂げな
それでいて飾らない今を生きていて
ひとりじゃないように少し思えました
センチメンタルだなって
あなたに笑ってほしくて
ただそばにいて欲しかっただけ
仁人がいなくなってから一週間くらいが過ぎていた。
そんな今日も心地のいい風が吹いている。
「仁人。君が居なくなってから、どんどん勇斗の笑顔がなくなっているよ。声だけが、いつもより明るくて。まるで、最近まで教室で本を読んでいた、仁人みたいだよ。どうしてくれるのよ笑!…………。」
なんて、いるはずもない仁人に向かって私はそう言ってやった。
もし、今も仁人が教室で本を読んでいるのなら、勇斗のところへ行ってあげて欲しい。
まあ、そんなことはないけれど。
そして今日、私は勇斗に言わなければならないことがある。
(ふぅ……)
「はーやと!今日ひさしぶりに一緒に帰れる?」
「…うん。うん!!いいよーー。」
勇斗はきっと、笑っているつもりなのだろう。
でも、彼女の私にはわかる。目が笑っていなかった。笑顔が前と違う。飾らなくていいのに。
それでも私は、声色を変えずに、
「ほんと!じゃあ行こっか。」
そう、勇斗に告げた。
帰り道に私は、勇斗に別れよう。という話をした。
勇斗は一瞬驚いたような顔をして、あやまってくれた。
私はあやまって欲しかった訳じゃない。
これも、全部仁人のせいだろうか。
別に私は、仁人のせいにしたい訳じゃない。でも、少しくらいならいいだろうか。
なんて、心の中で言い訳をした。
もうあの頃のあなたはいない。
そして、戻ることはない。
あの時、仁人の様子がおかしかった時、
勇斗の背中を押せなかった。そんな私は弱くて。
と、部屋で1人。反省会をしている。
もう、今更遅いのになぁ。なんて思いながらも。
勇斗。あなたがそっぽ向いてるうちに
仁人は見つからないように、どこか遠くへ飛び立ってしまって
私の知らないとこへいってしまった。
窓の外を見ても、今日はあの日の海が見えなかった。
それでも、あの空気を少しでも味わいたくて、窓を開けた。
カーテンがまた物憂げに揺れる。
勇斗には、仁人がいた時みたいに飾らないで今を生きていて欲しい。
だって。そんな飾らない勇斗が、“2人”のことが大好きなんだよ。
「……ひとりじゃないから。」
ぽろり。と、抑えきれなくなった想いが私の頬を伝う。
私はね、勇斗と仁人のことを思い出すと、ひとりじゃないように少し思えるの。
それはきっと、勇斗も同じだと思う。
だからね。こんな弱い私のことを、
「センチメンタルだな」
って、あなたに笑って欲しくて。
ただそばにいて欲しかっただけ。
コメント
1件
読み終わりました。切なくって、でも確かに温かさもあって、胸がぎゅっとなりました。特に「背中を押せなかった私は弱くて」という一文に、主人公の後悔と仁人への想いが詰まっていて、何度も読み返してしまいました。カーテンの揺れ方ひとつで心情を滲ませる描写、すごく好きです。別れ話のシーン、勇斗が謝ったところ、本当は謝ってほしくなかったんだろうな……と感じました。仁人も勇斗も、そして“私”も、みんな誰かのそばにいたかったんだなあ。続き、気になります。