テラーノベル
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「……佐藤透、本日付で満期釈放とする」
刑務官の無機質な声とともに、重い鉄の門が開いた。
3年ぶりに浴びる外の空気。
透が手にしていたのは、刑務作業で得たわずかな報奨金と
私が着払いで送りつけた、ボロボロになったあの日の段ボール一箱だけだった。
「……ここからだ。俺はまだ終わってない。あいつらに復讐して、また這い上がってやる……」
ボサボサに伸びた髪をかき上げ、透は虚空を睨みつけた。
しかし、彼が数歩歩き出したところで、黒いスーツを着た二人の男が道を塞ぐように立った。
「……誰だ。俺はもう罪を償ったぞ」
「佐藤透さんですね。私たちは、あなたが刑務所に入る前から滞納している『損害賠償金』および『闇金業者』からの債権を引き継いだ、回収代行の者です」
透の顔から、一瞬で血の気が引いた。
自由になれば、すべてがリセットされるとでも思っていたのだろうか。
「ま、待て!今は一銭も持ってないんだ!仕事を見つけてから……」
「仕事?懲戒解雇と実刑判決を受けた人間に、まともな仕事があるとお思いですか?それに、親切な『知人』から、あなたにぴったりの就職先を紹介されていますよ」
男たちが差し出した一枚の地図。
それは、かつて透が鼻で笑っていた、過酷な労働環境で知られる遠方の飯場だった。
「家賃と食費を引いて、手元に残る金は…月5万円といったところでしょうか。もちろん、そこから私たちの返済分を差し引かせていただきますが」
「……っ!月5万…!?嘘だろ、そんなの生きていけない……!」
彼の口から漏れたのは、かつて私が彼に必死で訴えた言葉、そのものだった。
自分自身が放った呪いが、3年の時を経て、逃げ場のない現実となって彼を縛り上げる。
「生きていけない? おかしいですね」
「あなたはかつて、奥様にその金額で『十分すぎる』とおっしゃっていたそうじゃないですか。ご自身で証明してみてくださいよ。その『身の丈に合った』やりくりを」
男たちは透を強引に車へ押し込んだ。
車窓から見える街並みは、3年前よりもずっと輝いて見えた。
そのどこかで、私が笑い、父と幸せに暮らしている。
その世界に、透の居場所はもう、ミリ単位すら存在しない。
彼が連れて行かれたのは、四畳半の壁が薄い、湿気たボロアパートの一室。
窓の外には、かつて彼が住んでいたような高級マンションが遠くに見える。
しかし、その距離は、もう一生かかっても埋まることはない。
私は、父の事務所でその報告を受けた。
「……そう。彼、あの部屋に落ち着いたのね」
「ああ。これからは自分の言葉通り、這いつくばって生きてもらうことになる」
私は、デスクに置いてあった透との「結婚写真」を、シュレッダーにかけた。
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#不倫
#離婚