「ミルシェ、町の様子は?」
「奥の方に多数の人間が捕まっていますわ。こんな地下に町が広がっているのも初めて見ましたけれど、武器を取り上げている割に、敵の数は多くありませんわね……」
「ミルシェは初めてだろうけど、ここは盗賊を生業としている連中が暮らしている町だ。だが悪い連中じゃない」
レイウルムをよく知るのはこの場にいないルティだけになる。シーニャは剣士だけには心を開いたようだが、人に対しての警戒心は健在だ。
「ウウゥ、やっつけてやるのだ」
「合図を出すまで我慢だぞ、シーニャ」
「ウ、ウニャ」
そうなるとミルシェが適任か。人質救出と突破、そこからの不意打ちで問題無いはずだ。
「――それで、この町の人間とはどういう関係が?」
「ルティもおれも世話になった人たちだ。盗賊スキルもここで得られている」
「盗賊……? へぇ。それは興味深いものがありますわね。フフ……」
ミルシェに興味を持たせれば多分真面目に動いてくれる。そうなるとここの説明が必要か。
まずは人質と敵の位置を探る。
「なるほど……」
建物部分はほとんどが住居になるが、武器を磨く為の小屋もある。ここから最小範囲スキャンをした感じでは、建物内に人の気配は無い。
恐らく下手な動きをさせないように人質を一か所に集めているはずだ。人質の数に反して確かに敵の総数は少ない。
「まだなのだ? アック」
「全く、虎娘は辛抱が足りませんのね。アックさまは今、探っている状態。大人しく待っていれば?」
「お前こそ黙れなのだ」
実力がそこそこある奴らだけを残して、海底遺跡とやらに人を割いているとみた。人質の中にはあの時の剣士《デミリス》の反応があるが、その兄のジオラスが見当たらない。
案内役として駆り出されている――といったところだろう。そうなると、ここにいる奴らよりも力が強い奴が従えている感じか。
「ミルシェ。水属性の防御魔法を見える範囲……そうだな、建物を全て覆うつもりで放ってくれ!」
「相変わらず厳しいことを……。いいですわ、力も多少戻りましたし何とかしますわ」
「それと、出来れば……」
「人質に近い敵をひきつけておいてくれ。なのでしょう?」
「ああ」
さすがミルシェだ。理解が早くて助かる。
「よし、シーニャはおれと一緒に敵が固まっている所に突っ込むぞ!」
「全部やっつけていいのだ?」
「痛めつけてやれ!」
「ウニャッ!!」
人質を拘束している敵の中には魔法系の人間は見当たらない。小部屋の傭兵もそうだったがザームから来ている敵の中でも、特に魔力を必要としない者だけを送り込んで来た感じだ。
「……いいですわよっ! アックさま!」
合図と同時に、おれとシーニャは敵がまとまっている所に突っ込んだ。ミルシェの水魔法は守りに長けている。その特性を使い、限られた地下空間の天井部分からすっぽりと覆う範囲内で水の壁を展開した。
さらには人質に近い敵に対し、目を回すような混乱の効果も発揮させてくれた。その効果は絶大で、敵から怯えていた人質たちが一気に緊張を薄れさせている。
その様子を確かめつつ、一足先に突っ込んだシーニャが不意打ち攻撃を浴びせ始めた。
「ウウウゥッ!! 逃がさないのだ!」
シーニャの動きはとても素早かった。元々の動きよりも格段に早く、武器の構えをさせる間もなく一人、また一人と倒している。
地下都市はいくつか自然に出来た岩の柱があり、そこを利用して敵に襲い掛かっているようだ。爪攻撃を仕掛けるだけでも全滅出来そうな勢いがある。
シーニャに遅れること数秒後、見張りとして立っている数人に対し攻撃を開始。海底遺跡に近い位置に強い奴らを見張りに立てているようだが、数が少ない。
やはりほとんどがこの先の遺跡に向かっている。シーニャが倒しまくっているのは、慣れない武器を手にした雑魚が数十人ばかり。
「――て、敵襲か!?」
「ちぃっ、傭兵どもは何をしてやがった!」
ここにいるのは二、三人で、武器の形状を見る感じではランクの高い奴らのようだ。だがそれも大して意味を為さない。
「ハッハハハハハ!! おい、見ろよ? こいつの剣、錆びてやがるぜ?」
「じゃあ大した事ねえな!」
「こっちの武器はレアもんだしなぁ!! 余裕すぎるぜ」
錆びた剣のことを言われると思ったが、やはり見た目だけで判断する敵に強い奴はいなさそうだ。レアな武器だとして、どれくらい使えるのか試してもらうことにしよう。
「……大層な武器のようだが、それが通じるかどうか試してみたらどうだ?」
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