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着いた先は繁華街。
パーキングに車を停めた朔太郎は咲結に車から出ないよう言うと、鍵を預けて車を降りて行った。
駅の方へ向かって行った事を踏まえると、恐らく駅周辺で何かトラブルがあったと推測する咲結は、不安な気持ちを抱えつつも朔太郎の言いつけ通りひたすら車の中で待っていた。
すると、十分程経った頃だろうか、駐車場の横をスマホに釘付け状態の優茉が通り過ぎて行くのを咲結は見逃さなかった。
しかも彼女は駅の方へ向かって歩いて行く。
もし何かトラブルが起きているならこのまま優茉を近付かせるのは危険なのではと考えた咲結は居ても立ってもいられず、心の中で朔太郎に『ごめんね、すぐに戻るから』と呟いて車を降りると、優茉の元へ走って行く。
「優茉!」
「……咲結」
呼び止められた優茉は突然現れた咲結に若干戸惑い気味の表情を浮かべている。
「……何?」
「あの、駅に行くの?」
「そうだけど?」
「その、今ね、駅は何かトラブルが起きてるみたいだから、行くの止めた方がいいと思う」
「トラブル?」
「う、うん……その、何が起きてるか私にはよく分からないんだけど、さっくんが……」
咲結が朔太郎の名前を口にすると、優茉の表情は険しいものへ変わっていき、そして、
「……悪いけど、私急ぐから」
「あ、優茉!」
咲結の忠告も虚しく、優茉は顔を背けて再び歩き出してしまった。
「優茉、待って!」
それでもやはり優茉が心配な咲結は彼女を追いかける。
ただ、今の自分の立場が分かっている咲結は優茉の少し後ろを付いていくだけ。
何か危険が迫っていたら助けに入ろうと考えていたのだ。
そして、駅に近付いたその時、改札付近には何やら人だかりが出来、その中心には朔太郎と傷を負った男の人が座り込んでいて、その二人と対峙するように柄の悪そうな男が数人立っていた。
「さっくん!」
そんな状況の中、咲結はつい大声で朔太郎の名前を口にしてしまうと本人は勿論、対峙していた男たちや野次馬たちも皆、一斉に彼女へと視線を移す。
そこへ、「何やってるんだ!」と、騒ぎを聞き付けたのか誰かが通報したのか、警察官が数人やって来ると、野次馬たちは道を開けるように散っていき、人だかりは一気に無くなっていった。
そんな中、その場に残る咲結と優茉。
警察官に囲まれた朔太郎たちを心配そうに見つめる咲結に優茉は、
「……あんな騒ぎを起こすような人、ろくな人間じゃないんじゃない? 咲結、アンタもいつか、絶対危険な目に遭うよ。付き合うの、止めるべきだよ」
心配してそう言葉を掛けていると、咲結自身分かっているのだけど、それでも朔太郎を好きで、ろくな人間なんて言い方をされた事で少し苛立ってしまった咲結は、
「騒ぎを起こしたのは相手が原因かもしれないし、それに、さっくんはただ、助けに入っただけだと思う。さっくんは優しくて思いやりがあって、ろくな人間なんかじゃないよ? 何も知らないくせに、極道の人だからってだけで決めつけたり、そんな酷い事言わないで」
今にも泣きそうなくらいに悲しい表情を浮かべながら優茉に訴えかけるように言うと、顔を背け、優茉から離れて駐車場へと戻って行った。
残された優茉は去って行く咲結と警察官に囲まれる朔太郎を交互に見つつ、複雑な気持ちを胸に抱いたまま、人混みに紛れ、改札口を通って行った。
車に戻った咲結は席に着くと、ポロポロ溢れ出る涙を静かに拭う。
分かってもらえないのも仕方無い、そう割り切ってはみたものの、やっぱり悲しくて自然と涙が溢れてしまうのだ。
それでも、朔太郎が戻って来た時に泣いていては心配を掛けるだけだと、必死に涙を拭いながら、泣き止むよう楽しい事を考えながら彼が戻って来るのを待っていた。
それから少しして、息を切らせた朔太郎が車へ戻って来る。
「咲結!!」
「さっくん?」
戻って来た事を確認して鍵を開けると、勢いよくドアが開かれて名前を呼ばれ、それにびっくりした咲結は戸惑うばかり。
「咲結、お前何であんな所に居たんだよ!?」
「あ、ご、ごめんね……その、ここで待ってる時、優茉が……友達が通りがかって、駅の方へ歩いて行くから、気になっちゃって……」
「だからって……あの場で俺の名前を呼んじゃ駄目だ! あれでお前が俺と関わりあるって、相手にバレちまった……」
「ご、ごめん……」
「……いや、きちんと説明しとかなかった俺にも責任あるから、咲結を責めるのは違うよな……俺の方こそごめん……だけど、気をつけてくれ、今後ああいう時は俺を見掛けても名前を呼んだり、傍に来たりっていうのは絶対するな。そうじゃねぇと、対峙してた相手がヤバい奴らだった時、お前の立場が危うくなる。俺や鬼龍組を良く思わない連中は沢山いるから……」
「う、うん……分かった」
どうやら朔太郎は先程の騒ぎの中で咲結が自分の名前を呼んだ事で対峙していた相手に顔を覚えられ、彼女が危険に晒されるかもしれない事を心配していたようなのだが、咲結にはそれがどんなに重大な事かイマイチ想像し難いものだった。
「あの、それでもう大丈夫なの? さっき一緒に居た人、怪我してたみたいだけど……」
「ああ、あの程度なら問題無い。自分で帰れるって言うから車まで送って来た」
「そ、そうなんだ……」
朔太郎は『あの程度』と言っているけれど、一緒に居た相手の怪我は咲結からすればそれなりに酷い状態だったと思うのだが、朔太郎が問題無いと言うならば平気なのだろうとそれ以上言葉を続ける事は無く、この日はそのまま自宅まで送ってもらって別れた。