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車が到着し、しゅんのマンションの部屋に入る。
彼の家にはこれまでに何度も来たことがあった。
しゅんは冷蔵庫から冷えた缶ビールを二つ取り出してくる。 テレビをつけてお気に入りのバラエティ番組を流しながら、二人でプシュッと音を立てて乾杯をした。
いつもの大好きなルーティーンだ。
けれどいつもと決定的に違うのは、座る場所だった。
いつもならソファに横並びで、少し距離を空けて座るはずなのに。 今日はどういうわけか、彼の開いた足の間にすっぽりと収まる形で僕は床に座っている。
なんなら後ろから包み込まれるようにして、彼に優しく抱き着かれていた。
よく分からないが、部屋に入ってからの自然な流れで、されるがままにこの体勢になってしまっていたのだ。
彼から伝わってくる、男らしくてどこか甘い匂い。
「しゅん…これ、どういう……」
「んー?くっついてたいんよ。……いや?」
「えっと、嫌じゃない、けど…」
嫌なわけでは絶対にない。
ただ、密着した背中から彼の熱い体温がダイレクトに伝わってきて、変に緊張してしまって身体がカッと熱くなる。
これ以上は僕の心臓が耐えられそうになくて。
だからただ、僕の腰に回された彼の手の甲に自分の手をそっと重ねた。
「なぁ……」
「ん?」
彼が僕の首筋に熱い吐息を吹きかけ、耳元で静かに名前を呼ぶ。
何となく部屋を満たしていくこのもどかしくて甘い空気に、僕はなす術なく流されそうになっていた。
ピンポーン。
その時、タイミングが良いのか悪いのか、静かな玄関のチャイムが鳴り響いた。
ちょうど注文していた出前のカレーが届いたのだろう。
しゅんは名残惜しそうに腕の力を緩めると、長い脚でソファの背もたれを器用に跨ぎ、パタパタと足音を立てて玄関の方へと消えていった。
彼が離れた瞬間、急に冷たい空気が肌を撫でる。
僕は我に返り、火照って仕方のない顔をパタパタと両手で仰いだ。
当然そんなことで涼しくなるわけではないけれど、そうでもしていないと心が落ち着かなくて。
「ほら、カレー届いたわ! ――って、あれ?じゅう、暑かった?顔赤いで?」
出前のカレーを両手に持って戻ってきたしゅんが、不思議そうに僕の顔を覗き込んできた。
「あ、や、違くて…エアコンのせいだから!」
「あー……、なに?照れちゃったん?」
しゅんは意地悪く目を細める。
「ち、違うし!!もう!お腹空いた!!」
「ふふっ。じゃあ、食べよか」
そう言って、満足そうに優しい表情で僕を見つめる彼の真っ直ぐな視線が、なんだか無性にくすぐったくて。
僕は恥ずかしさに耐えかねて、気づかないフリをして大慌てでスプーンを握り、チーズの溶けたカレーを口いっぱいに頬張った。
今日会社で会うまでは、昨夜のあのキッチンのことを思い出して、少なからず「怖い」という気持ちが僕のどこかにあったのは確かだ。
でもこうして実際に彼の部屋で二人きりになって会話をすると、そこにいるのはいつもの大好きな、優しくて愛おしい舜太だった。
その優しさに心の底から安心すると同時に、あまりにも簡単に解けてしまう自分の気持ちが、もどかしくて激しく乱されてしまう。
僕は……本当に、これでいいのだろうか。
「強くなるまで待ってて」と僕から彼を焦らせるような中途半端な約束をして、そのくせ、自分を守ろうとしてくれたはやちゃんを傷つけてまでここに来たのに。
いざしゅんの前に来ると、結局こうして彼の温もりに縋りついてしまっている。
一人の大人として自分の足でちゃんと立ちたいのに、彼の愛の熱に当てられると、自分の脆い防壁なんて一瞬で溶かされて、いいように流されてしまう。
そんな自分の甘さと、しゅんの覚悟に追いつけない不甲斐なさに、胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
スプーンを動かす手がふと止まり、そんな不安が頭をよぎる。
けれど、カレーを食べ終わる頃には、会話は自然と楽しかった北海道旅行の思い出話へと戻っていった。
to be continued…
コメント
2件
なんかこのままではいかない予感がする、、、 質問なんですけど今後も毎日投稿でしょうか?時間帯は何時頃ですか?