「当時は余命二年って言われたんだよね、俺」
「そうだったね、本当に嘘であってほしかっ た」
「でもまだ一年しか使ってへんよ、俺の余命」
「まだまだこれから延びるかもしれないよ、アニキはきっと奇跡を起こすよ」
「まろ」
「ん?」
「明日から俺がいく場所、どんな場所かわかっとるよね」
「それは……」
「俺があの場所にいくっていうことは、もうまろと同じ日常に帰ってくることができないってことなんよ」
詳しく話を聞くことはできなかったけれど、彼が明日から暮らす場所は病を患う人が最期を迎える場所らしい。
痛みや苦しみを取り除き、安らかに余生を送る場所だと彼から説明を受けた。
「病気がみつかった頃には、いつ命が亡くなってもおかしくないような状態だったみたい。
ここまで生きていられたのが既に奇跡だよ。残されるまろは寂しいと思うけどね」
「寂しいけど…..怖くないのかなって思う」
「怖くはないよ、それなりに覚悟はできとるし。でも強いていうなら……もう少し短く余命宣言してほしかったよな」
「え…….」
「余命三ヶ月です」って言われたらさ、余命を超えて生きられる時間が長いように感じるから」
「確かに……アニキが言うなら、そうなのかもね」
言葉を交わしている間にも、彼は俺からの手紙を束ねて鞄へ詰めていく手を止めない。
付き合って一年目の頃の旅行先での写真や、海岸で拾った貝殻を壊さぬように包んでいく。
すこしずつ片付いていく彼の机の上をみる度に、その時が迫っていることを感じる。
よくある『この木の葉が全て落ちたら命の終わりを迎える』ことと、同じような感覚に陥
る。
「ねえ、まろ」
「どうしたの?」
「俺ね、たまに夜に独りで考え事をするんよ」
「…….そうなんだ」
「そこでいつも思うんよ。もしかしたらまろは、俺が病気になることを知ってたんじゃないかって」
「それは、どうしてか聞いてもいい?」
「まろが俺にくれた手紙、俺がまろの隣からいなくなっても寂しくないようにってくれたものなのかもしれないって都合のいいことを考えちゃうんよね」
もし本当に、彼が俺の隣からいなくなることを知っていたら俺は何ができていただろう。
ある日病気がつかって、命の終わりを知って、その先で彼の最期すら手を繋いでいられないことを知っていたとしたら、俺は彼女とどんな日常を過ごしていただろう。
「そうなのかもしれんな」
「え……」
「アニキが寂しくないように、俺が渡したものっていう意味では重なるんじゃないかな。俺は預言者じゃないから、気の利いた言葉を届けることはあまり得意じゃないけどね」
「まろにはそれ以上の優しさがあるからだよ、預言者は持ってないものを持ってる」
大切なものばかりかと思っていたけれど意外とガラクタも残っていたらしく、俺は何度か物の詰まったビニール袋を縛った。
彼は良くも強くも素直で、大切なものに触れる指とガラクタを掴む手ではあまりにも優しさに差があった。
変に飾らない、そして気取らない、そういうところも好きだったりする
コメント
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ホスピス行きのあにき…神✨