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赤い夕陽に打たれながら男は考えた。金を使い切ってしまった。どうしようか。家族には絶縁され、頼る宛が無い。男は思い付いた。友人に頼ろう。男は早速万年筆を手に持ち、手紙を書き綴った。書き終えた頃には、夕陽が月に変わっていた。男は希望と共に、手紙をポストに入れた。三日以内に返事が無ければ自殺しよう。
一通の手紙が届いた。手紙の始まり方はこうだった。「敬愛なる友人へ。」奴にしては随分と真面目な始まり方だった。私はソファーに腰がけ、手紙を黙々と読み綴る。手紙の内容はこうだった。金に困った、金を貸してくれ。と言うふざけた内容だった。やはり奴は奴だった。怒りや呆れを感じた私は手紙の返事を無視した。
友人から返事は無かった。男は川に向かう事にした。深夜の月は不気味に黄色く、輝いていた。川に着くと、うっすら人影を見つけた。よく見てみると、川沿いに少し大人気た少女が座っていた。少女は私に気づいた様で、話し掛けて来た。「何をしているの?」私は正直に答えた。「自殺だよ」少女は一瞬戸惑ったが、その後に微笑んだ。「私も一緒にしたいな」「僕と心中したいのかい?こんな見ず知らずの男と。」私は、少し馬鹿にした口調で言葉を返した。「うん」私は少女の回答に戸惑った。間を置いて、私は言った。「そうかい」私は少女の手を引いて、川の中に入った。少女は抵抗していなかった。寧ろ、幸福を顔に浮かべていた。そして、私はそのまま川の奥に沈んだ。
明くる日、家の電話が鳴った。私は電話を受け取った。電話の向こうは何故か、警察であった。話を聞くと、奴は金を使い切り、女と心中を図ったらしく、奴は生き残ったらしい。私は呆れながらも、その足で病院に向かった。
目が覚めると、男は病院のベッドの上にいた。どうやら死に損なったらしい。看護師が私に気付くと、慌てて主治医を呼んできた。その後に主治医から話を聞くと、少女は冷たい水死体になっていたらしい。それにしても何故私は生き残ったのだろう。その後に警察が来て事情聴取されたが、少女の事は知らないと、嘘を付いておいた。死人の為に牢屋に入りたくないからだ。警察に、親族は居ないか問われ、私は真っ先に友人の名前を言った。数分経った頃に、友人が私の病室に訪れた。「何してるんだ。馬鹿野郎」友人は軽蔑な眼差しで私の事を見つめた。「酷いじゃないか。信じていたのに」私はふざけた口調で返事をした。「人を信じたお前が悪い」友人は、そう言い捨て病室を去った。早すぎる友人の帰宅に戸惑ったが、やがて男は気付いた。友人に見捨てられたのだ。
春にして男は故郷を離れた。友人に見捨てられ、人に対して嫌気を感じた男は、手紙を残した。目的地も無く、一人黙々と歩いていた。男の目は彷徨っていた。ふと、いつか読んだ小説の一文を思い出した。信じる事は罪である。その言葉が呪いのように男の脳に纒わり付く。言葉が出なかった。夜の風は冷たく、黄色い街灯の光が相まって、夜道は余計に不気味さが増す。私が間違えたのか。そんな事を呟いても返事は無かった。男は思った。死のう。男は川に向かう事にした。もうすぐ死ねる。そう思うと、男の足取りは自然と軽くなった。冷たい風が、男の顔を打ち付けた。川は男の目の前にあった。男は迷う事無く、冷たい川の中に入った。自分は弱者だと信じたくなかった。走馬灯のように、友人の顔を思い浮かべながら、男は魚となった。
ある梅雨の朝だった。空は灰色に染まっており、辺りは街灯の黄色光と泥で、気味の悪い橙色に染まって居た。雨が眼に入ってきたが、それでも私は脚を止める事は無かった。何故ならば今日は友人の葬式なのである。どれぐらい経ったのだろうか。気が付けば私は葬儀場の前に立っていた。雨靴に目を向くと、泥で黒く濁っていた。葬式場の中に入ると、親族の泣き声や、坊主のお経の声が響き渡った。私は遺影の方に目を向く。遺影は友人の顔で間違え無かったのだ。信じたくないのだが、友人は確かに死んでいたのだ。その時、微かに友人が微笑んだ気がした。私も微笑み返した。「お達者にな」
帰宅後、私は友人の遺書を読み綴った。手紙の内容はこうだった。拝啓、皆様へ。私は、自分が気付かぬうちに堕落してしまったのです。欲に塗れる化け物になってしまったのです。私は、人ではなく無くなってしまいました。最後に、私は化け物としての尊厳を守るために、死のうと思います。
私は放心していた。私が友人を見殺しにしていたのか。そんな訳ない。これはきっと何かの間違いなんだ。自分にそう言い聞かせても何も変わらない。私は考える事を辞めた。