コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ダンジョン内部はダンジョンの主であるワイトキングによって、徹底的な変更が行われていた。
かつては整備された直線の通路だったが、現在は薄暗く曲がりくねっていて、岩肌が剥き出しの壁が続き床もゴツゴツしており歩き辛いものになっている。
更に様々な種類のアンデッド並びにトラップが巧妙に配置されており、挑むもの達を迎え撃たんとしていた。
尚、これらの配置や変更にはシャーリィも深く関わっておりそれ故に嫌らしさが満載のダンジョンとなっていた。シャーリィ曰く楽しかったとのこと。
そんなダンジョンに挑むのはキッド率いる一派十人とシスターカテリナの十二人である。五人ずつ前後に分かれて、中心にカテリナとキッドを配置して薄暗い通路を歩いていた。
「随分と入り組んでるじゃないか。足下も悪いし、視界も最悪だな。こんなダンジョン始めてだ」
キッドは溜め息交じりにぼやく。実際ダンジョン内部は薄暗く各自が持参したランタンの灯りが頼りとなっていた。
「貴方はダンジョンに入った経験があるのですか?」
「まあ、何度かな。それでもこんなダンジョンは覚えがないな。シスターはどうだい?」
「私もいくつか潜ったことはありますよ」
「だろうな、落ち着いてる。と言うか、重武装だなぁ」
「そうですか?」
愛用のMP40短機関銃を肩に下げて腰にはリボルバーと短剣を下げ、更に背には槍まで背負っている。
「それでよく動けるな」
「どれも見た目ほど重くはありませんよ。槍も短い手槍ですからね」
平然と歩くカテリナは淡々と答える。
隙がない、しばらく様子を見るか。キッドはそう思いダンジョンを突き進んだ。
カテリナです。ダンジョンに侵入して三十分が経過しました。今現在まで魔物には遭遇していませんが、薄暗く視界が悪い通路が延々と続くのは精神的にうんざりするものがあります。
それに床は岩肌そのままで非常に歩き辛く、相手が嫌がることをとことんやるシャーリィらしい手法だと逆に感心しました。これではマトモな戦闘など無理ですね。
さてキッド達ですが、キッド本人は経験があるのか冷静に周囲を警戒しています。しかし前後を囲む部下達は落ち着かない様子。明らかに慣れていません。危機感も薄い。
となれば最大の脅威はキッドだけ。さて、どう殺すか迷いますね。
シャーリィの話では数々のトラップとアンデッドが配置されており、アンデッドに関しては私を攻撃しないそうですが、安心は出来ません。最大限の警戒を維持したまま進むこと更に三十分。いきなり周囲が明るくなりました。
「なんだ?」
「キッドさん!あれを見てくれ!」
視線の先にあるのは……おやおや、金銀財宝の山ではありませんか。まさに一攫千金のチャンス、そして明らかに怪しい。
「待て!近付くな!」
「何でだよ!?これがあれば一生遊んで暮らせるぜ!」
「大金持ちだ!」
二人が無警戒に近付いていきます。
さて、シャーリィはどんなトラップを用意したのでしょうか。そう思い周囲を警戒しつつ眺めていると急にガスが噴き出して二人を包み込みます。
「言わんこっちゃない!大丈夫か!?」
キッドが声を荒げると、ガスが晴れていきます。随分と早いのは、ワイトキングの魔術によるものでしょうか。
そして……全くあの娘は。何てもの見せるんですか。夕食が食べられなくなりそうです。何故ならば。
「ぁっ……ぁぁぁぁ…!」
「たっ…助け……ぇぇっ…!!」
噴き出したガスは硫酸だったみたいですね。それもかなりの濃度。その結果はご覧の通り全身が溶けて無惨な姿となった二人。
「ひぃいいいっっ!!」
悲鳴が響きます。気持ちは分かりますよ。こんなの見せられたら悲鳴も挙げたくなります。
至近距離で見てしまった私も夕食の心配をする程度の惨劇が広がっているのですから。
「何があっても迂闊に近付くな!ダンジョンは油断したら死ぬ場所だぞ!」
「俺はもう嫌だ!抜けさせてもらう!」
「おい待て!」
一人が踵を返して来た道を走り始めましたが。
「うわぁあああっ!!!」
いきなり床が開いてまっ逆さまに落ちていきました。誰かが逃げ出すのを見越して用意しましたね、シャーリィ。あの娘の教育を間違えたでしょうか。
「落ちた!?」
「うっ!?」
落ちた先には無数の棘が乱立しており、哀れ落ちたものは串刺しとなりました。
「落ち着け!分かったろう?冷静さを欠いた奴から死んでいくんだ!」
キッドが鼓舞しますが、立て続けの惨劇で明らかに士気は落ちましたね。これでまだアンデッドが出てきていないのだから、恐れ入りますよ。
「先に進みましょうか。ここで立ち止まる道理はありません。彼らを無駄死させたくはないでしょう?」
まあ実際には無駄死になんですけどね。
「そうだな……」
キッドが答えますが、他のもの達は嫌そうです。
「私が先頭を行きましょうか?」
明らかに士気が落ちたキッド達を見ながら提案してみます。ここで引き返すなんて言われたら困りますからね。
「いや、それには及ばん。このまま行くぞ」
「そうですか」
強情なことで。ちなみに金銀財宝の山はまるで幻のように消えてしまいました。やはり偽物でしたか。これは先が思いやられますね。
「周囲の警戒を厳にしてください。足元はもちろん、奇妙なものには最大限の警戒を」
「シスターの言う通りだ。慎重に進むぞ」
「「「へい」」」
「キッド、最後尾を任せてください。後ろを警戒しなくて済むでしょう」
「良いのか?危険もあるが」
「どこにいても危険ですよ。最後尾だろうと最前列だろうと変わりません」
「じゃあ頼めるか?」
私が逃げる可能性を考えないのか。まあ、逃げるつもりはありません。後ろから撃たれたくはありませんからね。
「任されました」
私は最後尾に移動しておっかなびっくり……おっと。
ヒュンッッッと後ろから矢が飛来したので首を傾けると、私の髪を掠めた矢は目の前に居た男の後頭部に突き刺さり……おやまあ。
「ぐべっ!?」
勢いを喪わない矢によって頭を千切れて壁に突き刺さります。危なっ!髪が痛むじゃないですか。これは帰ったら説教ですね、シャーリィ。
「ひっ!ひぃいいいっっ!!」
「キッドさん!アルベルトがぁあっ!!」
「っ!!シスター!今のは!?」
「後ろから矢が飛来しました。申し訳ございません、自分の身を護ることで精一杯で彼を助けられませんでした」
首を喪った胴体が血飛沫を挙げながら倒れます。
「そうかっっ!!」
これで早くも四人が脱落。アンデッドが出ていない状態でこれです。先が楽しみですね。
恐慌状態に陥るキッド達を見ながら、カテリナはうっすらと笑みを浮かべるのだった。