テラーノベル
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それが夢であるか現であるかを決めるのは、いつも我々自身であるという事を、決して忘れてはならない。
・ ・ ・
さわさわと木の葉が触れ合う音と風の匂いにリラックスしたままウトウトと微睡む。柔らかな花の匂いに、そっと微笑みを浮かべた時だった。
「みどりー!」
ふと、見知った声が自分を探していることに気がついて、閉じていた瞼を開いた。寄りかかっていた木の幹から背中を離して立ち上がると、少し離れた茂みの向こう側で鮮やかな赤いマフラーが生き物の尻尾のように揺れている。
「ラダオク…」
彼の名前を呼びかけてハッと口を押さえる。
せっかくこちらに気がついていないんだから、ただ呼ぶだけなんてつまらないことをして良いわけがない。
溢れそうになる笑い声を抑えて、はしゃぎ出す心臓の音を気分良く聞きながら、未だ自分の名前を呼んでキョロキョロしている男の背後に忍び寄った。
「あ、みど…あれ?」
背後から肩をつついた後、俺のような種族がゴーストである人特有の重力を感じさせない動きで素早く飛び上がり、逆さまのまま後ろを振り返っている彼の顔の正面で待機。
振り返った顔を戻すか戻さないかの境目でうまい具合に影をつくって…
「…バァ!」
「ゔわぁぁぁあッ!?」
作戦通り!勢いよく跳ね上がってその場に尻餅をついた様子に我慢していた笑いを腹の底から吐き出すと、彼は恨めしそうに少し涙が浮かんだ目をギロリと鋭くさせた。
「みぃーどーりー…?」
「ンヒャヒャヒャヒャッ!」
「おぉい、悪い笑い方してるって!」
俺が逆さのまま笑い転げていると、目を吊り上げて怒っていた彼も、困ったように笑いながら脱力して地面に転がった。
その隣に俺も寝転がる。汚れなんて払い落とせば良いのだ、気にするだけ無駄なこと。
「ハァ〜…ラダオクン、何カ用事?」
「あ、そうだよ!新しい依頼ギルドから卸してきたから、みんなに召集かけたのに誰も気が付かないんだから!」
「アレェ、ソウナノ…?」
らだおくんの言葉に首を傾げながら空中に印を結ぶと現れる半透明のウィンドウ。
パーティーチャットのタブを開けば、確かに数時間前にらだおくんからメッセージが届いていた。
「寝テタ」
「はぁー、寝てただぁ?」
「ウン、暇ダッタカラ」
ぷんぷんと怒るらだおくんに頷くと、彼はたちまちへにゃりと怒りを失くして、今度は拗ねたように唇を尖らせた。
「他の誰誘っても既読すらつかないんだもん…一瞬イジワルされてんのかと思ったわ」
「ンハハッ」
「笑い事じゃないが?」
他のメンバーは王都の中心街でブラブラしているとマップのアイコンで示されていたので、そこ目指して歩き出す。
二人で中心街のエリアに足を踏み入れた辺りだっただろうか、その時、周囲にいた住民達が何の冗談かパッ…と一瞬のうちに姿を消してしまったのだ。
「ぁえ?」
らだおくんのポカンとした声が隣から聞こえて来たけど、そのマヌケ具合を揶揄って遊ぶような余裕は、その時の俺には無かった。
「ッ…!?」
バクバクうるさい心臓は明らかな異常事態を察知している。頭の中では、ここに居たらよくないことが起こるぞ…とひたすらに警鐘が鳴り響いているし、でもだからってどうすれば良いのか簡単に答えを導き出せるほど俺の脳はハイスペックな訳でもなくて…
「え、な、なにこれ…?ドッキリ?」
らだおくんが困惑の表情のまま身を固くする隣で、俺も同じように意味もなく空を見上げたまま動かないでいた。
・ ・ ・
らっだぁ side
突然、住民達が姿を消した。
ついさっきまで笑いながら客と会話していた道具屋の主人も、お使いをしていた子供を褒めていたパン屋のおばさんも、みんなだ。
静まり返ったその場所で、いつもより薄く感じる酸素を必死に取り込んで頭を回す。
「ッ…!?」
みどりも異常事態に驚いているのか、いつもそこまで変化しないくせに、今はギョッとした顔で辺りを確認するようにぐるりと見回してから、唖然とした表情で空を見上げている。
…珍しくみどりが驚いているのを見たからか、家出していた冷静さが帰ってきた。
「み、みどり!取り敢えず…逃げよう?」
「逃ゲルッテ、ドコニ…?」
「え…えっと……」
困ったような表情のみどりに返されて言葉に詰まった。逃げ場所なんてわからないし、そもそも逃げられるものなのか?これって。
あ、なんか、もうどうしよう、汗やばい。
手のひらから滲む汗を拭う。焦っているせいで、どうやっても思考が空回りする。
「エッ!?」
ちょっと大袈裟なみどりの声に、今度は何だと手の平をジッと見つめていた視線を離すと、俺の喉から今まで自分でも聞いたことのないような変な呻き声が零れ落ちた。
「どうなってんの…?」
全く見知らぬ場所に立っていたのだ。
そういえば、足元の質感も全然違っている…あそこは石畳だったはずなのに、今は完全に木製…よくある床板って感じ。
「え、ホントにどこ?何なの?」
少し苛立ち混じりに辺りを観察する。
ごくごく一般的な子供部屋だ。
埃一つないピカピカな部屋には俺とみどりが所在なさげにポツンと立っているだけ。
「…そ、外見てみよーっと!」
気心の知れた仲とはいえ、さすがに耐えきれなくなった自分からアクションを起こす。
ゼンマイ仕掛けのブリキのおもちゃみたいにカクカクした動きでドアノブに手を伸ばして、どことなく漂う不穏な空気に負けじと体重をかけて扉を勢いよく…開こうとした。
「っ、あれ?」
「…扉、開カナイネ」
一人通常運転に戻ったみどりはすっかりいつもの調子で、ベッドの上に座ってマイペースに過ごしている。
何と言うか、本当にどんな神経しているんだろうと思う……もちろん、いい意味で。
「出られないならここにいるしかないか…」
「ソウダネ…魔法モ、制限サレテル…」
ただ暇してそうに見えているみどりも、実はしっかりと頭を働かせていたらしい。
手を握ったり開いたりしながらポツリと呟いた言葉に、ますます訳がわからなくなる。
「何が目的なんだろ…」
「…デスゲーム、トカ?」
「なんで?」
チラリと俺を意味ありげに見上げてくるみどりに、コテンと首を傾げた。
「…サァ…貴族ナラ出来ソウダカラ、トカ?」
「んー…でもさ、仮にそうだとして、最初に住民がみーんないなくなっちゃったのはどうやって説明するの?」
「貴族シカ知ラナイ魔法ガアルノカモ…!」
そう言いながら両手を握りしめたみどりが、どことなくキラキラした瞳で天井を見上げた時、ジジッ…と、子供部屋の学習机の上に置かれていた小さめのラジオが音を立てた。
驚いて扉から飛び退いて、みどりを盾にするように背後に隠れて顔だけを覗かせる。
『ようこそ!ここは剣と魔法の世界!…ジジッ…ここでは…ジジッ…のしょくぎょ…ジジジッ…』
テーマパークのクルーのように元気な女性の声が途切れ途切れに聞こえる中、段々と別の声が混じり始め、最後には男とも女とも取れるような形容し難い声が語り始めた。
『ようこそ、ここは私の洋館だ。突然すまないが、君達にはこれからずっと、ここで生活してもらうこととなったんだ…あぁ、異論は受け付けないよ。我慢してくれ』
一人でベラベラと話し出す第三者。
はい、そうですか…とは言えない内容がつらつらと並べられていくのを、ただただ受け止めようと努力するだけ。
『君達は危険と可能性を秘めているんだ!』
やや芝居がかった声がそう言い切ると、しばらく沈黙が流れた。ホワイトノイズと言うのだろうか、さぁぁ…と微かに聞こえる雑音が、何故だかやたら耳障りに感じる。
『…頑張ってね』
祈るような儚さでそう囁くと、ラジオからの音は何も聞こえなくなった。
つまるところは…どういうだ?
しっかり頭の中にある情報を整理しないと、まだ頭がゴチャゴチャしてる。
「つまり…俺達の能力が認められたのと同時に、危険視もされてて…?」
「調ベルタメニ、ココニイロ…ッテコト……?」
頭にハテナが浮かぶと同時に、あれだけ力を入れてもピクリともしなかったドアが、ガチャリと音を立てて開いた。
…出るか、出ないか。
頭で考えているうちにみどりがさっさと出て行こうとしていたので、俺も慌てて後を追いかけた。
・ ・ ・
みどり side
「ア」
扉から出てすぐ、向かいの角から見知った顔の三人組が現れて気の抜けた声が出る。
すぐに向こうの三人も俺たちの存在に気がついて同じように声を上げた。
「らっだぁたちも居たんだ!」
「こっちは階段が瓦礫で塞がれてて…それ以外は行き止まりやったわ」
「ラジオ聴いた?やんなっちゃうよねぇ」
一気に賑やかさが増した空間に、ノイズが走る。廊下の角に捨てられたように置かれているボロボロのラジオからだった。
今度は何を言われるのだろうかとみんなで息を呑んで声を待つ。
『ジジッ…ジッ……あとから付け加えるようで悪いけど、くれぐれも脱走計画だけはしないように…ジジッ…死にたくないならね』
ぷつんと切れたラジオの音声に、みんながどこか居心地悪そうにしていた。見知らぬ場所に閉じ込められたとなれば、やはりまず脱走を考えるのが普通だろう。
当然ながらそんな思想はバレバレで、対策もしっかりされている…ということを暗に示しているということだ。
「簡単に抜け出せるとは思わないほうが良いのかもしれない…とりあえずやれることからやろう…あ、二人は部屋の探索した?」
レウさんの問いかけに二人で首を振る。
そんな事、考えてもいなかったけど…そうか、デスゲームを題材にしたどんな作品だって、まずは探索から始まるものだもんね。
「じゃあ早速探索しますか」
らだおくんの声で始まった子供部屋の探索だったが、これといった発見もなく終わってしまった。
部屋は広いものの、置かれた家具や小物の数は少なく、探すポイントも少ないからだろう。収穫の無い探索に飽きてしまったらだおくんなんかはつまらなそうに壊れて音一つたてやしないラジオを手に持って、振ったり叩いてみたりと暇を持て余している様子だ。
「ねぇねぇー、そろそろ下行こうぜ〜」
同じく秋を感じ始めていたのであろうコンちゃんがうがーっとその場で大きく伸びをしながら移動を訴えた。
確かに、長時間同じところを探索していても視野が狭まるだけといえばそうなのだが…ちらりと子供部屋の隅に置かれたベッドの、汚れひとつない綺麗なマットレスに視線をやってから、諦めてみんなの後を追う。
「あっ…玄関扉だ!」
らだおくんがそう言っていそいそと扉を開けようとしたけど、結果はお察しの通り。
ガチャンと鈍い音がするだけで、ミリも開かない扉を苛立ったように殴りつけたらだおくんは、力技を試そうと魔力を込めたものの、想定していたであろう爆発的な威力は出ず、きょとんと首を傾げていた。
「おまえ…あのなぁ、らっだぁ…」
「え、なに?」
その様子に呆れたように肩を落としたきょーさんが、魔力を制限されていることを改めて伝えると、らだおくんが思い出したように目を開く。
「あ、そっかぁ…じゃあダメだわ」
後は任せたと言わんばかりにぱやぱやしてしまったらだおくんに代わって、きょーさんが館の探索を提案した。
「あのレベルの部屋を一部屋ずつ全員でまわってちゃあ、時間がかかるんよなぁ…ただでさえバカデッカい館っぽいし…」
「ジャア、分レル?」
「そうやな…じゃ、どりみーのいうように二手に分かれて探索しようか!」
・ ・ ・
レウクラウド side
俺はみどりくんと一緒に左側の通路を探索することになった。
待ち合わせはあの玄関ホール。探索が終わり次第あそこに集まるって話だったけど…
「ば、ばけもんとかいたらどうする…?」
「イナイ、イナイ…ソンナモン」
「あぁぁ…そ、そんな押さないでぇ…!」
素っ気ない返事のみどりくんに後ろから急かされながら歩いていると、いかにも風呂場ですといった感じの半透明で曇ったような細工のされた扉が見えて足を止める。
「…」
何故だかわからないけど、そこには大きな人形の影がこちらを驚かすように一瞬横切る風景が当たり前のように頭に浮かんで、ぽかんと頭の上にハテナが浮かんだ。
「あ、あれ…?」
「ドウシタノ?」
「あそこの扉ってさ、影がこう、シュッ!…って、一瞬だけ横切らなかったっけ?」
何言ってんだこいつ、というような視線がグサリと刺さって反射的に謝罪を述べると、フンと息を吐いたみどりくんが扉を見つめた。
何かを懐かしむような、居心地のいい空間に想いを馳せるような…そんな表情で。
「みどりくん…?」
「?」
「あ、いや…なんでもない……」
呼び止めてからハッとして首を振る。
何だか寂しそうな表情をしていたなんて言ったらキモチワルイ、と嫌そうな顔をされるに違いない。
「鏡とかすごく綺麗だね」
「ウン」
「歯ブラシが全員分…気味悪いな」
彼はいつも、そういう…なんというか、物語に出てくる主人公が言うような少し小洒落ていて、カッコつけたような言葉を聞くと、そんな反応をするのだ。
「…ふむ…ごく普通の風呂場って感じだね」
「ウン」
髪の毛がたくさん落ちていた…なーんてこともなく、本当によく掃除が行き届いた、ただ綺麗なお風呂場がそこにはあった。
「…」
「レウサン?」
「あ、ごめん!次の部屋に行こうか…!」
みどりくんを追いかけて…扉の側で足を止めて一度振り返る。
水一滴も無いあの白い浴槽には、恐怖心を煽るような、深い深い青色の液体が溜められていたような気がしたのだ。
「どうしてだろう…」
「レウサン!置イテクヨ!?」
「ぁ…い、今行く!!」
いいかげんに本当に置いていかれそうだ。
こんな場所に置いてけぼりの独りぼっちにされるのは普通に怖いので、その後はもう止まることなく急いで追いかけた。
「トイレだね…変な構造だけど…」
この館のトイレ。
入ってすぐ突き当たりに洗面台、その後ろには壁で仕切りられた先にトイレ…個室というには微妙。
この部屋に唯一存在する扉には鍵はなかったし…トイレ中に誰かが入ってきたら間違いなく見られる。いろいろと。
「欠陥住宅?」
「うぅん…ちょっと意味は違うかもしれないけど…まぁ、欠陥といえば欠陥、なのかな?」
二人でほとんどものが無いトイレをぐだぐだ探索し、何もないねと言葉を交わしながら部屋を出て来た道を引き返す。
そんな会話の途中でも、違和感がつきまとってなかなか離れてくれない。
本当に、何故だかわからないけど…
「…俺は、この館を…知ってる……?」
根拠はないけれど、そんな気がした。
・ ・ ・
らっだぁ side
俺たち右側チームが探索を終えて戻って来た時には、もう既に左側チームが玄関扉の側で待機していた。
みどりは俺たちを見て軽く手を上げたのに対して、レウは何も言わずに何かを思い出すようにボーッと考え込んでいる様子だ。
「レウ?」
「ん?あれっ、いつの間に…!気が付かなくてごめん、ちょっと考え事しててさ…」
「考え事?」
レウは言うか言わないかでうーんと悩ましげに眉を顰めながらも、俺達を順々に見てから小さく息を吐いた。
「いや、なんかさぁ…既視感って言うのかな…俺、ここ来たことあるような気がしてて」
「え!来たことあんの?」
「そんな気がするってだけなんだけど…うーん、いや…多分気のせいだと思う、うん」
一人納得したレウがうんうんと頷いたところで、思い出したようにコンちゃんが本を一冊影から取り出した。
コンちゃんは能力で影に物を出し入れできる…いわゆる収納能力が使えたらしい。
この能力が制限された中でなかなか有能な能力が扱えると言う事実に、俺は歓喜した。
「この本なんだけど、他の本は見たこともない字で書かれていて読めなかったんだけど、これだけは読める字で書かれてたんだ〜」
「コレ…日記?」
「そぉ、誰が書いたかはわからないけど、それっぽい文章が、まるで俺たちに向けた言葉みたいに書いてあってなんだか面白いよ!」
ニコッと笑うコンちゃんから本を受け取ったみどりは、ページをぱらぱら捲りながら中身に目を通していく。
「…ナンダコレ?」
首を傾げたみどりによってコンちゃんの影に投げ入れられた本。
そこには、要約すればこう。
“今いる場所は現実じゃないかもしれないよ、目に見える全てを疑ってね、時には貴方の大切な仲間のことも…ね?”
といった調子の文が、何ページにもわたり長々と回りくどく書かれているのだ。
それらからは、俺達にもそう思ってもらえるような言い回しをしよう、という作者の思惑が透けて見えた。
ここが現実じゃない、だなんて…嘘も大概にしろ、寝言は寝て言え…と言ってやりたい。
「まったく、バカバカしい」
「そんなわけないのにね!」
「本当ニ?」
沈んだ空気を持ち上げようとして、ガハハ!と声を上げた俺と、それに同意するレウの同意の間を綺麗に切り裂いたみどりの声。
それは周りの人外をじろりと人睨みして、最後に俺を射止めた。
「ソモソモ…ラダオクンガ急ニ誘ッテキタラ、コンナコトニ…」
…ドクリ、と。心臓の音が一拍。
周りの視線がみどりの疑いの温度を吸って、少し冷め始めたのを俺は感じていた。
もしかして…今、俺が疑われてる?
ハッ…と呼吸が肺から逃げていく。
嘘だろ、と言いながらも、俺の顔は引き攣ったまま笑っていた。
「な、に…グーゼンだって!そーんなわけないやん!おめぇ、みどりこのヤロウ!」
「ヤメテッ、ヒーンッ…!」
ペチペチと頭を叩くと、その場の空気がふっと軽くなって、温かい笑い声が広がった。
でも、それとは別に、俺の手は随分と冷え切っていた…いくら今の現状がそう思わせるような物だったとしても、あんなに…いや、終わったことを蒸し返すのはやめとこう。
その後は、壁にかけられている時計に従って食事を終わらせてから部屋に戻る。
「おやすみなさい」
「オヤスミ」
最初にいた部屋で寝ようという話になって、俺とみどりで子供部屋に戻る。
無性に、今頃何を言われているんだろうと、そんな事を考えてはっと我に帰った。
「…ダメだ、惑わされるな」
ここで一番気をつけるべきは、情報操作と感情操作…少ない情報に爆発的な印象を与える情報を送られれば、無条件に信じて取り返しのつかない判断をしかねない。
そう、たとえばラジオの言葉も…死ぬなんて事を言われたから諦めてしまったけど、本当に死ぬほどの罠があるのか?
「…」
諦めさせるだけのブラフ…可能性はいくらでもある。
それから、今回のように誰かの感情に巻き込まれて誰かを窮地に立たせるようなことはしたくない…気をつけないと。
「ん…?」
マットレスの一部分がカサリと音を立てた。
軽く撫でて確認してみるに、どうやらシーツとマットレスの間に紙が挟まっている。
「なんだこれ…」
メモのようだが、暗闇のせいで読めない。
今このためだけに明かりをつけるのは寝ているみどりに申し訳ない…諦めて折りたたんでからポケットにしまった。
・ ・ ・
みどり side
子供部屋には一つしかベッドがない。
昨晩はらだおくんに譲ったものの、やはりクローゼットの中で寝ると言う選択肢は間違っていたのかも。
「…イタイ」
体の痛みで目を覚ます。
時計はまだ随分と早い時間を指していた。
ふわりと欠伸をひとつ。今から寝直す気分にはなれない…どうせクローゼットだし。
「探索スルカ…」
らだおくんの小さな寝息が聞こえる部屋から出て、階段を降り風呂場に向かう。
ところどころ家の中の影が蠢いているのを見るに、コンちゃんのお友達が見回りでもしているのだろう。
「ネムィ…」
顔でも洗おうと思っていた…それなのに。
「……レウサン?」
やけに湿度の高いことに気が付いて、昨日の夜、最後に風呂に入ったきょーさんが風呂の栓を抜かなかったのかと思いながら浴槽の方を見て…息を呑む。
「イヤ、イヤイヤイヤ…ェ?嘘デショ…?」
浴槽に溜められた冷たい水は、目の覚めるような鮮やかな赤色に染まっていた。
その心臓部には滅多刺しにされた跡が残されていて、思わず口元を押さえてその場に崩れ落ちた。
「ヴ、ェェ…」
酸っぱいものが込み上げてくる。口から溢れる嗚咽はどう頑張っても止められなかった。
「ングッ…ハァ、ハァッ…ハァッ…!」
ポロポロと涙を流しながら、ふらふらと壁伝いに足を動かして、子供部屋の扉を叩いた。
なかなか起きないらだおくんを諦めて、今度はきょーさん達のいるピアノ部屋へ。
何度も何度も扉を叩けば、まだ眠そうなきょーさんが顔を覗かせてから、俺の有り様を見てギョッと目を見開いた。
「ど、どしたん…」
「レウサン、レウサンガッ…!!」
その一言で異常事態を察したらしい。奥でまだ寝ているらしいコンちゃんを大きな声で呼び起こして、そのまま泣きじゃくる俺を子供部屋まで移動させてから様子を確認しに行った。
「ダメや、もう…死んでる…」
絞るような声が、悲痛に歪んでいる。
握りしめた拳は震えていて、怒りに満ちているように思えた。
「キョーサ_」
俺が不安で手を伸ばした時、部屋のラジオが音を立てた。
『ジジッ…被害者が現れたようですね…ジッ、ではただいまより裁判を始めます!』
唐突なラジオに唖然としていると、その音の不快感に煽られたらだおくんが勢いよく起き上がって辺りをキョロキョロ見回した。
「な、なに?何があったの?」
「らっだぁ…その…」
いつも饒舌なコンちゃんが、何もわかっていないらだおくんの問いを前に言葉を詰まらせていた。
『ジッ…時間がありません、目には目を、歯には歯を…そして…ジジッ…死には死を…ジッ』
瞬きの間に視界が白黒に切り替わる。
また部屋が変わったようだ。
その部屋は、全てが白と黒のチェック模様なので、奥行きだったり凹凸だったりが酷く曖昧に感じる。
「ここは…?」
コンちゃんの困惑する声が向かい側から聞こえて、反射的に近づこうと足を前に出すと、カツンと何かに当たって進めなかった。
白黒チェックの柵で囲まれている。
「ェ…」
後ろと左右には、隣の人の肋骨から上までしか見えないように壁が作られていて、乗り越えられないことはないものの、この仕切られた空間を出てはいけないのだと感じた。
「え…何これ、部屋の模様終わってる!?」
ワタワタと情報を一つも持っていないらだおくんが部屋の模様に目をチカチカさせながら騒いでいる。
デスゲームの類いを良くプレイしたことのある俺は、この後の結末を容易に想像できた。
「レウさんは!?頼む、能力の制限を無くしてくれ!今だけでいいから!!」
きょーさん絶叫が、ずーっと高いところにある天井をビリビリと揺らした。
確かに、きょーさんの種族は天使。戦闘種族でありながら回復もこなせるバランスの良い能力を持つはずだけど…
『ジー、ジジッ…それでは裁判を始めましょうか…ジジッ、ジッ…ココに犯罪者は…ジッ…必要ありませんからね』
カラリとしたラジオの声の主人は一先耳を貸さずに、裁判とやらの進行を優先した。
当たり前だけど、俺達に何かを主張する権利は無いらしい。
『死体発見時の情報から、どうぞ』
今から、仲間殺しの大罪人を炙り出す、どんな結果になっても後味の悪いであろう…この世で一番最悪な裁判が始まった。
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