side rn
かさ、とシーツの音で目が覚めた。そこで今まで寝ていたことに気づく。
視界はだんだん、ぼんやりからはっきりとしてきたけど、まだ薄暗い。
体を動かそうにもうまく身動きがとれない。
もぞもぞとしていると目の前にあった何かが離れていった。
「るなさん…よかった」
「しばさん」
あくびをひとつしてから、シヴァさんは柔和な笑みを浮かべた。
それからまたぎゅーって、力強く抱きしめられる。
私あのまま寝てしまったんだ。
でも、いったいいつ寝てしまったんだろう。
「るな、え、寝て…?」
困っていると、シヴァさんはバツが悪そうに口を開く。
「るなさん気ぃ失っちゃって」
「え、え!?」
「ごめん加減できたらよかったんだけど」
抱きしめられたまま、無理だったと耳元で言われた。
「気を…その、う、うしなうとか、あるの?」
「んん…ま、たまにあるひとも…いるとかいないとか…」
すごく言いづらそうにもごもごと口を動かしていた。
気を失うなんて聞いたことない。
私の持ってる、かき集めた知識のなかでもそんなの知らなかった。
「なんでかな、寝不足…?だから?」
しっかり寝てきたけど、急に眠くなっちゃったのかな。自分の身に起こったことが信じられない。
「それは、さ。えーと…」
「しばさんはなんでかわかるの?」
「わかるっちゃわかるけど」
「なあに?」
「…気持ち良すぎてってやつだよ」
んん、ってシヴァさんが軽く咳払いした。
じゃあ私気持ち良すぎて気を失っちゃった…の?え…。
大変顔から火が出そう。
そこまでなっちゃうものなの!?
確かにその…なんかふわぁってなって…ぽわーってして…き、き、もち悪くはなかったけど。
真っ赤になってると、おっきな手で撫でられた。
「びっくりしたよな、ごめんね」
「…」
謝らなくて、いいのに。
私ちゃんと幸せだよ。
いつかはなりたいと思っていたことが経験できてよかったよ。
大好きなひとと触れ合うことが、どんなに愛しくて大切なことだってこともぜんぶ全部
教えてくれたのは、シヴァさんなの。
目の前にいる、申し訳なさそうにしているシヴァさんを見ていたら涙が出てきた。
優しすぎだよ、そう思って。
私が泣いたから、このままだとシヴァさん勘違いしてしまう。
違うの、と小さくつぶやいてから胸に顔を沈めた。
「こわいとか、嫌とか。そーゆーので泣いてるんじゃないの…嬉しいの」
ちょっと不器用で、ちょっと後ろ向きだけどそれでも全力で、いつも私のことを一番に考えてくれる。
「こんなに幸せだって、教えてもらえたことが嬉しかったの」
教えてくれたのがあなたでよかった。
「大好き…」
大好きなひとと、想い合えること。
すごく素敵なことだよね。
だって好きなひとが私のことを好きでいてくれるんだよ。
「るなさん」
「?はい?」
「それ、今言うの?」
「やなの?」
「やじゃねーよ逆だわ」
ほんと勘弁して、なんて苦しそうな表情で。
じーって、シヴァさんの目を見つめる。
シヴァさんこれ弱いの、知ってるの。
こつ、とおでこがあたった。
つんつんの髪がおでこにあたってくすぐったい。
「…せっかくおさまったのにさぁ」
「おさまちゃったの?」
「!?またそーゆーこという!」
しらねぇからな、なんてちょっとぶっきらぼうに言われて笑ってしまった。
まるで夢みたいな誕生日。
でも、これはまぎれもない現実で。
ふたりのぬくもりがずっと消えませんように。
優しくふれた唇に願った。
side sv
「るなぁ〜〜〜!!」
「えとちゃ〜〜」
アカシアの木に似た、ちょっと重めの扉を開けたらえとさんがぶっ飛んできてるなさんに抱きついた。
「お誕生日おめでと!」
「ありがと!」
きゃっきゃとくっつき合う二人を横で微笑ましく思いつつ、リビングへと足を進める。
帰る前に寄る?と提案したら喜んでいた。
二人の時間も大切だけど、みんなと会う時間も大切にして欲しい。
「るなぁ〜〜お誕生日おめでとうきのうLINEしたかったけどのあさんから絶対邪魔すんなって釘刺されててさぁ!!」
「当たり前でしょ」
一息で思いを吐ききったじゃぱぱさんが、るなさんに泣きついている。
その後ろ姿をのあさんが呆れ返った表情で見つめていた。カオス。
相変わらず過保護だな。
何年経ってもじゃぱぱさんはこうだなと、こっちはもう半分諦めた。
「お誕生日は彼氏といたいものなの、ね?」
「え、う、うん」
「やだぁシヴァさん彼氏だってぇ!!」
「前から言ってるじゃんか…」
やりとりが一年前と変わらないんだけど。
永遠に続きそうなやりとりにうんざりした。
「るなまだいれる?プレゼントあげるね!…とりあえずコート脱ぎな!」
「あ、るなー」
「ゆあんくん!」
えとさんにコートを渡したら途中、後ろからゆあんくんが部屋に入ってきた。
軽く挨拶を交わしたゆあんくんが、るなさんの後ろ姿をじっと凝視する。
?なんかあんのか?
「るなここ、どしたの?」
「え?」
「首の後ろ、赤くなってるよ」
「…へ?」
るなさんが首をかかげて手を当てた。
まぁ自分からは見えないので、代わりに見て欲しいと俺に訴えてるけど…
…。
やべぇ!!!
ニットの上の首筋に赤く散らばってた。
そんなつけたか!?
いかん覚えてない。
隠そうにも隠せない。俺が黙って焦ってるとるなさんも理解したのか、あ、と小さく吐いた。
「ゆあんくんそれはあれだ、虫よ」
「虫かぁ…。かゆいのやだね、ね、るな」
「う、うん。そだね」
いつの間にか現れていたうりのキラープレーに救われる。そしてゆあんくんの純粋さにも救われた。
虫の話はそこで終わりになり、るなさんはえとさんやのあさん、ゆあんくんたちとキッチンへ向かってしまった。ケーキを見にいくんだそうだ。
して残された、 うりと俺。
「いやぁでっかい虫がいるもんだな」
「身長185センチの虫がねぇ」
「虫いうなよ…つかなおきりさんまで!!いつのまに!!」
湧いて出たなおきりさん、コーヒー飲もっかななんて鼻歌うたってる。
シヴァさんもなんか飲む?と誘われおんなじのと答えた。
「幸せそう」
ぽそ、と俺のそばでなおきりさんがつぶやく。
「え、あ、るなさん?みんなに会えたから嬉しいんじゃないの」
「違うよ」
「は?」
「シヴァさんが、だよ」
ふふ、と綺麗な唇が弧をえがいてこちらを向いた。
「ちゃんと、自分の気持ちに素直になれたね。えらいよ」
「…なおきりさん」
「僕ずっと心配だったんだから。幸せなのは夢でも何でもないんだからね」
そうだ、告白されてからずっと話聞いてもらってたから。
そういえば、恋愛に卑屈な自分には最近会ってない。
「ーーーで、僕頑張ったから焼肉奢って下さいよ」
「感動してたのに」
「シヴァさん焼肉いくの!?オレも昨日のこと詳しく聞きながら肉食べたい」
「デリカシーゼロすぎる」
俺となおきりさんにうりが割って入ってきた。
デリカシーなさすぎるだろ。
まぁ、お世話になったのは本当だ。
肉くらいは奢るかなぁ。追求は免れたいが。
「しばさんっみてみてー」
「おーいっぱいもらったね。よかったね」
手に抱えているたくさんのプレゼント。
満面の笑みのるなさんを見て胸がいっぱいになった。
「じゃぱぱさんから何でかおっきなじゃぱぱさんのぬいぐるみもらったの…どうしよう?」
「なんでだよ、返品だ返品」
じゃぱぱさんに視線を移したら、特注で作ったぬいぐるみでお守りだと言われた。どーすんだよこれ。何だお守りって、俺は厄か何かか。
「シヴァさんの家置いときゃいんじゃね」
「クッソ嫌すぎる」
うりの言葉にみんながゲラゲラ笑った。
「さ、ちょっとだけだけと、パーティーしましょ!シヴァさんがひとりじめしてた分今度は私たちですよね」
「みんな呼んでくるから。…おーい!」
みんなが手分けして簡易的なパーティーの準備を始める。
るなさんはひとつにくくってた髪を解き、ハーフアップに変更した。
大丈夫かな?と髪を下ろした姿を俺に見せてくれる。
“何してもかわいい”に尽きる。
「るな今日シェアハウス行けないかなって思ってました」
「自分ばっかりるなさんに会ってたらみんなから怒られちゃうから、それに」
「きっとこれからもみんなより倍以上、一緒にいられるからさ」
るなさんが笑ってる。
みんなの笑い声が響いている。
きっとこれからの毎日がまた、幸せで満ち溢れるんだろう。
先のことはわからないけれど
あの笑顔を守っていけば、どんな未来も怖くない。
コメント
3件
うわ最高でした泣 素敵な作品ありがとうございました!
書けたぁぁぁ終わったぁぁぁ😭😭 〆ることができて本当によかったです…。みなさま今までお付き合いありがとうございました🙇♀️