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のぞき穴からコンニチハ!
お久しぶりの隣人です。
そう、夜な夜な(いや、昼もだな)隣りの部屋に住むバカップルのイトナミを観察してバイトのストレスを発散している隣人であります。
ところが、ですよ。
最近ヘンタイメガネこと幾ヶ瀬が忙しいらしく、隣りの2人はイチャついてくれないのです。
こりゃもう、タイトルに偽りアリじゃねぇかと憤慨しているアタシ。
(タイトルって何のことだというツッコミは、この際ナシで願いたいです)
とにかくヘンタイメガネが忙しいらしい。
ベッドに入るなりムニャムニャ言って寝てしまう。
有夏チャンが優しくお布団でもかけてあげたら、覗いてるアタシとしてもまだ報われるんだが、さすが有夏チャン。決してブレない。
寝こけている幾ヶ瀬を見もせずにPS5に夢中だ。
これはアレだ。モンスターをハンティングする中毒性の高いゲームだ。
こっちはこっちで、別の意味で寝不足のようだ。
よもやのレスじゃねぇか。
隣りの2人のエロいイトナミを覗き見ることだけを生きがいにしているアタシにとって、これは実に不本意な日々。
バイトのストレスもたまる一方だよ。
おかげで発注を一ケタ間違えて、バイト先のお菓子屋には今「たけのこの里」が300ケースある。
「たけのこの里」が詰まった段ボール箱が倉庫の半分を占めているのだ。
そこは本当に店長よ、ゴメンナサイと思うんだけど、インケン店長から1週間以上怒られ続けているアタシも可哀想だと同情してほしいところだよ。
せめてものお詫びとして、今日アタシは「たけのこの里」を60箱買って帰った。
美味しいよ「たけのこの里」は。それは確かだよ。
でもこれで今日のバイト代がトンじまったよ……。
そんな折も折。
たけのこの重さにヒィヒィ言ってコーポ中崎の階段を登ったところで、アタシは遭遇した。
アタシ以上にグロッキー状態の幾ヶ瀬に。
ノゾキの結果、ヤツが15連勤ということは知っていたが、これはかなりお疲れのご様子。
顔色が何やらドス黒い。
眼鏡も斜めにズレているし、目もうつろだ。
「こ、こんにちは……いや、こんばんはですかね?」
夕日のオレンジが消えていこうとしている空を見上げながら、アタシはこれでもちょっと気を遣っている。
だが幾ヶ瀬の奴、今日は挨拶してもこっちを見もしない。
いつも返事はないんだが、蔑んだような視線をくれるんだぜ、ヤツは。
「てんちょ……いつ死ぬのか……あいつ……」
幾ヶ瀬のヤツ、虚ろな顔して自店の店長を呪う言葉を発していやがる。
さすがにカワイソウに思ったアタシは、ピチピチ女子のパワーで癒してやろうと、きゅるんとヤツを見上げてやった。
「あのぅ、たけのこの里、食べますかぁ?」
「ウザッ。キモッ」
小さな声はしっかり聞こえた。
チクショウ。分かっちゃいたけど、あらためて傷つくな。直球じゃねぇか。
まぁ、しょうがねぇか。アタシの目も血走ってるもんな。
ヘンタイメガネ、金に汚い性格だからアタシが差し出した「たけのこの里」だけはしっかり奪って自室に向かう。
転べばいいんだ、骨折しやがれと背中に向けて念を放っていたら、ヤツめ、突然立ち止まった。
ヤバイ、心の声が漏れていたか?
「い、いえ、スミマセン。骨折は大袈裟です。ウソです」
幾ヶ瀬のヤツ、プルプルと肩を震わせているじゃないか。
ああ、面倒臭ぇヤツだなぁ。
しょうがない。たけのこの里をもう3つやって、機嫌を直してもらうとするか──なんて考えたアタシの前で、奴は突然「ウォォーー!」と叫んだ。
それは、こじらせた中二病が能力に目覚めたと思いこんだ瞬間のような壮絶な叫びだった。
そして、奴はこう言い放ったのだ。
「俺は仕事を辞める! そして、YouTuberになる!」
イヤだ、何その宣言!?
「ちょっ、ちょっと落ち着きましょうよ。たしかにYouTuberは、子どもが将来就きたい職業ランキングで近年上位に浮上してきた注目の職種ですよ。でも、誰もが食べていけるわけじゃないし、人気商売だから流行とオリジナリティの両方に気を遣って配信の計画を立てなくちゃいけないから大変だって言いますよ。自由だからこそコンプライアンスにも配慮する必要があって、簡単に手を出すような世界じゃないって話ですよ」
ふぅ。アタシとしたことが、理路整然とヘンタイメガネを嗜めてしまったぜ。
実はアタシもバイトがしんどいとき、YouTuberを夢見たよ。
「YouTuber_なり方」ってググったらこんなふうに書いてあって、たちまち心折れたんだけどな。
しかし、ヘンタイメガネは意外と頑固だった。
「なる! YouTuberになるったらなる!」
コーポ中崎の狭い廊下で、夕日の残照を浴びながら何故だかアタシに向かって、ヤツはYouTuberデビューを宣言した。