Side 緑
そこは、かなり高層階の病室だった。しかも個室。
広すぎるようにも思える室内には、所狭しと医療機器が置いてあるからだだっ広くはなかった。
「苦しくないか?」
集中治療室から一般病棟に移動してきた樹。酸素のチューブ——カニューレと言うらしい——は鼻に付けられているけど、運ばれたときよりかは顔色も良くなっている。
「うん。これ付いてるから息も楽だし。手術の跡も痛くない」
何やら俺らには難しくてわからない手術を受け、どうやら気胸は快方に向かっているようだった。
樹は今日の空模様のように爽やかに笑ってみせる。
「そっか。安心した。みんなにも言っておくね」
ほかのメンバーは、それぞれ個人仕事で来られない。今は俺だけだった。
「慎太郎、今日オフ?」
「そうだよ。暇だったから、樹どうしてるかなって」
樹は心底嬉しそうに笑った。
気胸になってから、内輪でもあまり笑わなくなっていた。たぶん、痛みが出るからだろう。
でも今は、屈託のない笑顔を浮かべている。それなら、最初から入院させたほうがよかったかな、なんて後悔も残る。
「…大丈夫だって。無理はしてないよ。だけど多少は頑張らないと、治らねーだろ」
見透かしたように、彼が言った。
「ちょっとぐらい抗って闘ったほうがカッコいいんじゃね」
強気な樹らしかった。だけど、どこかその表情は揺らいでいる。
「手術だって大変だよ。樹はすごい頑張ったよね」
声をかけたけど、樹は軽く咳きこんでうつむいてしまった。
俺は目線をそらす。その先に、小さな棚の上に置かれた金色のピアスがある。俺によく似たフープピアス。
俺も含めて彼が、アイドルであることの証左になるもの。
それは居場所に帰れるのを、待っている。
「早く戻ってこいって言ったらプレッシャーになっちゃうかもだからさ…、頑張れ」
樹は俺を見上げてきた。
「『頑張れ』で頑張れるんだろ? なら、俺らがいくらでも言ってやるよ」
それを聞き、照れたようにはにかむ。
「…うん。ありがと」
じゃあそろそろ行くわ、と腰を上げると、「見送るよ」と樹もベッドから立ち上がる。
「いいよ、無理しなくて」
「今日は調子いいから大丈夫」
そう言うんならいいか、と2人連れ立って病室を出る。
「みんなもすぐ見舞い来ると思うよ。きょもとか北斗なんて、ずっと寂しがってるから」
アハハ、どこか楽しげないつもの笑い声。胸をさすってるから心配になるけど、確かに仕事を続けていたときよりかは表情もいい。
「楽しみにしとくわ。みんなが来てくれるの」
玄関近くで、樹はそう手を振った。
樹なら、メンバーに会いたくて速攻で退院してくるんだろうな。根拠はないけど、そんなことを思う。
自動ドアをくぐった後に振り返ってみれば、彼が満面の笑みで立っているのが見えた。
「待ってるぜ!」
時代も老いも君たちと見たいから。いや、見るんだ。
あえて言わないけど、本気で俺は思ってる。
だから、俺らはここで希望を抱えて待ってるよ。
終わり
Happy Birthday Jesse!!!!!!
コメント
1件
最後の締まり方が好きです!