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昼休みの教室は、
笑い声と騒めきでいつもより賑やかだった。
若井と涼ちゃんは教卓の前で、
お互いの肩を小突き合いながら、
軽口を叩いてケラケラと笑っている。
時々肩を抱いたり、耳元で囁いたり、
他のクラスメイトも『お前ら仲良すぎ!』
と揶揄うほどだ。
僕は自分の席に座ったまま、それを見ていた。
胸の奥で、何かチクチクしたものが広がる。
なんであんなに…、
なんで僕には、
あんな無邪気に笑ってくれないの、?
みんながいるから?
それとも、涼ちゃんの方が…
若井の視線が一瞬だけこっちを掠める。
その目はただの“友達”みたいで、
苦しくて、息がつまりそうだった。
休み時間が終わる直前。
僕は誰にも気づかれないように、
そっと廊下へ出た。
グラウンドの裏、
小さな花壇の奥――人通りも声も届かない角。
全身が熱い。泣きそうだけど、
泣いたらこれ以上惨めになる。
でも、どうしようもない気持ちを抑えきれず、
そのままLINEで若井に、
“少し話したい”とだけ送った。
すぐに足音がして、若井がいつもの
呑気な顔で小走りにやってくる。
滉斗『元貴?どしたの、こんなとこで』
問いかけに、『何でもない』なんて嘘は、
もう吐けなかった。
僕は視線をそらしたまま、
声を震わせながら呟いた。
元貴『さっき…涼ちゃんと、
すごく楽しそうだったね、
…なんで、僕の時は、あんな風にしないの、?』
若井がちょっとびっくりした顔をした。
滉斗『いや、別に――、周りに人いるし、
…俺、元貴嫌な思いさせちゃってた、?』
元貴『…分かんない、
でも、苦しくて…やなの、…』
涙がにじみ、僕は下を向いたまま、
若井の制服のネクタイをぎゅっと掴んだ。
滉斗『元貴…ごめん…』
震える指先が、どうしても離せない。
そのまま、
涙目のまま顔を上げ、覚悟を決めて、
若井の顔を自分の方にぐいと引き寄せる。
やわらかな唇が、触れ合う。
最初はつっかえたみたいな、
ぎこちなくて痛いくらいのキス。
だけどそれは、どうしようもなく、
切実な恋心そのものだった。
離れて、僕は泣きそうな声で囁いた。
元貴『僕だけの若井でいてよ…、
他の誰かとばっか、仲良くしないで…
お願いだから……』
若井は一瞬驚いたまま動けなかったけど、
次の瞬間、優しく僕の頭を抱きしめてくれた。
滉斗『ごめん、やきもち妬かせてた…
元貴がいちばん大事だよ、
元貴が一番特別だって、
ちゃんと伝えなきゃ駄目だったよね、』
抱かれたまま、
僕の涙は制服にぽつぽつと染み込んでいく。
元貴『僕…我儘かもしれない、
でも、若井が他の人と仲良さげなの、
耐えられない、』
滉斗『全部、俺が悪い、
今度から、誰より先に元貴のこと探すから、
誰よりも近くにいる、』
誰もいない秘密の場所で、
2人の心が深く結び直された一瞬だった。
昼休みのざわめきが遠ざかる中――
胸の奥の独占欲と恋しさごと、
触れたキスの余韻がいつまでも残っていた。