狩り手

明るい朝の日差しがビルの隙間から差し込む中、街は少しずつ活気を取り戻していった。人々の歩くペースが速く、いかにも忙しそうに見えるが、それがこの街の普通の風景だ。普段は誰もが目的を持って動き回っている。僕もその一人、ただし、今日は少し違う。今日は「仕事」と呼べるものが、ちょっとした休憩を兼ねたようなものになる予定だ。

「いらっしゃいませ～！おはようございます！」と店の入り口から明るい声が響く。

その声に振り向くと、カフェの入り口に立っていたのは、制服姿の女性だった。彼女は、お世辞にも大きな店舗とは言えないそのカフェを、明るく賑やかな空気で包み込んでいる。店もシンプルだが、どこか温かみがあり、ホッとするような雰囲気が漂っていた。

「お客さん、どうぞお入りくださいね！」彼女が手を振りながら笑顔で招いてくる。

その笑顔に、なんだかほっと心が和む。日常の小さな安心感のような、そんな雰囲気が漂っている。こんな場所で過ごしていると、どんなに暗いことがあっても少しだけ元気をもらえる気がする。

「どうも。」僕は少し意外にも、軽く頭を下げて店に足を踏み入れる。店内に入ると、コーヒーと焼き立てのパンの香りが広がっていて、どこか懐かしい気持ちがする。

「お一人様ですか？」女性の店員が目を輝かせながら訊ねてくる。お世辞にも華奢な体格で、すぐにでも誰かに頼まれたような気分になる。その元気な声が、また安心させてくれる。

「はい。」僕は答えると、少しだけ心が軽くなった気がした。「座ってもいいですか？」

「もちろんです！」彼女は無邪気に答えると、素早くテーブルを用意してくれる。「お席はこちらで大丈夫ですよ！お好きなものをお選びくださいね。」

僕はそのまま、店内を見渡して目の前の窓際の席に座ることにした。店内は静かな音楽が流れ、木のテーブルと白いカップが並ぶ。ここは、まるで日常の中の小さな異空間のようで、心地よい落ち着きを与えてくれる。

「ご注文をお決まりですか？」女性が微笑みながら近づいてきた。

「そうですね…」僕は少し考えてから答える。「カフェラテと、あと…クロワッサンをお願いします。」

「カフェラテですね！」彼女はメモを取ると、目を輝かせて去って行った。

その背中を見送りながら、僕は少しだけ肩の力を抜く。今日の仕事はちょっとした手間で済ませられるはずだが、それでも心のどこかに重いものがある。それでも、今はこのカフェで一息つくことができている自分に、ちょっとした安堵感を感じていた。

「お待たせしました！」少しして、カフェラテとクロワッサンがテーブルに置かれた。女性はさらに明るい声で続ける。「ご注文は以上でよろしいですか？」

「ありがとうございます。とてもいい匂いですね。」僕はコーヒーのカップを手に取り、口に含んでみた。温かく、まろやかな味が広がり、心が少しだけ癒される。

「嬉しいお言葉ありがとうございます！」彼女は満面の笑みを浮かべると、軽やかに一歩下がる。「何かあればお知らせくださいね。」

その明るい笑顔と元気な声が、さらに店内の雰囲気を和やかにしている。ここで過ごす時間が、なんとなく穏やかで、リラックスできる空間になっているのが不思議だ。

僕はクロワッサンを一口かじりながら、その女性の様子を見守る。やっぱり、この街のどこかにこうした明るい人がいることが、必要なんだろうなと思う。彼女の元気が、無意識のうちに人々に伝染して、少しずつでも、どこか暗いものを払いのけてくれる。僕自身も、少しだけその力を借りているような気がしていた。

「ありがとうございます！お代は後で、ゆっくりしていってくださいね～！」彼女が笑顔で見送ってくれる。

「はい、ありがとう。」僕は軽く手を振って応えた。その瞬間、少しだけ温かな気持ちが心の中に広がった。

こういう普通の時間を、僕はたまにだけど、大切にしたいと思うのだ。普通の一日が、こんなにも心を癒してくれるなんて、思ってもみなかった。