深夜、中央広場には二人の若者がいた。
一人は男、一人は女だ。
その二人は互いをまるで宝物を見るような目で見ていた。
彼は興奮していた。だが、少し緊張もしていた。震える手をぎゅっと握り締め、あくまでも落ち着いているかのように声を出した。
「ねぇ…その…僕を───」
相手はもう分かっていたかのように、余裕がまじった笑みを浮かべていた。
「なんで君の笑顔は素敵なの?僕を虜にしてしまったじゃないか!」
その言葉を聞くと顔は一変し、彼女はこう言い聞かせた。
「私、お腹空いてるから君を丸呑みできそう。」
それでも彼の興奮は冷めなかった。
「いや、むしろそれが本望さ。」
そんな普通なら予想もできないことを聞かされても彼女は表情を変えることはしなかった。それどころか、より穏やかな調子で
「仮に君を私が食べたとしよう。君は歯で噛み砕かれることなく生暖かい喉を通って、胃酸で溶けて、腸でこれでもかというほど栄養を吸われて、終いには排泄物となってしまう。こんなの耐えられるかしら?」
と告げた。
「君に食べられて人生をそのように終えたとしても後悔はきっとしないさ!いや、しない!むしろ幸せだ!!悔いは残らない!」
「ふーん、これは面白いね。じゃあやっぱり食べやすいように小分けにして食べてもいい?」
「いいよ、君に殺されるなら幸せだよ。」
もう二人は穏やかな顔をしていた。
彼女はナイフを懐から取り出した。
「じゃあ、、いただきます」
「うん、いいよ」
広場は赤い絨毯で満たされた。絨毯の上には若者が二人。一人は幸せそうな亡骸、もう一人は宵闇に呑まれないほど狂ってしまった少女。空にはまるで似たような紅い月が浮かんでいた。それを見た女はそっと呟いた。
「ごちそうさまでした。」
ぶらっくほーるれくいえむ
END
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