結婚報告から帰国してすぐ、婚姻届を役所に提出した想と結葉だ。
結葉がキッチンで美鳥と話している間に、想は茂雄から婚姻届の証人欄にサインをもらっていた。
想が茂雄の前に差し出した婚姻届の証人欄は、既に一方が想の父・山波公宣の署名・捺印で埋まっていたらしい。
お茶を出した際に書類を見せられた美鳥が、想の用意周到さに感心していたのを思い出す。
一方結葉は、想が結葉と子供が出来ても不思議ではない行為をしたことを結葉以上に気にしていて、少しでも早く籍を入れたがっているのを知っていたから。
凄く想ちゃんらしいなと思った。
お互いの両親からのゴーサインを受けて、結葉は束の間戻った旧姓――小林――から、晴れて子供の頃から夢にまで見た想の妻〝山波結葉〟になった。
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式は、入籍後すぐに頼んでおいた結婚指輪が出来上がるのを待って、山波家の面々とともに結葉の両親がいるニューヨークを来訪する形で、海外挙式にさせてもらった想と結葉だ。
海外での式が決まった時、結葉は芹と相談して、ハムスター達を皆、同じペットホテルに預けることにしたのだけれど。
挙式の後、そのまま米国内を移動して新婚旅行もすることになっていた結葉は、芹達より一週間ばかり帰国が遅くなる日程になっていた。
雪日だけ長く預けることになるのが心配で、「どうしよう」と眉根を寄せたら、自分の帰国後は芹が責任を持って我が子らと一緒に、雪日の面倒も見てくれると約束してくれてホッと胸を撫で下ろしたのだ。
想と二人。ネットの情報や結葉の両親からのアドバイスを元に「ああでもない、こうでもない」と検討して決めた、『セント・マーティンズ教会』で迫力満点のゴスペルの歌声に包まれながら、家族だけでのこぢんまりとした式を挙げて……式後、皆と別れてフロリダ州オーランド行きの直行便飛行機に乗って『ウォルト・ディズニー・ワールド』に向かった。
偉央との新婚旅行では沖縄への国内旅行だったので、結葉にとっても初めての海外でのハネムーン。
前に両親へ離婚と結婚の報告をしにアメリカへ渡った時と違って、そこからは想と二人きりでじっくり七日間。
四つのテーマパーク――東京ディズニーランドのモデルになったシンデレラ城をシンボルとする【マジックキングダム・パーク】、本物の動物が暮らすジャングル・サバンナエリアと、アトラクションエリアを有する【ディズニー・アニマルキングダム】、映画をテーマにした【ディズニー・ハリウッドスタジオ】、未来の生活と未来旅行がテーマの【エプコット】)からなるディズニーワールドで、たっぷり夢のような新婚気分を味わった。
想と子供の頃のようにアトラクションで思う様はしゃげたのは凄く楽しかったし、夜になればディズニーワールド直営ホテルで毎晩想に甘く激しく愛し尽くされる、蕩けるような夫婦時間を過ごせたのが本当に幸せだった。
予定通りなら旅行に行くまでには生理が来ているはずの結葉である。
これは旅行中にきちゃうかな? 嫌だなぁと心配していたけれど、環境変化のためか遅れてくれて想と結ばれない夜は一夜もなかった。
こんなに周期が乱れたら、いつもならそのことを気にして、余計ホルモンバランスを崩してしまう結葉だったけれど、今回は楽しくて生理のこと自体を忘れて、いつになくゆったりとした気持ちで過ごすことが出来たのは幸いだったかも知れない。
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新婚旅行中は日本にはないチップのシステムに戸惑ったりもしたけれど、さすがに初日でその辺は慣れた結葉と想だ。
ホテルの部屋を出る際に、清掃員へチップと一緒に飴を置いておいたりすると、それもちゃんとなくなっていて、代わりに「Thank you」というメモ書きが残されていたりするのが、結葉は堪らなく嬉しかった。
想は出掛けるたびにチップと一緒に何を置こうかな?と楽しそうにソワソワとお菓子を買い求める結葉を「本当お前は夢の国に来てもブレねぇな」と温かく見守ってくれて、
「英語、よく分かんなくても何とかなるものだねー」
そんな事を言い合いながら、一週間があっと言う間に過ぎてしまった。
滞在中、味噌汁やお醤油や出汁の味が堪らなく恋しくなって、自分達は根っからの日本人だ!と実感しまくった以外、本当に何不自由なく笑い合えた楽しい新婚旅行だった。
さすがに帰国後は時差ボケと相まってクタクタになった想と結葉だったけれど、念願のお味噌汁を飲んでホッと出来たのも束の間。
帰ってからもうひとつ【大仕事】が待っていたので、実際のところそんなにはのんびりしていられなかった。