テラーノベル
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夏が終わり、少しずつ秋の気配が近づいていた。
愁斗の生活も、少しずつ落ち着いてきていた。
ただ。
体調にはまだ波があった。
朝は元気でも、夕方になると急に疲れが出る。
少し寒い日は、体が重く感じる。
施設の子どもたちと遊んだ日は、部屋に戻った瞬間ベッドへ倒れ込むこともあった。
「……疲れた。」
以前なら、その言葉すら言えなかった。
でも今は。
小さくでも言えるようになっていた。
その日も。
施設の廊下を歩いていると、少しだけ視界が揺れた。
「……。」
壁に手をつく。
深呼吸する。
大丈夫。
そう言いかけて。
止まる。
ひでとの約束。
愁斗はスマートフォンを取り出した。
「少し疲れたから休む。」
送信。
数秒後。
すぐに返信が来た。
『えらい。』
『ちゃんと休め。』
思わず笑ってしまう。
「子ども扱い。」
でも。
嫌じゃなかった。
一方。
ひでは家で、昔のアルバムを広げていた。
昨日、養父母から聞いた言葉が頭から離れない。
『5歳まで、大変な環境にいた。』
『覚えていない時間がある。』
ページをめくる。
5歳の頃の写真。
その前。
写真がほとんどない。
不自然なくらい。
『……俺。』
『何があったんだろ。』
その時。
養母が静かに声をかけた。
「ひで。」
『ん?』
「いつか話さないといけないと思ってた。」
ひでは顔を上げる。
「あなたは、5歳の時に私たちの家に来たの。」
『……。』
「それより前は。」
少し間を置く。
「施設にいた。」
その言葉が、胸に落ちた。
『施設……?』
「うん。」
「あなたは小さかったから、覚えていないと思う。」
「でも。」
「一緒に暮らしていた子がいた。」
心臓が大きく跳ねる。
『……子?』
「男の子。」
頭の中で。
あの夢が蘇る。
泣いている男の子。
伸ばされた小さな手。
『その子は……?』
養母は少し寂しそうに笑った。
「ごめんね。」
「詳しいことは、まだ話せない。」
「でも。」
「あなたが離れる時。」
「すごく泣いていたことだけは覚えてる。」
ひでは息を止めた。
『俺が?』
「ううん。」
「あなたも。」
「その子も。」
その夜。
ひでは眠れなかった。
スマートフォンを見る。
愁斗からのメッセージ。
『今日はちゃんと休んだ。』
その一文だけ。
なのに。
胸が締めつけられる。
『……なんで。』
『なんで愁斗なんだ。』
理由は分からない。
でも。
初めて会った時から感じていた。
守らなきゃいけない気持ち。
懐かしい感覚。
ずっと前から知っていたような安心感。
全部。
偶然じゃない気がした。
同じ頃。
愁斗も夢を見ていた。
いつもの暗い部屋。
でも。
今日は少し違った。
小さな男の子の声。
前よりはっきり聞こえる。
「……まって。」
誰かを呼んでいる。
「……にいちゃん。」
その言葉に。
愁斗の心臓が大きく鳴る。
「……にいちゃん?」
目を覚ます。
頬には涙が流れていた。
初めてだった。
夢から覚めた後。
涙が出ていたのは。
「……なんで。」
「なんで悲しいんだろ。」
理由は分からない。
でも。
ずっと探していたものが。
ずっと待っていた誰かが。
どこかにいる気がした。
翌日。
二人はいつもの場所で会った。
『眠そう。』
「ひでも。」
『俺も?』
「顔に出てる。」
二人で笑う。
でも。
ふとした瞬間。
同じことを考えていた。
——この人を。
昔から知っている気がする。
まだ名前のない違和感。
まだ形にならない記憶。
でも。
確実に。
二人の過去は、今へ繋がろうとしていた。
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コメント
1件
みぅです🤍🥀 第23話、読みました……。 愁斗が「疲れた」って言えるようになったこと、ひでとに連絡できたこと、本当に小さな一歩だけど、それがすごく尊いなって思いました。それにひでとが「えらい」って返すところ、優しすぎて泣きそうになる……。 そして、ひでとの過去——5歳の時に施設にいたこと、一緒にいた男の子がいること。夢の中で愁斗が聞いた「にいちゃん」って声……偶然じゃない気がして、胸がぎゅっとなりました。 お互いが、まだ形にならないけど確かに感じ合ってる「懐かしさ」。この繋がりがどうなっていくのか、すごく気になります……。 にこにこさんの紡ぐ優しい空気感、ずっと読んでいたくなります🌙