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私はスズメの鳴き声に目を覚ます。ベッドに横う体は一糸も纏っておらず、代わりに汗と欲でべとべとになっていて、気持ち悪かった。
ふと、真横で眠っている男に目を向け、その露わになった胸元に手を伸ばす。うっすらと体を覆う筋肉は触れてみると案外しっかりしていて、昨日の情事を思い出させた。何とも言い難い気分で惚けていると男からクスリと笑い声が聞こえて、思わずビクリと体を強張らせる。
「…なぁに、ミリャ。」
突然男は目を開けて、口元に弧を描く。途端に揶揄われた、と理解して頬に朱色が差す。
「…起きてたんですか、イリヤさん…」
「勘違いしないで。今起きたところなんだ。そしたら君が俺の胸に手を這わせているものだから驚いたよ。」
この男は私を揶揄うのが好きなようで、たびたびこういうことをしてくる。昨日だって散々弄ばれた。まあその後仕返ししてやったが。
「…私、朝ご飯作るので、また後で。」
居心地が悪くなり、慌ててベッドを抜け出す。ラックから服を引き抜き、身に着けると足早に寝室を出る。その間にも彼がクスクスと笑い声をあげるものだから落ち着かなかった。
皿に目玉焼きとウィンナー、キャベツ、トマトを並べる。質素だけど、朝にはこれで十分。
「んー…いい匂いだね。」
伸びをしながら現れた彼は、皺一つないスーツ姿。気怠げな仕草と整った服装のギャップが妙に絵になっていた。
「あ、コーヒー淹れますね」
豆の残りがわずかなのに気づき、最後の一回分をフィルターに落とす。
「コーヒー豆無くなってしまったので買ってきてもらえますか?」
「わかった、仕事帰りに買いに行ってくるよ。少し遅くなるかも 」
琥珀色に満ちたコーヒーをマグカップに注いで差し出す。彼はありがとうと受け取り、一口啜って目を細めた。
食事も終わって、彼は時計に目をやるとネクタイをきゅっと締める。
「それじゃあ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
そっと彼の頬に口付けると彼は照れくさそうに視線を逸らした。
私は、この穏やかな時間が好きだ。