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きっかけは、ほんの些細なこと。黒尾が後輩の相談に長く付き合って帰りが遅くなった日。
『帰るの遅くなるくらいなら一本くらい連絡してよ』
「はいはい、ごめんごめん〜」
最初は軽い口調だったけど、
🌸の言い方が少し強くなって、
黒尾の“プライド”がチクッと刺激されてしまう。
『いつもそうやって誤魔化すよね』
「……は?」
空気が一気に変わる。
普段なら「まぁまぁ〜」で済ませる男が、
珍しく素でムッとする。
「お前だって、拗ねたら話聞かねーじゃん」
『今その話関係ないでしょ』
「どれも関係あるし。……つか、そういうとこ嫌い」
言った瞬間。
黒尾自身、
「あ、やば」
って顔をする。
でも遅い。
🌸はピタッと動きを止めて、
表情からすっと色が消えた。
『……そっか。
ごめん、ちょっと頭冷やしてくるね。ごめん。』
玄関に向かう音。
何も言えない黒尾。
言葉より沈黙のほうが痛い。
扉が閉まる音が、やけに大きい。
扉が閉まった瞬間、
さっきまで“ムカつき”で膨れてた心が
一気にしぼむ。
「俺……今……何言った?」
普段クールで冗談交じりの男が、
息を止めたままゆっくり膝に手をつく。
「“嫌い”って……
あいつにだけは……絶対言わねぇって決めてたのに」
何年もかけて築いてきた信頼を
一言で壊しかけた自分に、
どんどん息が苦しくなっていく。
手が震える。
落ち着いた顔なんてしてられない。
「……はぁ……最悪。
ちょっとキレたぐらいであんなこと言うとか……
俺、ガキじゃん」
余裕系の仮面が全部落ちて、
ただの“好きな女を泣かせた男”になっていた。
玄関へ走る。
靴に手を伸ばしたところで立ち止まる。
(追っかけるべきか……
でも無理やり連れ戻すのは違う……
でも……でも……)
結局、
「無理。俺、待てねぇ」
靴を乱暴に履き、
息を切らしながら外へ飛び出す。
夜の公園。
ベンチに静かに座る🌸が見える。
「……いた」
声が震えてるのを自分で分かってる。
こんな黒尾はほんとに珍しい。
『……なに?』
「ごめん……。“嫌い”なんて……絶対思ってねぇよ。
あれ、言っちゃいけないやつだった。
俺さ……お前にだけは言わねぇって決めてて……
でも言った。……最悪だよな俺」
🌸が黙ってると、
黒尾はゆっくり、ゆっくり近づく。
「怒っていいし、泣いてもいいし、
蹴られてもいいし、
嫌いって言われても、文句言えねぇけど……」
いつもふざけてる男が、
今は本気で声を震わせている。
「……お前に嫌われるのだけは、
まじで無理」
🌸が少しだけ視線を上げる。
黒尾の目は少しだけ赤い。
『……嫌いになんてならないよ』
「……っ、なら……良かった……」
力が抜けたみたいに
そのまま抱きしめてくる。
ぎゅううううううっと、
さっきの喧嘩なんか全部押し潰すみたいに強く。
「もう二度と言わねぇ。
あれ、俺の本音じゃねぇし。
ただの意地だし。
あんな言葉で傷つけたくねぇんだよ……お前のこと大好きだから」
普段の余裕も煽りもゼロ。
ただの必死な男。
手は震えてるし、息も少し乱れてる。
「帰ろ。
今日、絶対離さねぇから」