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透き通った秋空に高く、短く、連続的にからんからんからんと鐸の音が響く。
古くは神々に捧げられたが、今や白銀川市の市庁舎として利用される高い塔が半ばで斜めに圧壊し、激しく石材を撒き散らしながら倒れる。嵐の前触れの黒雲のように砂塵が周囲に溢れ返った。天災の如き異変の最中だが街には悲鳴の一つも聞こえず、人影は二つだけだった。
巻き起こる粉塵の中から女が転がるように飛び出して、しかしすかさず大勢を立て直し、もう一方の人影に向き直る。庇うような佇まいは右の太腿がざっくりと切り裂かれているが故だ。赤黒い血潮が泉のように溢れて零れる。
「悪霊め! その者を解放しろ!」
崩れた塔の残骸に叫ぶ女は片手に刺突剣を携え、土煙を払うように振り下ろす。するとどこからともなく鐸の音が響き、馨しい香りが辺りへ広がり、釣られるように蝶や蛾が舞い飛んできて、花の蜜を求めるように女の血が溢れる腿に集る。次第に虫は血に染まりつつも流血が止まる。
女は安堵したように深く息を吐き、しかし一瞬の油断もせず、剣先の指し示す方向を注視する。
女の構える細身の剣身には悪夢を払う繊細な彫刻が施され、天球を模した護拳には星々を象る宝石が埋め込まれている。邪を知らぬ幼子の如く危うげな印象を抱かせるが、その金属の内に神秘へと通じる力が通っていることは魔法を知らぬ者にも察せられる。
特別な剣と違い、身に纏う厚織の羊毛上着に麻布の上下は普遍的な旅装だが、救済機構の尼僧であることを示す炭色の布飾りを下げている。
突如立ち込めた砂塵が左右に割れ、素早く反応した女は剣を振るって迫り来た見えない何かを弾く。
塵芥を纏って現れた男は女に似て線が細く、鳶色の髪に黒い瞳は虚ろで、女を見ているようで見ていない。出来損ないの陶器の人形のような無表情で瞬き一つしない。一方片手で引きずる金属塊は身の丈を越えており、尋常であれば大の男数人がかりでも持ち上げられはしないだろう。しかし細身の男はそれを片手で持ち上げ、肩にかける。それは歪ながら斧であった。まるで燃え盛る流星のように尾を引く意匠の仰々しい戦斧だ。
まるで二人の争いを煽るように風が吹き寄せ、揺蕩っていた砂埃が追い払われ、二人の衣が戦勝を祈る戦旗の如く翻る。
男は一言を発することもなく、微かな吐息も漏らさずに戦斧を振り上げると瓦礫の散らばる石畳に振り下ろす。斧は深々と突き刺さり、打ち据える破城槌の如き轟音と共に地面を叩き割った。卵を割るように軽々と生み出された地割れが女の方へ、獲物を追い詰める毒蛇のように這い、吼え猛る雷の如く突き進む。
女は足の裂傷の痛みも気にせず魔法の見えない刃を跳んでかわし、その後に剣を振るう。鐸の音が広がり、甘い香りが蔓延する。すると今度は地割れの奥から無数の地虫が湧き出て、またたった一人が生み出す戦陣を掻き混ぜるように蛾や蝶やその他の羽虫が飛んできて男に殺到した。
男は鬱陶しそうに虫を追い払うように暴れ狂う。無茶苦茶に振り回された斧が、放たれた魔法の刃が、重々しい風切り音と共に、通りを、家屋を、打っ手切る。
それは数週間前のことだ。冬風にも劣らない秋風吹く至天郷市に無数に建立されている仰々しい寺院の中でも取り分け派手で大規模で緻密な一つ、聖焼き祓え大寺院の僧房に女はいた。そこは救済機構総本山の最重要施設であり、尼僧といえど一介の僧兵に過ぎない女には一生縁のない場所であるはずだった。友人たちにも何かの間違いだろうと揶揄われた。
ほとんど森のような聖ミシャ大寺院の広い敷地のどの辺りに自分がいるのかもよく分からなかった。少なくとも聖火は見かけなかったので中心の辺りではないはずだ。
案内された小さな部屋には誰もおらず、案内人の少女――護女と呼ばれる聖女候補の特別な尼僧だ――もまた何も知らされていないらしく、そのまま去って行った。部屋には二脚の椅子と粗末ではないが小さな机の他は小さな明かり採りがあるだけの、鉄格子がはまっていない牢獄のようだ。
只事でないことは確かだが、女に心当たりは何もなかった。あるいは護女の護衛であり、身の回りの世話もするという加護官だった弟に関連する用事かとも思ったが、加護官の僧房でもある詰め所は聖ミシャ大寺院の門でもあり、当然既に通り過ぎている。
部屋の真ん中で待ち呆ける。手持無沙汰に耐えかねた訳でもないが懐から手鏡を取り出す。己の顔を見たかったのではなく、鏡を眺めたかったのだ。魔除けの鏡は実際には大した力を持っておらず、くすんだ鏡面には緊張感のない女の表情が映っている。
「鏡かね?」
唐突に話しかけられ、鏡を取り落としそうになるが何とか堪えた。振り返り、その人物を見て再び鏡を落としそうなほど驚く。面識はないが一介の僧兵でもよく知る聖風防の位にある高僧だ。
大聖君の諮問機関、評議院の議長代理たる人だ。老齢ながら若々しい輝きを持つ緑の瞳が薄暗い部屋で何も知らない尼僧を見つめている。長い白髭に隠れて見えないが微笑んでいた。高僧の大袈裟な僧衣でも年経る老体のしなりは隠しきれていない。
「ザーグス猊下! ええ、お見苦しいものをお見せしました」女は落としてしまわないように鏡を片付ける。「猊下が愚僧をお呼びになったのですか?」
「そう、その通り。君は典礼僧兵団の豊かな実り君で間違いないかね?」ザーグスは答える前に椅子を勧める。「掛けたまえ」
「はい。失礼します」
ハイデは椅子の座りの良さを調整しているザーグスが話し始めるのを待つ。
「早速だが、君には良い報せと悪い報せがある」
「報せ、ですか? 一体なんでしょう?」
「どちらから聞くか、を尋ねる前に一つ聞かねばならない。二つの報せを聞くかどうかを」
ハイデは混乱し、愛想笑いを浮かべる。
「報せを聞くか、聞かないか、ということですか?」と繰り返す。
「その通り。というのもこれは救済機構の中でも最重要機密なのだ。聞くならば、聞かなかったことにはならない。聞かないならば今日ここを訪れたことは忘れてくれたまえ」
「その、しかし、愚僧にとって良い報せ、悪い報せ、なのですよね?」責めるような口調にならないようにハイデは気を付ける。
「然り」とだけザーグスは答えた。
自分にとって良い報せはともかく、悪い報せを聞かずにおくというのは不安だ。しかし『聞かなかったことにはならない』という言葉が引っ掛かる。おそらく秘密を共有する以上、大きな制限が生まれるのだろう、と考えるのが自然だ。しかし余りにも判断する材料が少ない。
「他に何もお教えくださることはないのですか?」
「聞くと答えない限りは、然り」
百舌鳥か何かの急かすような鳴き声が聞こえ、小さな明かり採りから妖精の産毛をのみ揺らすような微風が吹き込む。その間、二人は沈黙を守り、ハイデは大いに迷い、ザーグスはじっと答えを待つ。
ハイデは躊躇いがちに口を開く。「分かりました。お話を聞かせてください」
「どちらから聞きたいかね? 良い報せ? 悪い報せ?」
「良い報せからお願いします」
「よかろう。君に天罰官の職位が与えられることとなった。もちろん君がこの話を聞くと決めた瞬間にだがね」
天罰官などハイデには聞き覚えのない言葉だった。機構の聖職の全てを把握しているわけではないが、わざわざ聖風防から与えられるような重要な職位が知られざるわけがない。名前からして、それに僧兵に与えられることからして、荒事に関係しているのは間違いないだろう。
「申し訳ありません。その職位に関しては寡聞にして存じ上げません。天罰官というのはどのような職位なのでしょうか?」
「ああ、そうだろうな。隠された職位の一つだ。天罰官とは機構に存在するありとあらゆる聖なる職位の中でも特別に尊き勤めだ。それは邪悪なる背教者を機構の教えの命ずるままに討伐する聖務に就く者だ」
ハイデは口が開いたまま塞がらなくなる。考えてみれば救済機構とて背教者は生み出している。大概は破門され、追放される。しかし、つまり中には罪の大きすぎるあまり秘密裏に処刑ないし暗殺される者もいるということだ。
「討伐となると、よほどの重罪を犯した背教者ということですね?」
「然り。最たる教敵だ」
「最たる教敵の背教者!?」
それについては考えたこともなかった。最たる教敵に認定されるような存在とは本来『貧困』や『人攫い』、『大災害』といった抽象的で観念的な存在だ。その解決のために設立される下部組織の指針を示すもので、具体的な存在が最たる教敵に認定されることは珍しい。個人が認定されるなど聞いたことがない。
「そのような機関があったなんて、つまり、だから秘密なんですね。確かに、あまり人聞きの良いものではありませんし」ザーグスの疑わし気な視線に気づきハイデは慌てる。「もちろん、拝領させていただきます。断る理由はありません。ところで天罰官は他に何人ほどいるのですか? 組織名も秘密なのでしょうか?」
「いや、言うなれば組織の名が天罰官だ。そして他に天罰官がいるかどうかは教えられない。というのも天罰官とは最たる教敵一人ごとに一人任命される独任制の組織だからだ。その分救済機構全体からの支援を得られるだけの大権を持つ。勿論、聖風防である私を通じての権力だが」
でなければ秘密の職位の秘密を守れはしない。
「では、教敵を討伐するまでの職位ということですね。誰なのです? 最たる教敵に認定された背教者というのは」
「それが悪い報せだ」ザーグスの言葉にハイデは息を呑む。「元加護官、土と共にある。君の弟だ」
最愛の弟だ。唯一の家族だ。僧兵となる祝いに手鏡を贈ってくれた優しき弟だ。
ハイデは首を振ることもできず硬直し、縺れた舌と麻痺した唇を何とか操る。
「そんな……、何かの間違いです。弟に限って、そんなこと、できるはずが」
「残念だが、彼は機構の中枢から最重要呪物を盗み出し、逃亡した。多数の目撃者もいる」
「もしもそうだとしても! ルベーレに可能だとしても、何か、事情があるはずです。心優しい子だったんです。それに泣き虫で、意気地なしで、手を繋ぐかおんぶしてあげないとぐずって……。どうか事情を、話を聞いてあげてください」
ザーグスは心苦しそうに息をつく。「それを聞く術がない。聞き出そうにも本人がどこにもいない」
「私が連れ帰ります」
「任務の完遂手段は君の裁量の内だ。君が連れ帰ってきて、聞き入れられる事情でなければ始末をつけるのも君だ」
ハイデは仇にするようにザーグスを睨みつけた。そうすべきでないことは分かっていたが。
「どうして私なのですか? どうして姉に弟を殺させるようなことを」震える声でハイデは絞りだす。
「それだけの実力がある者であり、秘密を守れる者であると認定されたのだ」
もはや後戻りはできない。聞かなかったことにはならない。組織の醜聞を知る組織の反抗者は、あるいは次の背教者となるのかもしれない。
その時、その小さな部屋に先ほどの案内人だった護女が入ってくる。同時に甘い香りが微かに漂う。捧げ持つように持っていたのは繊細な意匠の刺突剣だ。菓子でも砂糖でもない。
「大聖君より天罰官に下賜される聖剣だ。任務の助けになろう。受け取り給え」
ハイデは護女の前で僅かに腰を下げ、硝子細工を受け取るように両手で聖剣を拝領する。未だ納得してはいないが状況を受け入れる他なかった。
「謹んでお受け取り致します」
「どうかルベーレを助けてください。お願いします」と護女は言い残して去って行った。
何か嘘の事情を聞かされているのだろう。護女の悲壮感に満ちた表情がハイデの眼に焼き付く。
護女が立ち去ったのを確認してからザーグスは改めて説明する。「任務は最たる教敵ルベーレの討伐と最重要呪物の奪還だ。また最後に目撃されたのは踏みしめる者たち行政区だ」
「どのような呪物なのですか?」
「悪霊の封じられた札だ」
ヒニカでの聞き込みをもとに辿り着いた交易都市アーグルスは既に壊滅状態だった。たった一人の狂戦士によって何もかもが破壊され、止めようとした者たちは惨殺されていた。街はもはやもぬけの殻で無事な建造物もほとんどない状態だったが、それでもルベーレは目に見えない悪霊とでも戦っているかのように斧を振るい続けていた。当然一介の元僧兵ルベーレに、優秀とはいえ単なる加護官に過ぎなかった者にそのような惨劇を起こせるはずもない。そもそもルベーレはただの斧ですら持ったことがない。それが今や塔をも両断する禍々しい戦斧を手の延長のように使いこなしている。
打っ手切る者。それが悪霊の名だという。聖風防ザーグスに言わせればルベーレはその悪霊の力を悪用しているのだそうだ。しかし生来生真面目なルベーレにこのようなことができるはずがない。ハイデはただ一人の姉として、貧しくも苦楽を共にし、分かちがたく結びついた血縁者として堅く確信していた。
ルベーレは悪霊に憑りつかれているに違いない。救済機構はそのような邪なものを所有していない、ということにしたいから全ての責をルベーレに擦り付けようとしているに違いない。
激しく乱暴に斧を振り回し、しかし巧みに鮮やかに斧を取り回し、ルベーレは集る虫を払い続ける。虫はハイデの聖剣に秘められた力によるものだ。放たれた甘い香りに誘われた虫を使い手の思いのままに操れる。
振り回される戦斧に虫たちは一たまりもなく潰されるが、絶えることなく新たな虫がどこかから湧き出てルベーレを苛む。姉としてあまりにも心が痛んだが、殺すよりもずっとましだ。
突如ルベーレが動きを止める。悪霊の封じられた札を奪い取ることに成功したのだ。
「ルベーレ!」
しかし駆け寄る姉の声に応えたのは振り下ろされた斧の一撃だった。聖剣の細刃が毀れることなく重量を受け止め、しかしハイデには堪えきれなかった。護拳に引っかかった右手の指が折れ、剣を支えた左手の手首が砕けた。剣を取り落としたために虫たちの統率された動きが失われる。
全身を隅々まで調べさせた。札はどこにも無かった。あるいは、と斧を凝視するがそこにもない。
痛みに耐えかねて頽れたハイデにルベーレが迫る。ハイデは剣の柄に手を伸ばし、何とか触れるがとても握れる状態ではない。ルベーレは禍々しい戦斧を掲げ、ハイデに目掛けて迷うことなく真っすぐに振り下ろす。しかし斧は石畳を抉る。ルベーレの狙いは正確だったがハイデの聖剣に従う虫に体を転がさせてかわした。次は無い。群れ集う虫がルベーレの掌をこじ開ける。しかしそこにも札は無かった。残るは足の裏だ。全神経を集中させて、ハイデは虫たちに命じる。虫を握りつぶしながら斧を握ろうとするルベーレは足を取られて転倒する、がそこにも札は無かった。
「ごめんなさい。ルベーレ。何とか耐えて」
最後は体内だけだ。声も上げずに嗚咽する弟の有様にハイデは目を背ける。可愛い弟から苦しみを遠ざけることが姉としての生き甲斐の一つだったハイデには太腿を切り裂かれるよりも指や手首を砕かれるよりも辛かった。しかしとうとう札を見つける。直ぐに剥がされ、吐き出され、ルベーレは少しも身動きしなくなった。
ハイデは何とか起き上がり、涙に曇るルベーレに縋り付くように抱きかかえる。生きている。呼吸している。脈もある。意識もある。しかし反応はない。双眸は虚空を見つめている。
それがルベーレだった。いつか護女を守るべく身を挺し、不逞の輩に強かに頭を打たれ、それ以来一切の反応を示さなくなったのだ。あるいは何かの拍子に元に戻り、今回の罪に及んだ可能性も考えてはいたが、その絶望的な希望も砕かれた。全ての事情を知りうるのは悪霊だけだ。
三日月形の札には斧を握る蛙の絵が描かれている。ハイデは覚悟を決め、札の悪霊フーゴルを己に貼り付けた。
「すみませんすみませんすみません!」それがフーゴルの第一声だった。「命令されたんです。それがあたしの特性なんです。決して逆らえないんです。こんなことするつもりじゃなかったんです。嘘じゃないです。証明してみせます。信じてください」
勝手に喋る口を無理やり閉じる。
「まず質問にだけ答えて」ハイデは呟く。しばらくして、「分かったら返事をして」
「はい」
「誰が弟にお前を貼ったの? 誰に命令されたの?」
「分かりません。暗闇だったんです。男か女かも定かではないです」
「何て命令されたの?」
「アーグルスの市民を皆殺しにし、アーグルスの街を壊滅させ、暴れ続けろと」
フーゴルは罪深さに戦き、声を震わせている。
ハイデは痛む指でルベーレの髪を梳き、苛立たし気に唇を噛む。何一つ分からない。しかしそれが救済機構に存在する何者かであることは確かだ。何かの目的でルベーレにアーグルス市を滅ぼさせた。ついでに救済機構の僧兵ハイデにルベーレを討伐させて、英雄にでも仕立て上げるつもりだったのだろうか。
「お前を許す。命令されて逆らえない特性というのは本当だろうし」
でなければ何者かはフーゴルに口止めしているはずだ。仮に口止めの命令をしたところで新たな命令者の自白命令に逆らえないのだろう。
「ありがとうございますありがとうございますありがとうございます。どうかあたしの主様になってください。貴女のような心優しいお方を主としなければあたしはおぞましい行為をさせられ続けてしまいます。どうかお願いします。この定かでない身に、確かな生をお与えください」
馬鹿々々しい申し出だ。札を奪われれば誰に忠誠を誓おうが何の意味もない。しかし、ハイデはその申し出を受け入れることに決めた。
「好きにすればいい」ハイデはルベーレを背負い、立ち上がる。
「どこに行くんですか? 何をするんですか?」とフーゴルが尋ねる。
「ジンテラに、救済機構に戻るんだよ」
「大丈夫なんですか? てっきり弟さん、殺されるものかと」
天罰官とは鎖付きの猟犬だ。主に逆らえば狩られるに違いない。かといって弟を抱えて逃げることもできない。そもそもこの状態の弟が今まで生きてこられたのは救済機構の福祉によるものだ。
事態は収まったのだ。何者が黒幕であるにせよ、これ以上のことを望むとは思えない。弟が口を割る心配はない以上、弟への愛に縛られた使える犬だと思わせるしかない。それこそが二人が、姉弟が生き残るための最善の策で、復讐への最短経路だ。
「せめてあたしが弟さんを歩かせてあげますよ」
「いらない。おんぶは慣れてるから」