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加瀬は、遠い昔の記憶を、半ば強引に思い返した、南スーダン・ジェバ市郊外で、国連職員と通訳、そして摂津を乗せた車が反政府組織の攻撃を受けた。国連職員は重傷、通訳は頭を撃ち抜かれて即死し、
摂津は、銃弾が脊椎を貫通して意識不明の重体となった。
現地の病院へと担ぎ込まれた摂津は、10日後の深夜に静かに息を引き取った。
当時、自衛隊の宿営地には連日迫撃砲が撃ち込まれ、日本国内のマスコミはその事だけを一斉に報じ続けていた為、国内世論を気にした防衛省は、 摂津の死はあってはならない事故として、関係する一切の記録は廃棄するよう命じた。
ただひとつの真実を除いて。
「摂津真はマラリアに感染していた疑いがある」
これは、担当医師の証言だった。
現地の自衛隊から報告を受けた防衛省は、当時の日本政府に忖度して、隊員の死はマラリアによるものとした。
多額の補償金と名誉の殉職、そして改ざんされた死亡診断書に、遺族達は納得する他なかった。
その事実を知った加瀬は、幾度も上官に抗議した。
「我々はいったい!何に命を懸けているんだ!教えてください!我々は亡霊ですか!」
墜落する精神と肉体は臨界寸前だった。
その頃に知り合った防衛省の事務官が倉敷史郎で、しばらくして活動家の上念を紹介された。
ある時、3人は気がすむまで呑んで朝まで語り合った。
その1回限りの呑みの席での言葉が印象的だった。
「いつまで敗戦国なんだこの国は!」
と、上念は涙ながらに訴えていた。
「いつかこの国を変えてやろう!」
倉敷の瞳に決意を感じた。
「愛国と友情、そして摂津真に!」
加瀬の音頭で、再びグラスが重なった。
ワインの色が、車の座席にこびり付いた血の色と重なる。
加瀬は、そこに摂津の微笑みが見えた気がした。