23 教師の癖に。
先生の隣で本を読む。
特に何を話す訳でもない。
ただただ、BGMの向こう側から聞こえてくる
先生のコーヒーをたまに啜る音。
静かに本をめくる音
コクン、と喉がなる音を聞いているだけ。
時々、先生の横顔を覗き見る。
目にかかった髪が、瞬きをする度に目にかかる。
ずっと見ていたい自分の気持ちを抑えて、本に目を戻す。
漢字をひたすらに追って、頭の中に景色を思い浮かべて、主人公の声を思う。
「なぁ」
『 …..』
「なぁ、って」
『 …え?私ですか?』
「お前の他に、誰がいんの」
突然声を掛けられて、ちょっとビックリしながら先生が、本を読み終えたのか文庫本が閉じてある。
「オレ、そろそろ帰るんだけど。お前どうする?」
『 じゃあ、私も帰ります』
「じゃあ、って約束まで時間あるならここで暇潰ししてた方がいいんじゃないの?」
『 あ…約束、もうすぐなんです。』
私も本を閉じる。
先生は「ふーん。そう」って席から立ち上がる。
私はわざとらしくないように、腕時計を見て、スマホを確認してる振りをして鞄の中に本とスマホを戻して立ち上がった。
まだ残っているいちごミルクのプラスチックカップを手に取ると、先生は自分のカップを持って返却口に向かう。
手塚さんが「ありがとうございましたー!」って笑顔で挨拶。
先生も、軽く手を挙げ応えて、出口に向かっていく。
置いてかれる!
一緒に帰るなんて言ってないけど!
『 手塚さん、お疲れ様でした!』
「お疲れー。明日も出勤?」
『 明日はー、遅番です!』
「そっか、俺は休み!」
いいでしょ、って感じで笑う手塚さんに対して私は『 良いなぁ、でも私は明後日休み!』って笑いながら先生の後を追う。
店を出たところで、先生は待っていた。
もしかして、私を?
「お前、今日も駅?」
『 え…はい』
「オレも今日、駅なのよ。これこら行くとこあって」
行くとこ…って何処なんだろ。
夕飯を一緒に食べる人がいる…?
居たっておかしくない。
先生はいつも日曜日にカフェに来る。
だからって、恋人が居たって、おかしくはない。
「どうせ同じ方向なら、一緒に行くか」
『 え?』
「もう暗いし。一応、オレ教師だし。」
先生、私の前ではまだ『 教師』なの?
「おい、行くぞー」
『 あ、はい!』
夜桜は送ってくれなかっのに。何なの。
ってそっと背中に呟いた。
・
先生の少し後ろを歩いていく。
風が、先生の香りを私の所まで運んでくれる。
スゥッと先生の香りを吸っていると、先生が振り返った。
「何でちょっと後ろなわけ?」
『 えっ!?』
「ちゃんと着いてきてるか不安なんだけど。並んでくんない?」
『 …不安、…並ぶ』
「俺の後ろで連れ去られたりとかどーすんのよ。オレが責められるでしょうよ。」
『 保見だ…。』
「そりゃそうでしょ。」
ふはっって楽しそうに笑う。
『 教師のくせに。』
わざと言ってみる。
「教師も人間です。」
フンって顔をする。
「とりあえず、横に並びなさい。」
ヒラヒラと先生の柔らかい手首が揺れた。
誘われるようにフワッと横に並ぶと、何も言わず、口角だけを上げた。
季節の変わり目。
桜が散った。
空気の匂いが、もうあの夜とは違う。
『 先生は、これから何処に行くんですか?』
勇気を振り絞って出した台詞なんて気づかれたくない。
だから、一気に言葉にする
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