「契約書…?一体何の契約書ですか?」
俺が問いかけると先生が答えた。
「今から魔王と契約をする。」
「今後一切
グル、クルル、サーフィー等の竜に触れない契約だ。」
『それって…』俺は言いかけて止まった。
何故かというと
思っていたことをサーフィーが言ったからだ。
「ねぇ。それって代償があるんじゃない?」
サーフィーが続ける。
「魔王は乱暴で欲が強いと有名なはず。
こんなので聞いてくれるかな?」
そう心配しているサーフィーを横目に
俺は印鑑の模様を見てハッとした。
『薔薇の模様…とドクロ…?!』
そう。この印に俺は覚えがあった。
「クルル、気づいたか。これは魔王の妻の印だ。」
「ど、どうやって手に入れたのです?」
「こんなの手に入るはずがないじゃん!レプリカ?」
俺とサーフィーが同時に言う。
すると先生が俺に近づき印鑑を取り上げた。
「これは、レプリカではない。実物だ。」
先生が印鑑の持ち手部分を回す。
すると荷物を持ち上げる悪魔の模様が出てきて
カチカチと音を鳴らしていた。
「これは小さな時計になっているんだ。」
「印鑑自体が小さなカラクリになっている。」
「で、これを何故持っているか知りたいか?」
説明を簡潔にして先生が俺等に問う。
勿論『はい。』と答えた。
「俺は魔王の妻”ロバール”を手術した。」
「蜘蛛膜下出血で倒れたからだ。。」
「…え?」
「兄ちゃん…手術したの?」
サーフィーが静かに聞いた。
「あぁ。お礼に貰ったんだよ。」
「えっ、兄ちゃん凄い!」
「さすが先生ですね!」
俺とサーフィーが同時に言う。
そしたら先生に頭を強く叩かれた。
「馬鹿かお前ら。あのとき何か細工したのではと疑われ、
目を光らせられているのだ。」
そう言う先生に対し俺は頭を押さえながら言う。
「ほう……。成る程です。」
「逆に危険なんですね。危ない。」
「兄ちゃん…なんかごめんね。」
「ふん。」
先生が赤い煙を吹く。
俺はその煙にビクッと震えた。
「怖がるな。契約書を燃やしただけだ。」
「は?書いてたんですか?」
「無駄話してる間にな。」
「へぇ、てか燃やしていいんですか?」
「燃やしたら魔界に送られるからな。
…バレなければいいのだが。」
「なにがです?」
「いや。なんでもない。」
「え?そ、そうですか。」
少し先生の様子がおかしいが
俺は気にも止めなかった。
「あ、兄ちゃん。返事来てるよ。」
「魔王早っ!暇なのか??」
思わず俺が言うとサーフィーがサッパリと言い放った。
「暇でしょ。ボーっとしてるだけなんだから。」
「えぇ、マジか。それで返事は?」
「良いだろう。
だが悪魔の治療をするという契約だ。
お前は_だからな。」
肝心な部分が魔族語だった。
なんだろうか、と考えていると
手紙を見ていた先生は震え、
手紙をぐしゃぐしゃに丸めた。
「……!」
そう思った矢先
先生がポケットから鉗子を出し、
自分の首に当てる。
「すまない。サーフィーの読み通り
危険だった。これは…俺が悪い。」
「話す暇もない。契約を果たすのは
俺じゃなくクルルだけでもいいってことだ。」
焦っているのか言葉が成立していない。
「意味がわかりませんって。ちゃんと説明を!」
「…魔族語で俺も契約対象で
死ななければならないそうだ。」
空気が凍った。
「契約破棄は?」
恐る恐るサーフィーが言った。
「無理だ。すまない。」
「えっ、」
「……クルル。お前は執刀医になれ。」
「…俺は執刀医になれません。
先生以外の執刀医は信用できない。」
そう答えると悲しそうな顔をして先生が言う。
「お前が俺の代わりになれ。
そしてサーフィーは助手だ。」
先生に向かってサーフィーが首を横に振る。
「クルル以外、助手なんて居ないでしょ。」
サーフィーの目には涙が浮かんでいた。
泣くのを我慢し、唇を噛んで俺が言った。
「一緒に逃げましょうよ。医者なんか辞めて。」
「お前っ…馬鹿野郎!!!」
先生が俺の首筋を殴る。
俺は綺麗に吹き飛んだ。
「医者を辞めたら俺の存在価値はない。」
「とにかく俺は死ぬんだ。何をしても手遅れ。」
「そ、そんなことないですって!」
「っ…黙れ。」
先生が青い炎を吹き
周りは火の海になった。
息がしにくくなり、意識が薄れ始める。
「俺が馬鹿だった。今までありがとう。」
サーフィーと俺に向かい敬礼すると
先生は鉗子で喉を突き、自害した。
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