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「何なのこれ! 周りの人たちは何も反応しないし動いていない! なんで、みんな目元だけが暗いの!」
私の胸にも何とも言えない恐怖が、ざわざわと膨れ上がってくるのを感じた。けれど、勇気を持って辺りを見回す。目の辺りが暗い人々は何も反応をせず、それどころか身動き一つしていなかった。
「大丈夫。恵……」
スラリとした女性の方は、青い顔で恵と呼んだ小柄の女性を気遣う。彼女も声が震えていた。
「何だよこれ!」
私はこの異変で、すっかり混乱し立ち上がろうとした。私の心を恐怖が襲う。
「待って、動かないで!」
スラリとした方の女性が、急にしっかりした声で叫んだ。
私の頭は恐怖で一杯になりそうだったが、その一言で何とか意志の力で抑え込むことに成功し、元通りに座席に座った。
「これって、何なんだ!」
「解らないわ! けれど、今は動かない方がいいわ!」
「どうして!?」
私は震える体を極力抑え、自然に力がこもった目でスラリとした方を睨んだ。
「睨まないで! 落ち着いて! 私には感じるの。今、動いたら駄目だと……」
落ち着いた声色で、スラリとした女性が青い顔ながら言った。
今度は訝しい気持ちが胸に膨らむ。
「私は、呉林 真理。あなたは」
「赤羽 晶」
私は訝しい気持ちを声にだした。
「私、呪い(まじない)をやっているの。大学生よ。何か話していましょう。怖さが薄くなるわ」
「俺はエコールって会社で、アルバイトをしているフリーターだ」
私は努めて平静な声にして話した。けれど、体は正直で震えが止まらなかった。
「この子は、安浦 恵。同じ大学の友達なの」
呉林の声は少し震えてはいるが、それでも私よりはだいぶましな方だった。安浦といわれた子を宥めながら代わりに紹介してくれた。
「どうしてこうなったんだ?」
私は少し詰問気味に言ってしまう。
「解らないわ。でも、動くと良くないっていうのは解るの。いや、感じるの。とても。」
呉林は泣きじゃくる友人の頭を撫でながら、正面の手摺りにつかまっている人々を見つめる。それは、どこか遠い別のところを見ている風だ。