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𓂃 𓈒𓏸𓂃 𓈒𓏸𓂃 𓈒𓏸𓂃 𓈒𓏸𓂃 𓈒𓏸𓂃 𓈒𓏸莉犬
部屋には俺とるぅとくんの2人だけになった。
莉犬「そろそろ、帰りなよ」
莉犬「仕事もあるんでしょ?」
莉犬「俺なんかに時間使わないでよ」
るぅと「僕がしたいことをしてるんですよ」
莉犬「ふーん、」
莉犬「変わってるね、るぅとくんって」
るぅと「なんで、そう思うんですか?」
莉犬「うーん…なんでだろ、笑 」
俺はいつだって一番が良かった。
成績も顔もなんでも、全部において1番になりたかった。
でもそんな夢は到底叶うはずもなかった。
自分が使える全ての時間を使って、勉強をしていた。
部活をしている時は、誰よりも輝けるように時間を使った。
自分の心になんて時間は一切使わなかった。
それが正解だと心の中で感じていたのだろう。
だからこそ、るぅとくんが俺にそこまでこだわって、助けたい。
そう思うことに違和感を抱いてしまう。
昔は、皆の悩みを聞いて解決したりアドバイスをするのが好きだった。
自分の中で俺はそれが得意だと思っていた。
でも、現実それだけが世界なわけではなかった。
俺が見ていた世界は、世界の中でのちっぽけな欠片でしかなくて。
俺の存在も、この世界の小さい欠片でしかない。
所詮いてもいなくても、誰にも気付かれないだろう存在だ。
るぅと「…」
るぅと「僕、お菓子持ってきたんです、!」
莉犬「へぇ、」
るぅと「食べますか?」
るぅと「それとも、やめときますか?」
莉犬「どっちでもいいよ」
るぅと「その返事が一番困るんです笑」
莉犬「るぅとくんが決めて」
るぅと「じゃあ、半分こしましょう!」
るぅと「食べれなかったら僕が食べます!」
るぅと「食べれるぶん食べてください!」
るぅと「はい、これ!」
るぅとくんが差し出してきたのは、ピンク色と茶色の焼き菓子だった。
るぅと「こっちはいちごで…」
るぅと「こっちはチョコ味です!」
その焼き菓子は、少し崩れていて、なんだか少しブサイクだった。
るぅと「どっちにしますか?」
莉犬「なんでもいいよ」
るぅと「はぁ、」
るぅと「じゃあ、いちご食べましょ!」
ため息をつくものだから、呆れられてしまったのかと心配したけれど彼はすぐにいつもどうりの顔をしていた。
るぅと「はい、どうぞ!」
彼は、焼き菓子を半分にして俺に渡す。
莉犬「ありがと、」
その焼き菓子が目に映る。
その焼き菓子は、顔が付いていてちょっとおバカそうで、でもなんだか優しくて…。
そんな顔をしていた。
ひつじのような形をしていたものだから、ころちゃんやジェル君が頭をよぎる。
莉犬「ッ…」
るぅと「莉犬?食べましょ?」
莉犬「あ、ごめん、」
さっきまで悪を感じなかったその焼き菓子の顔は今ではまるで悪魔の顔のように見えた。
莉犬「がぶっ、」
顔の方から焼き菓子に食らいついた。
焼き菓子はほんのり甘くて、ふわふわしていて、いつまでも食べたくなるような味をしていた。
るぅと「どう?食べれそう?」
彼は首を傾げて、優しく笑っていた。
莉犬「うん、大丈夫、食べれるよ」
るぅと「良かった、笑」
るぅと「どう?美味しい?」
少し不安そうな目でこちらを見ている。
莉犬「うん、美味しいよ」
相当心配だったのだろうか、るぅとくんはそっと胸を撫で下ろしていた。
るぅと「良かった、、!」
るぅと「実はそれ…」
彼は何故か口を噤んだ。
彼が言わなくたって、何が言いたいのか俺にはわかってしまう。
でも俺は、悪い子だから。
分かっていても、分からないふりをする。
莉犬「どうしたの、?」
るぅと「あ、ううんッ!なんでもない!笑」
彼は少し困った顔をして、首を振っていた。
莉犬「美味しいよ、すっごく美味しい、」
るぅと「ほんと!」
彼は目をキラキラさせてこちらを見ている。
莉犬「うん、本当だよ」
るぅと「じゃあ、また持ってくる!」
るぅと「でも、元気じゃないとダメだからね」
彼は笑っていた。
でも、その笑顔はどこか真面目な目をしていた。
莉犬「うん、元気じゃなきゃね、」
るぅと「頑張れ、莉犬」
るぅと「莉犬のことは置いてかないから」
るぅと「ずっと待ってる」
るぅと「1年でも10年でもずーっと、」
莉犬「100年たっても?」
少しおかしな質問をする。
るぅと「そうだよ、100年たってもずーっと」
彼は真剣な顔をして、こちらを見ていた。
莉犬「じゃあ、100年たっても」
莉犬「そのお菓子食べていたいな、」
昔はできなかった未来の話。
るぅと「いいよ、食べよ?」
るぅと「僕がなんどだって渡すよ」
莉犬「ふふ、楽しみ、笑」
るぅと「僕、そろそろ帰ろうかなぁ」
莉犬「うん、またね、!」
るぅと「うん!またね莉犬!」
るぅと「ぎゅー」
莉犬「へへ、ありがと、笑」
そうやって彼は去っていった。
まるで、明日も明後日もいるのか心配そうな。
そんな目をしていた。
人の目は怖い。
人の目は刃物みたいだ。
笑っていても、優しく見えても、
その奥で何を考えているのか分からない。
ただ視線がぶつかるだけで、
心臓が跳ねて、逃げたくなる。
誰も何も言っていないのに、
責められている気がする。
「間違ってる」「変だ」「嫌い」
そんな言葉が、勝手に目の奥から突き刺さってくる。
人の目は、底が見えない闇みたいだ。
吸い込まれたら最後、
戻ってこれない気がしてしまう。
俺は最初っから生まれること自体が、間違いだった。
生まれたときに与えられた名前も、
呼ばれるたびに痛む「女の子」という響きも、
本当の自分とは違う。
鏡の中には、
自分じゃない誰かが笑っていて、
服を着替えるたびに、
「違う」と心が叫ぶ。
「女の子らしく」
「普通は」
「当たり前」
そんな言葉が、
体に鎖みたいに絡みついてくる。
本当はただ――
ありのままの自分でありたいだけなのに。
胸の奥にある声は、誰にも聞いてもらえない。
だから今日も笑ってごまかす。
夜になると、
体の輪郭ごと、ぜんぶ剥ぎ取ってしまいたくなるから。
あのお菓子のように世界も甘く優しくなればいいのに。
そんな願いは誰にも知られずにいつかは消えてなくなっていく。
俺がいる、この場所は。
あまりにも甘すぎるような。
そんな気がした。
コメント
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いやっほぅ、投稿ありがとうございますっっ!! なんかほわぁぁんとしてますねぇ… 次回も楽しみにしてます!