テラーノベル
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火曜日の放課後。
シェアハウスに帰ると、玄関に靴が1足だけ並んでいた。
真理亜:「……ただいま」
返事はなかった。
けれどリビングのドアを開けると、
ソファに座っていたのは、西畑大吾だった。
大吾:「あっ、おかえり」
真理亜:「あ……ただいま、大吾くん」
いつも通りの微笑み。
だけど、真理亜の胸はなぜかぎゅっと締めつけられた。
真理亜:(最近、大吾くんの声が、私の心の奥の方まで響いてくる気がする。そばにいるだけで、落ち着く。それって、きっと――)
大吾:「真理亜ちゃん、今日さ、夕飯一緒に作らへん?」
真理亜:「……うん、いいよ」
キッチンに並んで立つふたり。
カレーのルーを割りながら、真理亜はこっそり大吾の横顔を見た。
真理亜:(私、もう……気づいてしまったんかもしれへん。大吾くんを、――“好き”って)
その瞬間、なぜだか涙が出そうになった。
それは嬉しさじゃなくて、恐れだった。
真理亜:(私が大吾くんを選んだら、きっと……他の誰かが、泣く。傷つく。それでも私は、この想いを口にしてええんやろか?)
その夜。
全員で夕飯を食べたあと、真理亜はいつものように2階の自室へ戻ろうとした。
が――階段の手前で、誰かが彼女を呼び止めた。
丈一郎:「真理亜ちゃん、ちょっと話、いい?」
振り返ると、そこにいたのは藤原丈一郎だった。
真理亜:「……丈一郎くん?」
丈一郎は静かに微笑んだ。
丈一郎:「最近さ、大吾とよく一緒におるな」
真理亜:「え……うん。たまたまやけど……」
丈一郎:「たまたまでも、距離って、変わるもんやで。近づいたら、気持ちも揺れるし――離れたら、不安になる」
真理亜:「……丈一郎くん、何が言いたいん?」
彼は少し視線を落として、こう言った。
丈一郎:「真理亜ちゃんが“大吾のことを好きかもしれへん”って、なんとなくわかってた」
真理亜:「わかってたけど……わかりたくなかった」
丈一郎:「俺、ずっと見てた。君が誰にも心を開けずにいた頃から、少しずつ笑えるようになって、誰かを想うようになる、その全部を……でも……“その誰か”が、自分やなかったときって、ほんまに苦しいんやなって、今、知った」
真理亜は、何も言えなかった。
丈一郎は優しく笑って、それでも涙をこらえるようにして言った。
丈一郎:「ごめんな、重い話して。でもこれで最後や。もし……もし、大吾に気持ちがあるなら、ちゃんと向き合ってあげて。中途半端なままにしたら、それこそ、彼が一番傷つくから」
真理亜:「……丈一郎くん」
彼の背中が階段を降りていくのを、真理亜はただ、見送るしかなかった。
部屋に戻ったあと、ベッドに座りながら思う。
真理亜:(私は――もう、“好き”に気づいてしまった。でも、“選ぶ”ってことは、大吾くんだけじゃなく、自分自身も試されることや)
次第に近づいてくる恋の決着に、
真理亜の心は静かに震えていた。
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