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土曜日の朝。学校に行くと、なにやら教室内が騒がしかった。皆が紙を見て話をしているのだ。
「や〜ん、私、体重増えちゃったわ〜〜!
どうしよう………。」
「私もよ冬田さん。はぁ…、花輪くんの為に、ダイエットしなきゃ〜!!!」
話からして、前に行った健康診断の結果を渡されたのだろう。何キロ太った、身長が何センチ伸びた、そんな会話があちらこちらで行われていた。前を見ると、担任の戸川先生が生徒に紙を配っているからそれなのだろう。荷物を置くと、大野と杉山も受け取りに歩き始めた。
「なあ藤木くん。飲み物を飲んだ時に歯がしみると、虫歯なんだってさ。」
長沢の話に動揺する藤木。二人も丁度、結果を見ようとしていたところだった。
「そ、それは本当かい長沢くん。 やだなぁ…僕、虫歯になっていないかなぁ……。」
「おや、君のその顔。どうやら心当たりがあるようだね。 まあ僕は、歯磨きをさぼったことなんてないから、虫歯も当然無いに決まってるさ。 」
さあ、早く結果を見ようじゃないかという長沢の声がけに、藤木はしぶしぶ頷いた。
紙を開いて数秒間。藤木は安堵した様子で言った。
「長沢くん、僕は虫歯は無かったよ。」
君はどうだい?と、藤木が問いかける。少ししてから、長それに答えた。
「いや。僕も大丈夫だね。」
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先生から紙をもらった大野と杉山は、席につき、それぞれが自分のものを見つめていた。
(肺雑音……要精密検査…。)
初めての文字に、大野は困惑する。実感こそ無かったが、そこに書いてある通り、何かしらの問題がある事は間違いないだろう。
「大野!お前、どうだった?」
杉山の声に、ふと意識が戻る。素早く親指で肺の欄を隠し、笑いながら大野は言った。
「いや、別に普通だよ。」
杉山、お前身長何センチ伸びた?とでも問いかければ、話はあっという間に登校した時のそれだ。いつの間にか、大野も普通に会話していた。
「大野くんと杉山くん、二人とも 身長伸びたそうだね。」
「そのようだね、藤木くん。」
(あれ………大野くんの紙…。)
会話をしているうちに気が抜けたのか、隠していた肺の欄から大野の指がずれ、後ろの席の藤木へと見えてしまったのだ。
(肺…何て読むんだろう、あの漢字。うーん、分からないなぁ。肺………なんとかおん。)
「どうしたんだい、藤木くん。」
(ん?隣には何かの検査って書いてあるぞ。あれは………)
「おい。無視するなよ藤木くん。」
(そうだ!紙の下に検査の説明が……)
「藤木くん!!」
「うわぁ?!」
大野の紙に夢中になるあまり、隣からの声に気が付かなかったのだ。藤木は大袈裟なくらいに驚いた。
「全く、君は僕に何回名前を呼ばれれば気が済むんだい。」
「ごめんよ、長沢くん。どうしたんだい?」
「ふん、もういいよ。それより、さっきまで一体、何にそんなに夢中になってたんだい?」
ああ、それはー。続く筈の言葉は続かずに、思わず藤木は口をつぐんだ。
言って良いのだろうかー。
これはデリケートな問題で、しかも本人は目の前にいる。どうも言葉では言い表せずにいると、次に口を開けたのは長沢だった。
「理由も言えないなんて、君はまた卑怯なことでも考えていたんだろう。」
もういいよと、呆れたようにして前を向く長沢に藤木はもやもやとしながらも、それ以上は何も言えず、ただただ黙って座っていた。