あれから2週間後の土曜日、甲正山ダンジョンの訓練施設にて
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ……」
「動画は見た事があるが、これが噂の小野麗尾城かね。ところで今あそこで火炙りにされているのは……?」
話しかけてきたのは、かつて初回講習で付き添い役になってくれた館林さんである。
訓練施設の管理者に事前に許可を取っていたのだが、やはり近くに小野麗尾城(コンナモノ)が急にできると確認をしたくなるのだろう。
フル装備の防衛隊員がダッシュでこっちに向かって来た時は思わず応戦の覚悟を固めかけたが。
「ああ、彼は只の敗北者です。難易度:イージーにしとけと忠告したにも係わらず、最高難易度:SASUKEェッ!を選んで見事に脱落しただけの」
地下牢から脱出するためには地上まで伸びている金属の柱にしがみ付いて攀じ登らなければならないのだが、筒状の柱の中には王王王が常駐し、常に柱を熱し続けているため、実質脱出不可能である。
床も熱伝導製の高い柱と同じ金属製なので、火炙り処では済んでいないと思うのだが。そこは十文字君。
宝箱の中に身を隠す事で何とか凌いでいる。……凌いで、いる?
あの宝箱、断熱性もあるのか!?
「マモルッチ、もう見てらんないんだけど」
「もうここから挽回は無理だと思いますよ?それと、今改めて城を出させなかった決勝戦の自分の判断が正しかったと確信しましたよ」
「そんな、酷い。あの時は神橋君専用の特別仕様で地下牢に油まみれのオークとゴブリンも待機させていたのに……」
「余計にタチが悪いじゃないですか!?」
流石に十文字君も詰みだろうと、王王王を引き上げさせ……おい長女、抵抗するな!もっと悲鳴を聞きたいとかそんなキャラじゃなかっただろ!!!よし、何とか引っ込んだ。
「佐助~十文字君の回収宜しく~」
「はっ! 主命確かに賜りました!」
「マモルッチ?佐助ちゃん、会話できてない?前は出来てなかったように思うけど」
「ああ、ウチのエインセルにね」
「師匠に?師匠ってそんな事も出来たんだ!?」
師匠スゲ~と褒め称える露理葉さん。
俺もまぁ、素直に凄いとは思った。テレパシーで俺の言語知識を抜き出して、自分が使えるようにしたのなら、他のモンスターにも応用できないかと思ったのだが、最初は、
「そんな事試した事ないから出来るかわかんないし、やっぱり無理、無理よ」
と言っていたのだが、今後意思の疎通が出来ないモンスターも使役するかもしれない可能性を考えると、言葉を話す事が出来なくても理解できるようになってもらえるのは大事な事なので、無理無理言うエインセルに漢小野麗尾、無言の土下座一択であった。
結果として、佐助と剛武とセキローとバルクさんとヒゲジジイ共とキラービー達が日本語習得、佐助とバルクさんが会話できるようになるという大成功……?となった。?が付いたのは、日本語が読めるようになった彼らが一斉に読み物を求めるようになったからだ。
キラービーの植物図鑑とバルクさんの武術書はまだ良いとして、佐助と剛武とセキローが漫画を読むようになり、ヒゲジジイが技術書・設計書を要求するようになったのは……おい、馬鹿止めろ。火力発電すらない村に原子力発電所とか過剰供給にも程がある。水車があるんだからおとなしく水力発電から始めなさい。
「地下牢はともかく、君はこんな砦をどうして作ろうと考えたのかね?」
「発想の切欠になったのは、この間のイベントの為に対人戦の経験を積もうと思った時の出来事ですね。武器防具を持った俺に対抗するために、即席のバリケードを作って、石を投げてきたヤツが居たんですよ。あの時はただ只管に面倒を感じただけでしたが、後になって思い返すと地の利を人為的に得られる有効な手段だと気付きまして。召喚モンスターと友人たちで知恵を出し合って難攻不落……は無理だとしても攻城戦の手段が無い相手にメタを貼れる感じで、というのが一つ」
「一つ、と言うと?」
訝しむ舘林さんに勿体ぶって
「あるじゃないですか、緊急に城が必要になる事態が「対スタンピードかっ!!??」
「君は……そこまで見越してあの城を……?」
「そっちは流石に後付けが強いんですが。あったら便利だと思いません?ゲートからPOPしたモンスターを十字砲火(クロスファイア)出来る城塞とか」
「だから城壁が星型なのか。門が一つなのは……」
「展開時はゲートの逆側に門を設置して、増援・救援物資・近隣の避難民の受け入れに使えればと」
「ほう……これは良さそうだ。私の方で持ち帰って異常空間対策局に話をさせて貰っても良いかな?」
「どーぞどーぞ。基本の設計図はこちらになりますのでどうぞ持って行ってください。改善・改良点のご指摘はいつでもお待ちしております。
ついでにもし宜しければ今日の性能試験にも参加しませんか?ライフルの銃撃だけだと物足りないと思っていたんですよ……」
試験項目が多い方が思わぬ不具合とか見つかるかもしれないしね!
まぁ、流石に防衛軍の正式装備の火力を叩きつけて来るとは思えんが……
「それでしたら個人所有の重火器を試してみてもよろしいでしょうか?興味がありますので」
「銃火器ですか!ええ、是非ともお願いします!」
そうして持ち出されてきたのが神橋君のパニッシャーのライフルを初め、個人用携行バズーカとか、テクニカル車載の重機関銃とか、迫撃砲とか。
外壁は傷ついたが、壁としての機能は維持していた。我ながら思っていたより堅固な物を作ってしまっていたようだ。
作ったのは飲んだくれ共だが。
ヒゲオヤジ共は外壁付けの物見櫓の上で銃器を見て随分と騒いでいたが、試験終了後は、被弾・破損個所を見て検証を始めていた。
改善案がいくつか出たようで、反映後にまた試してみてほしいと言ってきた。
「ところで小野麗尾君、あの壁に使われている木材なんだが……」
「すいません。それに関しては今はまだあまり情報を出したくないので。近々判ると思いますので今はご勘弁を」
「そうか。いや、何となく推測は付くんだが……」
やはり見る人が見ればって所か。長く隠し通せはしないだろうし、予定通り、原料に関しては今日査定に出してみるか。
「それでじゃな、あの若いのと交渉して銃ってやつをいくつか分けてもらえんかのう?ほら、ワシ等の仲間内での試しも必要じゃし」
もっともらしい事を言っているが、本音は銃に興味津々なのだろう。いかん、こいつ等に銃火器等与えた日には何を作ってくるか全く判らん!
こっちだと銃器は所持に資格が必要な事を伝え、諦めさせようとしたのだが、
「ええい!こっちは何じゃい!酒もダメ、銃もダメと!金か!金がありゃええんか!
坊!仕事じゃ!金稼げる仕事をはよ回すんじゃ!」
金があっても資格は買えない……買えない、よね?
それよりも気になる発言が…
「異議あり!!!」
「な、何じゃ急に大声出しおって!」
「ルドルフ、今酒もダメとか言っていたが、それはどういうことだ?こないだの仕事の報酬分をもう飲み切ったとか言うのか!?」
「ぐ、ぐうううう。ウウウウウウウウウウウウ、ウアアアアアアアアア、アアアアアアアアアアア!!!!!」
突如狂った様に喚いて、壁に掴みかかったと思うと、
「TENGUじゃ、TENGUの仕業じゃ!!!全部TENGUが悪いんじゃああああああ!!!!!」
壁に頭を打ち付け始めた。
「落ち着け、ルドルフ!!何でもかんでも天狗の仕業にするんじゃない!」
この後防具の性能試験も控えているのに面倒な!
「何じゃ、あのTENGUっちゅう干し肉は……あんな物がツマミにあったらいくらおビール様といえど瞬殺に決まっておるわ……!」
天狗じゃなくてTENGUか!白須等酒店でイチオシ扱いでお勧めされたんで箱買いして渡したんだがこの分だとそっちももう無いな。
「取り敢えず、今日もダンジョン行くし、その時の”仕事”分の報酬は渡すから」
「ふん、ならええわい。ほれ、次は”コンペ”じゃったか。はよやるぞい」
ゲートの前まで歩いて、
「ああ、そんじゃ待機組呼んで来て」
「ここの片付けは最後でいいんじゃったかの?」
「ああ、万が一にも跳弾出て人に当たったら不味いし」
そして村の待機組が試し用の防具の備え付けを終わらせる頃には、いつの間にか百人近くのギャラリーが。
「あの、舘林さん。こちらはご同僚の方々で……?」
「ええ、先程の耐用試験から興味津々でしたので試験への協力を条件に見学者を募った所、少しばかり大所帯になりまして」
現役防衛部隊一個中隊、追加入りましたー
思い思いの銃火器と……装甲車!?ゴッツイ砲塔付いてるけど!!!??
「舘林さん、アレ……」
装甲車を指さしながら問いかけた俺に、
「ああ、お気になさらず。部隊に配備されているものではなく、隊員が趣味で自費購入したものですから!」
国民の皆様の血税は1円たりとも無駄遣いされませんよ、と良い笑顔で言うが。
違う。そうじゃない。
「坊!アレは金出せば買えるんか!?」
「仕事じゃ、ワシ等に仕事を!」
ご覧ください。こちらが明日から本気出すとか抜かしてた呑兵衛共の言い分です。
「舘林さん。アレの購入ルートと、運用に必要な免許は……」
「聞いたか、皆の者!?坊が買う気になってくれたぞ!!??」
買わないよ?
「「「「「ウオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!」」」」」
「「「「「ボ~ン!ボ~ン!ボ~ン!」」」」」
「ワシャ信じておったぞ、坊なら、それでも坊ならワシ等の期待に応えてくれると!!!」
「酒代切り詰めて購入資金の積立するけど、協力してくれるよね?」
「「「「「Boooooooooo!Boooooooooo!Boooooooooo!Boooooooooo!Boooooooooo!」」」」」
「ところで、コンペはもう始めても?」
「ああ、お待たせしました。神橋く~ん!右のやつから頭、顔、胸、胴、腕、脚の順で撃って行ってー」
「判りました!それでは始めますね!」
備えつけられた防具を撃ち始めた神橋君と、避弾用の防壁の覗き穴から様子を確認するギャラリー達
「ふむ、一領目から完全に弾を防いでいるな……」
「コンペへの参加にあたり、必須仕様の一つに鉄弦張りのクロスボウを防げること、としましたからね。ライフル弾も何とか防げているようで何よりです。とはいえ、いくつかはダメだったようですが」
ぶち抜かれた防具が出る度に、それを制作しただろうドワーフの悲鳴や叫び声が響き渡る。
「終わりましたよ、小野麗尾君」
「お疲れ様、神橋君。今日使った弾薬費は後日請求書くれれば清算するから」
「弾薬費はバカにならないので有難いんですが、いいんですか?」
「うん、今日のはウチの飲んだくれ共にも良い経験になったし。あ、舘林さんお待たせしました。皆さんお好きな獲物で気になったのを撃って貰って構いませんので」
「良いのかね!?」
「ええ、最後にパ~ッと騒ぐのがお祭り騒ぎの流儀ってやつでしょう?跳弾に気を付けてくださいね」
「全員、聞いた通りだ!事故・怪我等以ての外!節度を忘れず撃ちまくれ!!!」
「「「「「Fooooooooooooo!!!!!」」」」」
狂乱の祭りの後で。
夕暮れの中、、いまだに魘される十文字君、消費した弾薬の費用に顔を青ざめさせる防衛隊員の皆様を後目に、
、原型を留めていた防具を仮採用として、着用テスト並びにランニング・運動による可動域の確認テストとしてダンジョンに体を引きずる俺。今日は何があっても行かねばならぬ。
そして辿り着いた森林エリア。再びドワーフ達を呼び出す。
「坊。仕事かのう?」
「ああ、ここの木々の伐採を頼む。それと今回のダンジョンは鉱脈ありそうかな?」
「う~ん。鉱脈は無さそうじゃの。原木は今回も材木加工しておくのかの?」
「いや、今回は未加工で。原木でも商品になるか確認しておきたいからね」
そう。今日の最大の目的は、防具のコンペでもなく、防衛軍への売り込みでもない。
商品サンプル・原料と在庫の確保である!小野麗尾城の建築の関連情報として調査した時に近年の材木価格の高騰に目を付けた俺は、手近な所で確保できる木材として、ダンジョン産の木材を市場に持ち込めないか企んだのである!?
何故ならば……
お金、欲しいからね!
忘れもしない、呪われし聖バレンティヌスのナンチャラデー。
去年はチョコ1つ(母製)のみ貰う慎ましやかなナンチャラデーが、今年は文章先生と毎日先輩からも貰えるかなー、とテンションやや右肩上がりで登校した俺に地獄の装いで襲来してきたのだ!!!
理由はアレだ、忌まわしき二つ名”ブス専”と優勝賞金三百万円。賞金は実質商品券なんだが、欲に目が眩んだ化生共には理解が出来なかったようで、世にも恐ろしい局所的なスタンピードに襲われた俺は、何度小野麗尾城に引き籠ろうかと……
後で鍵留からミス翌亜琉ランキングアンダー10(鍵留調べ)のコンプリートおめでとうございますぞ、
というショートメールが贈られてきた時は、F〇ck you……と一言だけ返信したが
僕は悪くない
ともあれ、金だ。この深い心の傷を癒すべく銭こ稼いでオラ、トーキョーさ出て、ジュクハラやらザギンのクラブとかそういう場所でマブイチャンネーとオールナイトフィーバーするだ!
小野麗尾城の建材として耐久性・対火性・防弾性能まで実証できた高級木材として世界中にお届けできればそりゃあもうウハウハである。
気になるのはこんなチート木材が今まで世に出回らなかった理由だが。
心の傷の瘡蓋を掻き毟りつつ、ボス討伐完了。
ボスエリアも森林エリアだったので、伐採伐採、と。帰還用出口の先にある鑑定・買取所に加工済みの材木と未加工の原木を持ち込むと受付のお姉さんが、
「申し訳ございませんが、こちらは直ちの査定が致しかねますので、後日冒険者証にご連絡させて頂ければと存じます」
買取価格が設定されていないのは事前の調べで承知しているので、
「判りました。それでは連絡お待ちしております」
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