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もちぷよ
987
270
きゅー
2,024
お互いの顔を見合わせて笑い合っているこの瞬間が言葉にできないほど嬉しかった。
胸の奥がキュッと甘く苦しくなるようなこの温もりがどうしようもないくらい愛おしい。
「なぁ、じゅう。次もまた、どこか一緒に旅行行ってくれん?」
「うん! どこ行く〜?」
「え、ほんまに良いん!? 嬉しいわぁ……! 今度はじゅうの行きたいところ、どこでも連れてったるでな!」
「え〜、でも俺はまた北海道に行きたいなぁ」
「あはは、楽しかったもんなぁ!」
「うん。今度はもっとのんびり観光とかもしてみたいなって」
「ええやん! また一緒に行けるの、めちゃくちゃ嬉しいわぁ」
「へへっ」
未来の約束を交わし合う時間が、愛おしくてたまらない。
けれど…。
「なぁ、じゅう……」
パッと弾けるように、さっきまでの楽しそうな表情が彼の顔から消え失せた。
どこか切羽詰まったような、少し苦しそうな表情をして、しゅんは僕を真っ直ぐに見つめてくる。
「…俺のこの気持ち、このままでもええの? ほんまに、嫌やない?」
嫌なわけがない。
しゅんの真っ直ぐな好意に対して、僕の中に拒絶の気持ちなんて、最初から一ミリも存在していなかった。
むしろ昨夜あんなことがあった直後だというのに、彼に対する自分の気持ちがそれほど変わっていないことに、僕自身が一番戸惑っていたくらいだ。
何より…。
今、彼からの「好き」が、あの大きな愛の熱が、僕の前から永遠に消え失せてしまうことのほうが、今の僕には何倍も耐えがたくて嫌だった。
「……嫌じゃないよ」
ずるくて、都合がいいのはわかっている。
恋人になるのは待っていてほしいなんて言っておきながら、しゅんからの愛だけはこの手で繋ぎ止めておきたかった。
「ほんま…?ありがとう、じゅう。……俺、あんな酷いことしてまったし、もう二度とじゅうの隣にはいられないと思っとった…」
しゅんは壊れ物を扱うように、遠慮がちに僕の身体をそっと抱きしめてきた。
僕は自分から強く抱きしめ返すことはしなかったけれど、でも拒否するわけでもなく、彼の胸の中に身を委ねてそのぬくもりを受け入れた。
僕はこの後どうすればいいのだろう。
頭の片隅では、はやちゃんの言っていた正論が冷たく響いている。
”ああいう理不尽な暴力を振るう奴は、また絶対に同じことをする。お前とは違う人種なんだから諦めろ”。
確かに客観的に見ればそれが正解なのだと思う。 警戒心を持って、彼から静かに距離を置くべきなのだろう。
外の世界の正しい引き算なんて、嫌になるほど分かっている。
なのに僕の心も、しゅんの熱を知ってしまったこの身体も、変わらずに目の前の彼を強烈に求めてしまっていた。
僕は震える両手をそっと伸ばし、しゅんの背中に回した。
ぴったりと重なり合う体温。
その瞬間、僕の背中を抱いていたしゅんの動きが、驚いたようにピクリと一瞬だけ止まった。
――引き返すなら、今だ。
僕の脳内では、ひとりで強くなるという『覚悟』と、彼の愛の熱にこのまま深く流されてしまいそうな『甘え』が激しくぶつかり合って警鐘を鳴らしている。
だけど流されてはいけない。
これ以上踏み込んだら本当に戻れなくなる。
分かっているのに、僕はしゅんの愛の引力に自ら喜んで呑み込まれていってしまう。
「じゅう好き。……大好きやよ…っ」
耳元で囁かれたその言葉はわずかに震えていて、彼の張り裂けそうな情愛が嫌でもダイレクトに胸に伝わってきた。
僕の顔色を窺いながら、嫌われることを怯えるようにして僕を抱きしめているしゅん。
そんな風にしゅんに自信を無くさせて、寂しい思いをさせているのは、他ならぬ僕の中途半端な態度のせいなのだと、胸の奥がキュッと咎めるように痛んだ。
「しゅん、大丈夫だよ」
僕は自分の胸から少しだけ彼を離し、その顔を覗き込んだ。
しゅんの大きな目はうるうると潤んでいて、捨てられた子犬みたいに首を傾げている。
「俺、あれくらいじゃしゅんのこと嫌いになんてなれないよ」
「え……」
「しゅんは俺のことが好きだから、あんな風になっちゃったんでしょ?」
「……うん。俺、じゅうを失うのが、ほんまに不安で……」
「俺がしゅんを不安にさせなければ、しゅんはずっといつもの優しいままでいてくれるんでしょ?」
「……ごめん、……っ」
「ううん、謝ってほしいわけじゃないよ。俺は、これからの未来の話がしたいの」
「……俺、心配性やから……。じゅうのこと、十年も忘れられんで、ずっとずっと好きやったから…。 なんやろ、好きすぎて……自分でも頭おかしくなってまったんやないかって思うほどで……。やから、他の人に取られるって思ったら、もう焦っちゃってな?誰にも取られたくなくて。 俺だけのじゅうでいてほしいんさ。 俺のことだけ、見てほしいんよ……っ」
涙声のまま、胸の奥に溜まった想いを必死に吐き出す彼の目からは、大粒の涙がポロポロと途切れることなく零れ落ちていった。
しゅんは自分のシャツの胸元を強く握りしめ、下を向いて俯きながら、静かにその肩を揺らしている。
「……っ、自分のことばかりで、本当にごめんなさい……っ」
僕のことでこんな風にボロボロと泣きじゃくる彼が。 僕を誰にも渡したくないと独占欲を剥き出しにするこの彼の存在すべてが、僕にはどうしようもないほど、狂おしいほどに愛おしかった。
僕は伸ばした指先で彼の濡れた涙をそっと拭い、今度は僕の方から彼の身体をぎゅっと力いっぱいに抱きしめた。
「大丈夫だから……ここにいるよ」
「うぅ……っ、じゅう、好き、……ほんまに好きなんよ……っ」
「うん…。たくさん不安にさせてごめんね」
もう僕の頭の中には、目の前で泣きじゃくるこの人の存在以外、何一つ残っていなかった。
正しい引き算も、外の世界の理屈も、すべてがどうでもよくなるほど…。
僕の心は、完全にこの曽野舜太という男に囚われてしまっていた。
泣きじゃくる彼の背中を落ち着かせるように優しくトントンとあやすように叩き続けた。
To be continued…..
コメント
2件
おひさしぶりです しゅんしゅん可愛すぎる💧💧