テラーノベル
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#自探索者
ゆむ。
98
#腐向け注意!
テリー・オスト
130
207
「だぁ”ー…くっそ、服ドロドロだ……伊沙奈に怒られる…」
顎を伝う汗を脱ぐって汚れた服を見てため息をつく
さっぱりと切られた襟足を冷たい夜風が撫で付け青いピアスを揺らした
「あ、そうだ、伊沙奈の誕プレ取りに行かなきゃ」
15回目の妹の誕プレを駅のロッカーに隠しておいたのでそれを回収してから帰路へつく
玄関の前には大きな袋を抱えた大好きな兄の姿があり同じように箱を抱えたまま駆け寄った
「兄ちゃん、おかえり!」
「あぁ、苑良か…苑良もおかえり、ってすごい汚れてるじゃないか」
「すっげぇ逃げ回られてさ…駆けずり回ってたらこんなんに……やっぱ伊沙奈に怒られるよなぁ〜…」
「はは、まだまだだな」なんて笑う兄は俺とは違って朝家を出た時と変わらず綺麗なままで、やはり流石は兄だなと思いながら鍵を開け玄関へはいる
「ただいまぁ〜」
「ふっ…ただいま」
くたくたな様子を隠すこともない俺に対してか少し笑うように揺れる綺麗なテノール
それに応えるように綺麗で可愛らしい鈴を転がしたような声がリビングからパタパタと出てきた
「おかえりなさい、槐お兄ちゃん、苑良お兄ちゃ、ん…」
嬉しそうに出迎えてきてくれたのに俺の服を見て一気に顔がピシリと固まる最愛の妹
冷や汗を流しながら視線を逸らした
「苑良お兄ちゃん…?」
「…ハィ」
「服汚さないでって言ったよね…?」
「ゴメンナサイ…」
後ろ手にプレゼントを隠しながら妹による詰めを甘んじて受け入れる
「まぁまぁ、苑良も頑張ったみたいだし、せっかく予定より早く帰ってこられたんだからご飯にしないか?」
伊沙奈はそうやって窘める兄をむすくれた顔で見やると「仕方ないなぁ」なんて可愛らしく呟いてリビングへ戻っていく
「兄ちゃんありがと〜、!」
「はは、次は気おつけるんだよ」
いつものように優しくはにかんで頭をわしゃわしゃ撫でられる
子供扱いするなと言いたいところだが困ったことに兄にこうやって触れられるのは嫌じゃなかった
それも甘んじて受け入れ、リビングから呼ぶ伊沙奈に返事をして二人で足を進める
「伊沙奈、誕生日おめでとう」
「おめでと」
それぞれプレゼントを渡し、伊沙奈は少し目を見開いてすぐに嬉しそうに顔を綻ばせた
「ふふ、ありがとう!槐お兄ちゃん、苑良お兄ちゃん」
この花が咲くような笑顔を守れるのならなんだってできる気がするのは、流石に妹を溺愛しすぎだろうか
ケーキやご馳走が並べられた食卓を3人で囲んで話に花を咲かせる
学校であったこと、最近気になる人ができたこと、バイト先でのこと、友達とのこと……
気になる人の話では俺も兄ちゃんも身を乗り出して「そいつは本当に良い奴なのか」「お前を守れるのか」「俺より強くないと認めない」などなど詰め寄るが、話を聞くに心底良い奴なのだろう。
ただその分人からの好意に鈍くただの親切だと思ってる節があるのだとか
俺の妹の可愛さと好意に気づかないやつなんて
と思いながらも妹の選んだ人なら俺は否定できないんだろうなぁなんて楽しげに話す大好きで愛してやまない2人を暖かい気分で見つめた
あぁ、幸せだ
ずっとこんな時間が続けばいい
普通に喧嘩して
普通に笑って
普通に兄妹をやるんだ
そこに愛憎劇や悲劇なんかいらない
ただただ、この3人で幸せに、一生を過ごせたなら
それだけで俺は何も望まないから
“クソ兄貴なんか、大っ嫌いだ、!!”
“甘ったれたことを言うな!!!俺は敵だぞ!!!”
“俺たちを愛してたからなんだろ、?!!!”
時折脳裏を掠める幸せとは言えない記憶
燃え盛る炎の中に横たえる伊沙奈と家族
それを眺めるように立ち尽くす兄
そんな兄を責め立てる自分
その後は必ず大人びた姿で怒鳴る兄と
涙を流しながら負けじと声を張り上げる自分がいた
俺の人生にそんな瞬間は来なかった
きっと悪い夢だ
そうに違いない
そう自分に言い聞かせ、目の前の2人を見つめる
「ん、どうした?苑良」
「苑良お兄ちゃん、何かあったの?」
視線に気づいたふたりが心配げに見つめてくれる
「ふはっ……なんでもないよ、幸せだなぁって思っただけ」
ケーキにフォークを刺しひと口頬張る
甘いクリームの味が広がり、顔が綻んだ
「このケーキ美味しいよね、槐お兄ちゃんが予約してくれてたやつだよ」
にこにこと本当に嬉しそうに笑う伊沙奈
「あぁ、さすが兄ちゃんだなぁ」
なんて兄を見ると、心底穏やかで、少し悲しそうに笑っていた
「あぁ……幸せだな」
その声音には噛み締めるような切実な思いが滲んでいた……気がする
─fin
コメント
1件
わあ……兄妹3人の温かさにちょっと泣きそうになりました。 苑良くんの「幸せだな」っていう言葉と、槐お兄ちゃんの「幸せだな」が、同じ言葉なのに重みが違って感じられて。胸がぎゅっとなりました。 脳裏をよぎる“別の世界の記憶”のような場面もすごく気になります……。この幸せが永遠であってほしいと、読んでいて心から思いました。素敵なエピソードをありがとうございます🌷