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Smile
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神代が息を呑んだ。
「見つかった……!」
施設内放送から理事長の声が響く。
『No.0124を確保せよ。』
『博士および神代研究員を拘束。』
『抵抗した場合は射殺を許可する。』
武装した警備員たちが地下通路へ押し寄せてくる。
博士は朔水を背中へ隠した。
「神代。」
「頼む。」
神代は力強く頷く。
「必ず。」
その時。
朔水の身体に再び異変が起こる。
「っ……!」
全身に焼けるような痛みが走る。
狼と鮫の遺伝子が共鳴し始めたのだ。
黒かった髪が根元からゆっくり色を失い、深い青へ。
毛先へ向かうにつれて、澄み切った水色へと変わっていく。
狼耳も同じ色へ染まり、尻尾も夜の海のような青い毛並みへ変化した。
目を開けば、左目は透き通る青。
右目は月明かりのような黄金色。
海面へ映る自分を見つめた朔水は、小さく呟く。
「……ぼく。」
「誰……?」
その言葉に博士の胸が締め付けられる。
名前を奪われ。
姿まで変えられた。
幼い少年は、自分が誰なのか分からなくなっていた。
「父さんがくれた名前は……朔水。」
「その名前、大好きだった。」
涙が頬を伝う。
「でも。」
「今のぼくは。」
「朔水じゃない気がする。」
博士は今にも駆け寄りたかった。
抱き締めて、「お前は朔水だ」と伝えたかった。
だが警備員たちがすぐそこまで迫っている。
神代が叫ぶ。
「博士!」
「もう時間がありません!」
博士は涙を堪えながら朔水の肩へ手を置いた。
「よく聞くんだ。」
「名前が分からなくなっても。」
「姿が変わっても。」
「心だけは失うな。」
「優しいお前のままで生きろ。」
朔水は泣きながら頷いた。
「……うん。」
博士は最後に強く抱き締める。
「愛している。」
「私の息子。」
「生きろ。」
「誰よりも自由に。」
神代は朔水の手を掴む。
「行こう!」
二人は夜の海へ向かって走り出した。
博士は警備員たちの前へ立ち塞がる。
「ここから先へは行かせない。」
白衣を翻し、一人で銃口の前へ立つ。
その背中を、朔水は何度も振り返った。
「父さん!」
博士は笑って手を振る。
「振り返るな。」
「前だけ見て進め。」
朔水は唇を噛み締め、海の闇へと消えていく。
その胸には、一つだけ残った想いがあった。
(ぼくにはもう、名前なんてない。)
(でも……。)
(父さんが愛してくれたことだけは忘れない。)
こうして、No.0124でもなく、朔水でもない、名無しの少年として新しい旅が始まる。
そして長い時を経て、孤独な旅の途中で一匹の鮫――ルルと出会う。
ルルは少年の過去も、実験施設も、番号も知らない。
ただ微笑みながら言う。
「名前がないなら、僕が付けてあげる。」
「今日から君は――セト。」
その一言が、名無しになった少年へ新しい人生を与える。
それは本編『潮風に、遠吠え。』へと続く、もう一つの始まりだった。
〜完〜
コメント
1件
うわあああ完結したんだね…!😭💕 第十章、涙が止まらなかったよ…。博士が「愛している」「私の息子」って言ったところで完全にやられた…。名前も姿も奪われて自分が誰か分からなくなった朔水の心情が切なくて、でも最後にルルが「セト」って新しい名前をくれたシーンで一気に希望が溢れたっ…! 本編『潮風に、遠吠え。』も絶対読むね!! ルルちゃさん、素敵な物語をありがとう🌸✨