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「俺がこの船に乗るのは1年間の約束だったはずだ」
「……あぁ」
「そしてキッド、お前はそれを了承したはずだよな」
「…………あぁ」
「だから俺は今日この船を降りる。……降りるんだよ。俺は」
ぎゅうっとキッドが俺を抱きしめて離してくれない。
「離してくれ~……。今日中には町の方に行って宿とか取りてぇんだよ……」
キッドの腕の中から逃げようとするがやはりビクともしない。俺の抵抗虚しく抱き締める力は強くなる一方。なんなんだよマジで~……。
「そんなに俺が嫌いか」
「はぁ? そういうんじゃねえって。俺はただ男が恋愛対象として見れないだけだ。ただの友達なら普通に好きだし、一緒にいる分には楽しいと思うけど」
そう。ただ俺は男が恋愛対象として見れないというだけでキッド自体は別にそんなに嫌いではないのだ。
俺の言葉を聞いてキッドは腕の力を弱める。ようやく解放されるかと思ったその時、ぐいっと引き寄せられた。
「キッ――」
「ジェイデン」
キッドが俺の名前を呼んだ。次に聞こえたのはリップ音。
キスされたと理解するのに数秒かかった。この1年間、そういうのは全部許可制だったし、唇にキスすることは最初以来なかったから油断していた。キッドが俺から離れると同時に俺の顔は一気に熱くなる。
「おまっ、お前……ッ、何すんだよ!?!?」
「俺は絶対ェにお前のことをダチとして見れねぇ。好きなんだよ。愛してる」
「…っぐぅ、ンなこと言われても俺は折れないからな……」
ぐしゃぐしゃっとキッドの頭を撫でる。
「……でもこれはやる」
「紙?」
「ビブルカードっていうんだ。これがあれば俺がいる場所に来れる。千切った紙が俺の方に向かうんだ」
紙切れを見ながら、キッドが目元を緩ませる。
「すぐに会いに来ようとすんなよ」
「わかった」
「仮に会いに来たとしても、俺に変な期待とかすんなよ」
「あァ」
キッドの部屋から出る。甲板の方にはクルーが大集結している。いや俺1年間しかいなかったのにこんな盛大に送り出されていいのか? なんかちょっと恥ずかしいんだけど……。
「それじゃあ1年間ありがとうございました」
俺がそう言うと、あちこちから「マジでお頭に落ちねぇとか…」「すげぇな…」とか聞こえてくる。あーもう、うるせえな!! 俺はノーマルなんだよ!!!!
「はぁ」
「お前がいなくなると少し静かになるな」
「あはは、そんなことないと思うけどな……」
キラーさんに苦笑いで返す。
「じゃあな、キッド。またどこかで」
そう言って俺は船を降りた。