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宇宙の君(そらのきみ)

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宇宙の君(そらのきみ)

8 - 不安な心(ふあんなこころ)

♥

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2024年05月15日

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他に誰もいないおんりーの家。

雨が打ち付ける音と電車の走行音だけが音を立てている。

棚の上の写真たてには、無邪気な笑顔を浮かべる幼いおんりーと母親が微笑んでいる写真が入っている。

この姿になんとなく見覚えがある気がしたのだが、気のせいだろう。

きっと、気のせいだ。

ーーーーーー

〈おんりー‼︎〉

このままいつまで君に偽っていられるのか。

ごめんね、おらふくん。いや、蒼くん。

君は、もう覚えていないよね。

莉音の事なんて、覚えているわけないんだよね…

あの日、君の目の前から俺は姿を消した。だから、本名も言えないんだ。

『蒼くん、ごめんね。僕、もう行かなきゃ…』

〈いやだよぉ…〉

『でも僕は”せんぱい“の蒼くんに成長した姿を見せたいんだ。』

ーーーーーー

[明日退院できるでしょう。]

退院できることが決まったのは、君が消える4日前だった。

精神的ストレス、そして肺炎だったのだ。

どうやら、雨の中外で傘無しでいた為に引いていた風邪を拗らせたらしい。

でも、退院したら…俺達は離されてしまう。そんなのは嫌だ。

『……おらふくんはさ、大阪に帰りな。』

〈嫌だっ‼︎離れたくないっ‼︎〉

『いいんだよ。こんな未来もないような俺に割く時間を、もっと自分の為に使いな。』

〈……ねぇ、一緒に逃げようっ‼︎〉

退院1日前の6時。病院を抜け出し、家に帰る。大急ぎで荷物を詰めたら、これから夜も更けてくるが、逃げようと足を進める。

今日も大雨で、雷が鳴っている。寒いな…と手を温めながら歩く。

9月なのに、異常な冷え込みだ。

そして、雨。

[大雨警報が発令されています。自治体の指示に従い、不要不急の外出は控えてください…]

新宿の大きなビジョンではニュースが流れている。

ピロロローン。ピロロローン。

[え〜京浜東北線は、大雨の為運転を見合わせます。運転再開の見込みは立っていません〜]

マジかよ。タクシーで帰るか。うち泊まっていくよ。

そんな会話が聞こえてくる。

『…俺、消えちゃうのかなぁ…』

自分の袖を捲ってぽつりと呟くおんりー。

〈そんな事ないって‼︎〉

そう言ったら力強くおんりーの腕を掴んで立ち上がる。

〈降りよう。ここに居たところで埒が開かないよ。〉

手を取って、外に降り立つ。寒くて、白い息を吐く。

ホテルは、どこも満室か、受け入れてくれなかった。

彷徨って入ったビジネスホテルで、奇跡的に入る事ができた。

部屋に入って、ベットに飛び込む。そして2人で安堵の声を漏らす。

〈つかれたぁ…〉

『わかるw』

他愛のない会話をするうちに、夜も更けてきた。寝る準備をして、眠りについてしまった。


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