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嬉しすぎるコメントありがとうございます! 頑張って書きます!😆
紙の本でじっくり読みたい程に素敵です...!素敵です!畑仕事の話から透子ちゃんの今までになかった、覇気のない感じが伝わり、野菜と対比する際の言葉選びがどこか悲しく、(文章力に尊敬の塊です)アスさんが居なくなった今透子ちゃんは救われるのだろうか?雅彦は透子ちゃんを本当に助けられるのか?「うわぁ本欲しいー!😳」と思わず声に出しちゃいました。
翌日、放課後透子と先輩は仲良くデートだ。相変わらず俺は後をつける。
昨日通話で『守る』と言われはしたが、だからと言って安心は出来ない。なにせ相手が和樹だ。
どこで遭遇してもおかしくないのだから、心配にならない訳がない。
そして後をつけ、2人の仲の良さを目の当たりにして、傷付く。自分の性癖を疑いたくなる。
そんな俺の苦しみと心配を知らずに、楽しく順調にデートは進む。あっという間に空の色が変わる。
その時はすぐに来た。
道路を挟んだ反対側の歩道から透子の名を呼びながら駆け寄る影。和樹だ。
俺は離れた位置から様子を伺う。
話し合う3人は、次第にヒートアップする。内容は分からないが、透子も和樹も声が大きい。
和樹が先輩に向かって怒鳴った。
怒りに満ちた和樹は、見慣れている俺でも嫌になるくらい怖い。背も高く(俺よりは低いが)無造作な癖毛の隙間から覗く目は、細く吊り上がっていて、常に怒った表情をしている。声も低い。
面と向かって怒鳴られたら誰でも怯むだろう。
けれど・・・。
先輩は負けずに言い返した。デカい声で言い返した。
ああ、凄いや。やっぱり和食とは全然違う。この人なら、透子を幸せに出来るのかも知れない。
俺より小さいし、多分喧嘩したら俺が勝つに違いない。だけど、透子は先輩を選ぶし、それは正しい選択。
和樹が先輩に殴り掛かった。先輩は、やり返さないで全部受けようとしている様に見えた。
ダメだ。キレた和樹は加減を知らない。下手したら殺される。
俺は、止めようと走り出した。
そんな俺の上に、何かが降って襲い掛かって来た。
カラス・・・?
瞬間、俺の顔の左側面に激しい痛みが走った。熱くなり、体が痺れ出す。首から上が熱くなって行くのに対して、体が冷たくなって行く。
俺は、うずくまって動けなくなってしまった。
何でこんな時に。カラスに襲われるなんて、最悪だ。
前では和樹が倒れた先輩に蹴りを入れていた。透子が背中にしがみついて止めている。そこにさっきのカラスが接近して、何かを落として行く。キラリと光る何か。
それを見て、和樹は拾いに走る。ナイフだった。
立ち上がった先輩に向かって和樹が走る。ナイフを構えて。
・・・ダメだろ・・・。
止めたいが、俺は立ち上がる事も出来ない。
・・・透子が動いた。先輩と和樹の間に滑り込む。
ダメだ!やめてくれ!
俺は動けない。見ているしか出来ない。
誰か止めてくれ!
両腕を広げて先輩の前に立ちはだかる透子。涙が溢れ続けるその目を閉じた時、透子と和樹の間に何かが飛び込んだ。上空から一直線に。
拳大の石のように見えた。透子と和樹の間に落ちて行くと、それは一気に膨れ上がって、背の高い男の姿になる。和樹に背を向けて、透子を抱き締めて庇った。
倒れ込む3人、立ち尽くす和樹。ナイフが音を立てて落ちた。
時間が止まったかと思った。みんな、動かなかった。
突如出現した男が少し動いた。そして、縮んで行く。
小さくなって地面に落ちたそれを、透子が掬い上げて、胸に抱き締めた。
救急車に乗ったのは、産まれて初めての経験。俺と先輩は、同じ救急車で運ばれていた。
「元木君・・・居たんだ」
「はい・・・居ました」
応急処置を受けながら、それ以外の言葉は交わさなかった。
搬送先の病院では、2人共CTとレントゲン撮影を行った。幸い大きな問題はないとの事で、処置室で縫ったり消毒したり、包帯を巻いたり、一通り治療を受けると、それぞれの親が迎えに来て帰宅を許された。
「後でLINEするよ」
先輩は、それだけを俺に言って帰って行った。
帰宅後、透子と先輩と和樹と、それぞれ別々に連絡を取って、今日の事件についての確認を行った。先輩と透子の交際について和樹と揉めた所を、俺が止めようとして喧嘩になっただけで、ナイフで刺した云々は無かったことになった。
翌日は、学校を休んだ。透子と和樹と、透子のお母さんが俺の家に謝罪をしに来たが、謝って貰うようなことでも無い。
和樹は無表情、透子は暗い顔をしていた。和食の時は和樹は謝罪をしなかった。それに比べると良い方向に向いていると考えて良いのだろうか。
1週間後、先輩は留学してしまった。透子の家と揉めて、解決しなかったのだろう。先輩から俺への連絡はLINEのメッセージ1行だけ。
『すまない、力及ばす』
お喋りな先輩が、だった一言しか残さないという事が、先輩の気持ちを物語っていると感じた。相当悔しかったに違いない。
「ねぇ、噂になってるけど」
環にそう言われた。先輩の留学の理由が、俺と先輩とで透子を取り合って、俺が勝ったから、という事になってしまっているらしい。
元々、透子に虫が寄り付かないように、俺が彼氏のように振る舞っていたのも原因の一つだろう。
俺は、新たな虫が寄らないのならそれでも良いと思った。
ある週末、俺は透子を誘ってみた。
塞ぎ込んだままの透子に何か気晴らしでも、と考えて。
何に?
畑仕事に。
迎えに行くと、透子は自分の家の庭の隅でしゃがみ込んでいた。近付くと、平たい石が積み上げられていて、その石の前に5個入りのチョコパンと、自分の好きな柑橘の炭酸水を置いている。手と手を合わせ、目を瞑り祈る姿は、墓参り以外には見えない。
「透子」
呼び掛けると、透子は顔を上げた。
よく見ると、積み上げた石の一番上の石には『スズメのお墓』という文字と、可愛らしい小鳥の絵が油性マジックで書かれていた。
「雅彦」
俺の名を呼んで立ち上がる。
俺は、透子と一緒に祖父母の畑へと家の車で向かった。父に乗せてもらって。
幼稚園児の頃は、たまに行って、祖父母の邪魔をしては採れたての野菜を齧らせてもらったものだが、高一になった今ならば、立派な人手として役に立てる。
「透子ちゃん久しぶりね!すっかり大人になって」
歓迎されてはにかむ透子。俺と透子は、とうもろこし畑の雑草を抜き、トマトとキュウリの収穫を行った。
天気は良く、気温も高い。俺達は汗を流しながら、無心で作業に没頭した。
トマトをもいでいた時、透子が立ったままじっとしているのに気付いた。
「透子、どうかした?」
俺は声を掛けた。
振り返らずにそのまま、目の前のトマトを見続ける透子。
「農業って素敵ね。注いだ愛情が、目に見える形になって、誰かに届くなんて」
透子はそう言った。
トマトと自分を比べている。トマトに注がれた愛情と、自分に向けられた、多方面からの愛情。一方向にスムーズに進行する分かりやすい愛情と、複雑に絡み合って停滞し澱んでしまった愛情。
その時の俺には、透子が儚い存在に見えた。水の上げ過ぎで根腐れをおこして、枯れそうになっている植物のように。
根腐れをおこしてしまったら、掘り起こして根から土を優しくほぐし落とし、傷んだ根を切り落とし、根とバランスが崩れない程度に葉や茎も切り落として新しい土に戻さなくてはならない。なかなか手間のかかる作業だ。
「透子、俺に出来ないだろうか。透子の心から過剰なものを消して、必要なものを一緒に育てて行くことが」
気付いたら、そう口走っていた。透子が俺を見る。力の無い目で。
何故、今言おうと思ったのか、分からない。分からないが、今じゃないと、もう言い出す事はできないと思った。だから言った。
「透子、俺は透子が好きだ。ずっとずっと、最初から透子だけを見てきた。俺と一緒に、これから先の人生を歩いて欲しい」
告白と言うか、プロポーズだ。これは・・・。
透子は、黙って俺を見ていた。力の無い目で。
そして、静かに一筋の涙を流した。