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よりぬき物語集①~a×s~ 『酔えば、君は甘えたになる』 『幸せすぎて死にそうな話』 『悩める受け
第1話 - よりぬき物語集①~a×s~ 『酔えば、君は甘えたになる』 『幸せすぎて死にそうな話』 『悩める受け
19
2025年06月27日
テラーノベル
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2025年06月27日
「酔えば、君は甘えたになる」~a×s~
Side阿部
「今度のメンバーの飲み会、収録がちょっと早くあがれそうで。俺、先に行ってていい?」
佐久間の何気ない申し出に、着替えながら背中で聞いていた俺は、思わず声を荒げていた。
「……えっ、ダメに決まってるじゃん」
言ってから、自分の反応の強さに俺自身も驚いた。いつもだったら、「いいよ、気をつけて」で済ませるような場面。なのに、なぜか今日は違った。
佐久間がぽかんとした顔でこっちを振り返る。
「……え? なんで?」
ちょっと唇を尖らせて、首をかしげるその顔が、まるで子犬みたいで笑いそうになる。けど、笑ってはいけない。俺は真剣なのだ。
「だって、佐久間……酒癖、悪いでしょ」
至極当然のことを言ったつもりだった。でも佐久間は「はぁ!?」と声を裏返して、こっちを睨んできた。
「いやいやいやいや!それ、俺じゃなくて阿部ちゃんのことじゃないの!?俺、そこまで悪くないもーん!」
「それ、酔っ払ってる時の記憶がないからじゃない?」
「ちょ、待てやぁ!それ、ひどくない!?記憶がないのを都合いいとか、なんかズルい言い方してない!?」
あれよあれよという間に、ただの確認のつもりだったやりとりは、口論に発展していた。佐久間は「自分は迷惑をかけた覚えがない!」と声高に主張し、俺は「そもそも自覚がないのが問題だ」と返す。どちらも譲らないまま、結局その夜はふてくされたまま解散することになった。
ただ、俺の中では確信があった。
佐久間は――
酔うと、甘えん坊のキス魔になる。
そして、翌日の飲み会でそれが“事実”としてメンバー全員に認知される出来事が起きる。
その時、俺がどれほど胸を掻きむしられる思いで佐久間を見つめていたか――。
誰にも知られたくなかった、佐久間の“そういうところ”を。
俺だけが知っていたかった、あの顔と声と温度を――。
メンバーの飲み会は、いつも賑やかだ。誰かがボケて、誰かがツッコんで、笑い声が波のように店内に広がる。
その日も、例に漏れず楽しいはずの場だった──俺が、遅れるまでは。
「……なのにさぁ、『俺が来るまで飲むな』って言うんだよ?信じられる!?」
開口一番、そんな声が聞こえたのは、俺がまだ収録スタジオにいた時刻。居酒屋の奥の席で、ジョッキを机に叩きつけているのは案の定、佐久間だった。
「ん〜、でも佐久間、実際ヤバいからなぁ。酔うと変なスイッチ入るじゃん」
そう宥めていたのは宮舘。彼は普段から穏やかで、佐久間が暴れ出す前に緩衝材になる貴重な存在だ。けどこの日は、佐久間のハイペースな飲み方にすでに音を上げているようだった。
「えっへへ〜、オレそんなことないも〜ん!阿部ちゃんが勝手に心配してるだけでしょー?あいつ過保護なのよ、ほんと〜〜!」
……過保護って。俺はただ、お前が他人にキスするのが嫌なんだよ。
内心でぼやきつつ、早く片づけて合流しなければという焦りが募る。
俺がいない間に、誰かが酔い潰れるだけならまだいい。問題は──佐久間が、“俺じゃない誰か”に甘えてしまうことだ。
しかもそれを、酔ったノリでされると、誰も本気にしない。
だけど俺は、知ってる。
佐久間の酔い方は、無意識に本音を溢すタイプだってことを。
案の定、俺が店に着く頃には、状況は“最悪”に近かった。
「うへへ〜、よし。館様にチューしてやるであります〜〜!」
店に入ってまず目に飛び込んできたのは、机に突っ伏していた佐久間が勢いよく立ち上がり、笑いながら宮舘に顔を寄せていく姿だった。
……え?
冗談でしょ?と思った。けど、そのまま唇がふにっと舘さんの頬に触れて、乾いた音が店内に響いた。
「ひぃっ……してきた……ガチだった……」
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『幸せすぎて死にそうな話』~a×s~
Side阿部
足取りが軽い。一日がもうすぐ終わる。
辺りはもう真っ暗だ。
だけど俺はまだまだ何でもできる。そんな気分だった。
とにかく今の俺は機嫌がいい。
当たり前だ。
今日はいい事しかなかった。
とにかく朝から今の今までいい事しかなかったからだ。
仕事、会議、上司からの評価、新しい企画の話、くじ運。
でかいことから小さな事まで。いったい何なんだ今日は。もしかしたら今日が人生のピークなのか?そうなのか?あとは下るだけとか言ってくれるないでね?
とにかく俺は気分よくアパートへの帰路につく。
何もかもが絶好調だった。
だけど、俺の幸せはそれだけじゃ完成しない。
アパートに着くまでに待ち切れずに俺は携帯でメールを打つ。
いつもなら細かいとこを考えてしまうメールだって今日はすらすらと文章が浮かんできた。
普段なら恥ずかしいと思ってしまう文だろうが俺は構わずそれを打ちこんだ。それが佐久間に届いて返事が来て、佐久間がそれを実行してくれれば完成だ。それしかない。俺のテンションはどこまでも高く、何をしようと何を考えようと、らしくなくても今は自分に正直でいられた。
「……佐久間」
俺はついついその名を口に出して呟いていた。
アパートに着いて玄関前で送信ボタンを押す。佐久間へのメールだ。佐久間と俺は付き合っている。付き合い始めたのがあの告白の日からで、
まだそう長くはないけれど、毎日が幸せで仕方ない。
幸せの真っただ中。
そんな中に恋人である佐久間がいる事は当然だ。メールをして呼び出してそうして佐久間が来て俺の幸福の真ん中に佐久間が立って、それで完璧なハッピーエンドになる。
ふとどこからともなく音楽が聞こえてきた。俺はまだ自分の住処の外にいる。それなのに俺の住処の中から聞き慣れたメロディが聞えて来た。俺は玄関を開けた。3歩も歩けば俺の住処は一望できる。
佐久間がいた。
玄関開けたら3歩で佐久間だ。
まさかそこに佐久間がいるなんて思ってもみなかった。呼び出したのは今さっき。
佐久間は着信音を未だ鳴らしたままの携帯を片手に俺を振り返った。
佐久間が俺の姿を確認している間に佐久間の手の中でそのメロディはぷつっと止まる。
佐久間は俺のメールすらまだ読んではいなかった。
それなのに俺よりも先に俺の帰るべき場所へと到着していた。
ああ、そういえば合鍵わたしてたんだった。
膝の上に乗っかっている俺の服を見るにどうやら俺の洗濯物を勝手に畳んでいたらしい。
佐久間はこっちを振り返って「阿部ちゃん、おかえり」と言った。
にへらっといつもと変わらない緊張感のない顔で笑った。ピンク色の髪が室内の明かりに照らされて、まるで桜の花びらのように柔らかく見える。その笑顔を見た瞬間、俺の胸の奥で何かが弾けるような感覚があった。
俺はそんな佐久間に大股で近付きすぐにその体を抱きしめた。
「え?うわ、なに?」
座り込んでいた体を抱きあげてとにかく抱きしめた。
ハッピーエンドへの道のりはあっという間だった。
こんなに一気にいい事が起こるなんて、俺は明日死ぬかもしれない。
俺に掻き乱されてぼさぼさになった頭をそのままに佐久間はびっくりしたまま固まっている。俺はそんな佐久間にキスをする。
それによって佐久間の金縛りが解けた。
「阿部ちゃん!あ、あのさ、俺ごはん作ってあげようと思って、来てみたん…だけど」
顔を真っ赤にして俺の腕の中から出ていこうともがく佐久間の体を俺は離さない。佐久間の温もりが俺の体に伝わってきて、それがもうたまらなく愛おしい。こんなにも大切な人が俺のために料理を作ってくれようとしている。その優しさが胸に沁みて、抱きしめる腕に自然と力が入る。
「ご飯は後」
「はぁ?」
素っ頓狂な声をあげた佐久間を肩に担ぎあげて、俺は一歩歩いてすぐそこにあるベッドへと投げおろす。こんな風にベッドへ下ろされれば佐久間にもその先は予想がつく。だが俺の突然の奇行に頭が付いてきていないらしい。
俺にはそんなもん関係なかった。
俺の幸福の世界は完成した。
メールには明日でもいいから家に来いとも記したが佐久間にとってはそっちの方が良かったかもしれない。俺の頭が冷えるのを待ってから家に来た方が良かったかもね。
「阿部ちゃん!その、お風呂は……?」
「お風呂も後」
そのまま佐久間の上にのしかかる。
いまだあたふたしている佐久間の顔を固定して口にかぶりついた。
ベッドへと体を押し付けて、少しだけ口を離すと佐久間が俺を押しのける。なんだよ早く観念してよ。
いつもなら佐久間の方から恥ずかしそうにじゃれついて来る癖に。
俺はとりあえず佐久間を腕に収めたままその言い分を聞こうとじっと待つ。
佐久間の大きな瞳が潤んで、困ったような表情を浮かべている。
その表情がまた可愛くて、俺の胸の奥がキュンと締め付けられる。
こんなにも愛らしい恋人が俺の腕の中にいる。それだけで幸せで仕方ない。
「……ごはんも後で、お風呂も後…じゃ、じゃあ」
どうやら今度こそ観念したようだ。
じゃあ、なに。
俺は笑った。
「……俺?」
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『悩める受けのお話』~a×s~
友情出演~i×f~
気づいたら朝だった。
どうやらおれはいつの間にか寝てたらしい。
薄っすらとカーテンの隙間から差し込む朝の光が、ベッドの上を淡く照らしている。隣には阿部ちゃんがすやすやと安らかな寝顔をさらしてる。
長いまつ毛が頬に影を落として、少し開いた唇からは穏やかな寝息が聞こえる。わりと日常的な光景だ。おれと阿部ちゃんが裸でさえなければ。
「……やっちゃった、よ……」
声に出してしまってから、慌てて阿部ちゃんの方を見る。
でも幸い、まだ起きる気配はない。
ほっとして、でもすぐにまた現実が押し寄せてくる。
思わず声が小さくなる。あ、この場合やられちゃったの方が正しいのかな。
いや、そうじゃなくて。
おれは阿部ちゃんとセックスしてしまった。
別に恋人的なお付き合いをしてるわけでもないのに。
ため息を吐く。
おれはひとまずベッドを降りた。
だってこの部屋ヤバい。におい、ヤバい。 おれたち何発出したのってくらいヤバい。
甘ったるくて、でもどこか生々しくて、確実に昨夜の証拠を物語ってる。
顔が熱くなる。空気清浄機のスイッチを入れた。
しばらくすれば臭いはとれるはず。でも記憶は消えないんだよな、と思ったら余計に憂鬱になった。
ていうかおれたち、マジでやっちゃったんだな……ちょっと夢オチ的な展開を期待してたおれはがっくりした。
夢なら夢で、自分の願望に絶望してたかもしれないけど。
現実だと、これからどう顔を合わせればいいのかわからなくて、それがもっと重い。
阿部ちゃんの寝顔をちらりと盗み見る。
普段のしっかりした表情とは違って、無防備で幼い顔をしてる。
こんな顔を見てると、昨夜の激しい阿部ちゃんが嘘みたいだ。
でも確かに、おれは阿部ちゃんに抱かれた。阿部ちゃんの手で、阿部ちゃんの唇で、阿部ちゃんの……。
「うわあああ、考えるな考えるな!」
小さく頭を振って、そんな記憶を振り払おうとする。
でも体の奥に残ってる違和感が、全部本当だったんだって教えてくる。
昨日穿いてたパンツが床に落ちてたので手に取る。 とりあえずこれを穿くかと思って、やめる。 うわなんかかぴかぴしてる……げんなりした。
全裸のまま移動して、シャワーを浴びることにする。
なんか体中がべたついてるし、ローション的なものが乾いちゃって気持ち悪いし。 地味に腰が筋肉痛だ。歩きにくい。
穴になんとなく違和感があるようなないような。痛みがなくてよかった。阿部ちゃんのが出たり入ったりしてたわりに、頑丈なんだなおれの穴……。
それとも、阿部ちゃんが上手だったのか。
シャワーを浴びる
。泡を洗い流しながら、このまま昨日のことも流れていけばいいのにと思って、そんなわけはないのもわかってるので気分が重い。
今日は朝から撮影があるので、阿部ちゃんが目を覚ます前に家を出よう、そうしよう、それがいい。 簡単に朝飯をつくってラップして、あっためて食べてって、メモを残して逃げるように家を出た。
朝の光が気持ちいい。
爽やかな朝だ。おれの心情にはまったく似つかわしくないほど爽やかだ。
撮影の間中考えてたのは監督の話してる内容じゃなくて、なんで阿部ちゃんがあんなことをしたのかということについてだった。
「はい、佐久間くん、もう少し笑顔で」
「あ、はい、すみません」
カメラマンに指摘されて、慌てて表情を作る。でも心ここにあらずで、全然集中できない。隣で撮影してる他のメンバーには申し訳ないけど、頭の中は阿部ちゃんのことでいっぱいだった。
昨日の阿部ちゃんは飲み会があるとかなんとかで帰りが遅かった。
最近忙しくて、一緒にいる時間も少なくなってたし、なんとなく距離を感じてた。
でも、それが普通だと思ってた。
おれたちは同居人であって、恋人じゃないんだから。
今日も照とふっかと飲むっていうのに、らしくもない。
普段の阿部ちゃんなら、前日にあんなに飲んだら次の日は控えめにするのに。
帰って来たときの阿部ちゃんは珍しくベロベロに酔っ払ってて、玄関のドアを開けるのにも一苦労してた。
鍵穴に鍵が入らなくて、何度もガチャガチャやってる音がして、心配になって迎えに出た。
「阿部ちゃん、大丈夫?」
「佐久間……」
出迎えたおれに抱きついて、いきなりキスしてきて、めちゃくちゃ酒臭かったから思わず突き飛ばしてしまった。
その瞬間の阿部ちゃんの顔が、今でも脳裏に焼き付いてる。
まるで世界が終わったみたいな、すごく傷ついた顔で「佐久間……」なんて呟かれたので、罪悪感でいっぱいになった。
酒臭いからシャワー浴びてきてって言ったら、一転して嬉しそうな顔しちゃって……あれって、おれが同意したようなもんなのか、もしかして。
今思えば、阿部ちゃんの中ではおれの言葉が「一緒にシャワーを浴びよう」って意味に聞こえたのかもしれない。
それからの流れを考えるに、そうなんだろうな。
おれとしては、シャワー浴びて頭冷やせって言いたかったんだけど。
でも、阿部ちゃんがシャワーから上がってきたとき、バスタオル一枚でおれの前に立ってた姿を思い出すと、今でも胸がドキドキする。
で、眠かったからもう寝ようと思ってベッドに行って、うつらうつらしてたら阿部ちゃんがきて……。
「佐久間、すごくきれいな目をしてるね」
「え?」
「佐久間の瞳は、いつもキラキラしてて……」
阿部ちゃんの酔った声が蘇る。あの時の阿部ちゃんは、普段とは全然違ってた。いつもの真面目で礼儀正しい阿部ちゃんじゃなくて、もっと情熱的で、積極的で……。
……。あとはまあ、うん。そんな感じで。思い出すだけで顔が熱くなる。
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