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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第70話 〚同じ名前、違う危険度〛
――担任視点
夕食の大広間を、
私は少し離れた場所から見ていた。
生徒たちは、
楽しそうに食事をしている。
笑い声。
カレーのおかわり。
写真を撮る声。
——表面上は、
とても平和だ。
でも、
教師の目は
別のところを見る。
私は、
二人の“恒一”を
交互に視界に入れていた。
真壁恒一。
そして、
西園寺恒一。
(……同じ名前でも、
全然違う)
まず、
真壁恒一。
彼は今、
自分の席で
落ち着きなく体を揺らしながら、
周囲をちらちら見ている。
視線は、
時々澪の方へ。
でも。
距離を詰めようとはしない。
入ってはいけない空気に、
無意識に止められている。
(空気が読めないだけ)
(悪意は薄い)
それが、
私の判断だった。
問題は——
西園寺恒一。
彼は、
ほとんど動かない。
笑わない。
会話に入らない。
ただ、
見る。
澪と、
その隣にいる海翔を。
(……視線が、重い)
教師として、
何度も見てきた目だ。
表情を抑え、
感情を隠し、
頭の中で何かを組み立てている目。
(この子は、
“我慢している”)
それが、
一番危険だった。
真壁は、
感情がそのまま外に出る。
だから、
周囲が止められる。
でも。
西園寺は違う。
(止められないタイプだ)
海翔は、
気づいている。
さりげなく、
澪の位置を変え、
視線の壁になる。
玲央も、
同じ方向を見ている。
(……この子たちは、
もう分かってる)
私は、
胸の奥で
ため息をついた。
生徒に、
守らせるべきじゃない。
本来は、
大人の役目だ。
(……今夜は、
何も起こさせない)
配置。
距離。
時間。
すべて、
計算の中に入れる。
二人の恒一。
一人は、
“無自覚で問題を起こす可能性”。
もう一人は、
“自覚したまま越えようとする可能性”。
——危険度は、
明らかに違う。
私は、
静かに決めた。
(西園寺の動きは、
一瞬も見逃さない)
そして。
海翔の背中を、
一度だけ見た。
(……頼りすぎてはいけないけど)
(今は、
その判断力を信じる)
大広間には、
まだ笑い声が響いている。
誰も知らない。
この修学旅行が、
“楽しい思い出”で終わるかどうかの分岐点に、
もう立っていることを。