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「あっ……」と、彼が驚いたように声を上げる。
「私が、いますから」
彼にとって残酷な真実を、私に打ち明けてくれたことがわかると、そう伝えないではいられなかった。
「あ……ありがとう」
ポツリと口にして、彼が私の胸に顔をうずめた。
「……真中が私を憎んでいたなど、思ってもみなかった……。あいつとは同年代で、会社で父の補佐をしていた頃から、とても頼りに感じて親しくしていたつもりだったんだ。なのに真中の方は、年があまり変わらないからこそ、私との格差を感じ疎ましくて仕方がなかったと……。だから新社長に就いた私の足を、なんとか掬ってやろうと画策をして、あんなことを……」
そこまで話して、彼はため息を吐き出すと、
「……私が、悪かったんだろうか……」
そう弱々しい一言を漏らした。
普段はKOOGAという大企業のトップに君臨する覇王の如く思える彼が、今は脆く儚げにさえ見える、まだうら若き久我 貴仁というただの一人の男性に感じられて、さらにその身体をギュッと強く抱き寄せた。
「ちっとも悪くなんて……。あなたが自分を責めることなんて、なんにも……」
彼は、今まで御曹司として一体どれくらいの苦慮を背負ってきたんだろうと改めて思い知らされるようで、スーツの背中を手の平でくり返しさすると、彼が顔を上げて私をじっと見つめた。
その微かに潤んだ眼差しとかち合うと、貴仁さんがどれほど真中さんを信じていたのかもひしひしと伝わるようで、私の胸までもが痛いくらいに締め付けられるのを感じた……。