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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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真夜中の静寂が部屋を満たす中、調教の儀式を耐え抜いたノスフェラトゥは、主の長椅子の前に正座し、両手を膝の上に綺麗に揃えていた。
荒くなりがちな呼吸を懸命に制御し、許可なく主の体温を貪ることもせず、ただじっと床の一点を見つめて待つ。
かつて世界を傲然と見下ろしていた吸血鬼が、今やただ一人の主の「評価」を待つ無力な存在として、完璧な静従を保っている。
スペクターは長椅子に深く腰掛け、その完璧に統制された玩具の姿を、赤いシルクハットの陰から満足げに見つめていた。
「よく頑張ったね、ノスフェラトゥ。今夜の君は、本当に私の言う通りの『良い子』だった」
頭上から降ってきたのは、冷徹な拒絶ではなく、すべてを許容するような至上の宥恕(ゆうじょ)を含んだ低い声。
その一言が耳に届いた瞬間、ノスフェラトゥの背筋を甘い戦慄が駆け抜け、張り詰めていた緊張が歓喜へと反転した。
スペクターはゆっくりと右手を持ち上げ、白手袋の端を口元で軽く咥え、滑らかに引き抜く。
露わになったのは、支配者の気品を宿した、長い指先。
スペクターはその指の腹を自らの唇へと寄せ、ごく自然な動作で、己の牙をその皮膚へと突き立てた。
わずかに滲み出る、主の鮮烈な血。それは普通の人間のものではなく、魔術的な悦楽と、ノスフェラトゥの魂を永遠に縛り付けるための甘美な毒(蜜)を含んだ、特異な色彩を帯びている。
「おいで。ご褒美の時間だ」
差し出された熱い指先。その先端に光る一滴の赤を見た瞬間、ノスフェラトゥの瞳孔が狂おしく散大した。
しかし、彼は決して獣のように飛びかかりはしない。
それをすれば、この至高の瞬間が即座に罰へと変わることを、その身体が恐怖と快感で理解しているからだ。
ノスフェラトゥは膝行(しっこう)してスペクターの太ももの間に身体を滑り込ませ、下から主を見上げるようにして、そっとその指先を唇で迎え入れた。
「――っ、……ん、……ぅ」
舌の先が主の指先に触れ、そこに宿る「極上の甘み」が口腔に広がった瞬間、ノスフェラトゥの脳裏は一瞬で真っ白な閃光に塗りつぶされた。
それは、いかなる人間の生き血を吸ったときよりも濃厚で、細胞の一つ一つが歓喜の悲鳴を上げるほどの暴力的かつ致死的な甘美さ。
スペクターの体温と、彼自身の存在そのものが、凝縮された雫となってノスフェラトゥの喉を潤していく。
「どうだい? 私の言うことを聞いて、大人しくしていた甲斐があっただろう?」
スペクターはノスフェラトゥの口内に指をさらに深く割り込ませ、湿った粘膜をじっくりとなぞりながら、怪物の牙の感触を楽しんでいる。
ノスフェラトゥは、喉を鳴らしながら主の指を深く、深く吸い上げた。
吸血鬼としての本能的な飢えを満たすためではない。
これは、主から与えられる「生」の証を、自らの肉体に刻み込むための儀式。
甘美な血が胃に落ちるたび、彼の身体は内側から熱く焼け付くような恍惚に支配され、下腹部が狂ったように疼き出す。
「あ……、ふ、う……っ、ん、は……っ」
唾液と主の血が混ざり合い、唇の端から一筋の細い糸を引いて顎へと流れ落ちる。
どれほど汚されようとも、その卑屈な姿勢のままで、ノスフェラトゥは縋るように主の手首を両手で包み込み、指先から与えられる蜜を最後の一滴まで貪欲に吸い尽くそうとした。
「本当に、私なしでは生きていけない身体になってしまったね」
引き抜かれた主の指先を惜しむように、ノスフェラトゥは虚ろな瞳で熱い吐息を漏らし、ただ次の「良い子の夜」を待ち望むのだった。