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あんり
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#ご本人様とは一切関係ありません
ぬま子
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朝イチの仕事を終え、次の打ち合わせまで1時間ほど時間が空いた。
事務所へ戻る前に、近くの小さな公園まで足を伸ばして、2人でベンチに腰を下ろした。
遠くで蝉が鳴いている。
木陰を抜ける風だけが少し涼しかった。
打ち合わせまでの1時間、2人きりで過ごせる。
忙しい毎日の中では、それだけでもご褒美みたいな時間だった。
「昼間に外にいるの、何か変な感じ」
柔太朗が青々と夏の色をした木の葉ごしに空を見上げる。
「みんな仕事してる時間だもんな」
「うん」
コンビニで買ったアイスを食べながら、とりとめもない話をした。
昨日のテレビ収録で太智の発言がすごくウケていた話。
舜太が最近参加したらしいフットサルの試合の話。
仁人と夜中までゲームをしていた話。
新曲の振り付けの話。
恋人になったからといって、急に会話が変わるわけじゃない。
付き合う前と同じように笑って、
同じようにくだらない話をして、
同じように隣を歩く。
違うのは、歩き出したとき肩が触れても、お互いどちらも避けなくなったことくらいだった。
それだけで十分幸せだった。
そろそろ戻ろうか、と立ち上がり、並んで歩く。
何気なく腕が触れる。
勇斗はそのまま離れず、もう少しだけ肩を寄せてくる。
「やっぱ今日、暑くね?」
「暑い」
「じゃあ離れる?」
「…やだ」
「俺も」
二人で笑う。
そんな他愛もない時間が好きだった。
ふと、思う。
恋人になって、少しずつ変わったことはある。
でも、一つだけ、どうしても変わらないものがあった。
――呼び方。
「はやちゃん」、ずっとそう呼んできた。
憧れていた先輩。
追いかけてきた背中。
何度呼んだか分からない、大切な名前。
だから今さら変える必要なんて、本当はない。
ない、はずなのに。
恋人になった今も、昔と同じ呼び方のままでいいんだろうか。
せっかく恋人になったのだから、2人のときくらい呼び方を変えてみたい気もする。
2人でいるときだけの、特別な何かが欲しかった。
一回だけ。
試してみるだけ。
そう決めて、息を吸う。
「……はやと」
呼んだ瞬間だった。
すぐ隣を歩いていた勇斗が、ぴたりと足を止めた。
ゆっくり振り返ると、驚いた顔の彼と目が合う。
「……え?」
元々大きな目を更に見開いて、それから、じわじわとニヤけてしまうのを堪えるみたいに口元を押さえた。
「今、勇斗って言った?」
一歩近付いてくる。
しまった。
耳まで熱くなる。
「……いや、」
「いや、じゃない」
もう一歩。
距離が近い。
「ねえ、もう1回」
「……無理」
「えーー」
恋人にしか使わない、拗ねた声だった。
「何で。ちゃんと聞きたい」
「改めて言うの、恥ずいって…」
「俺はめちゃくちゃ嬉しい。ねえ、お願い」
その言い方ずるい。
そんな顔で言われたら、断れるわけがない。
「柔太朗、もう一回呼んで」
お願い、と子どもみたいに少しだけ首を傾げる。
それがかわいくて愛おしくて、柔太朗は小さく笑った。
「……勇斗」
今度はちゃんと聞こえる声だった。
一瞬だけ時間が止まる。
「やばい、めちゃくちゃ良い」
照れているのを隠すように前髪をかき上げながら、笑う。
「反則だろ、それ」
「そんなに?」
「そんなに。たまんない」
少し赤くなった耳が、何よりの答えだった。
その顔が珍しくて、かわいくて、
柔太朗までつられて笑ってしまう。
「慣れないね」
「だな」
2人で顔を見合わせて笑った。
何年もかけて馴染んだ呼び方は、1日では変わらない。
でも、それでいいのだと思えた。
呼び方は昔のままでも、胸へ届く場所は、もうあの頃とは違っていた。
コメント
1件
あんりさん、読んだよー!第1話からもう尊すぎてやばかった…!「はやちゃん」から「勇斗」に変えた瞬間の勇斗の反応、めっちゃツボった。足止めて「え?」ってなるのも、ニヤけるの堪えるのも、そして「もう1回」ってねだるところ、全部かわいすぎるでしょ。呼び方ひとつでこんなに心が動くって、丁寧に描かれててすごく刺さった。最終話じゃなくて続きあるよね?次も楽しみにしてます🔥